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来週の相場見通し(24/1/15~1/19)①

1.はじめに

今年の年初のマーケットは、分かりやすい点と、非常に難解な点の2つが同時に起こっている。分かりやすい点は、欧米債券市場や為替相場だ。米国株も不可解な点もあるものの、そう難しくはない。難解な値動きをしているのは日本株だ。今回は、こうした市場の状況を整理していきたい。

2.欧米金利について

昨年末の金利低下は、クリスマス休暇、年末休暇という市場が閑散な中で、24年のFRBの利下げを過剰に織り込む形で、ほぼ一方向に低下した。しかし、年が変われば、市場参加者が増加すると共に企業の起債も活発化する。FRBメンバーも市場の過剰な利下げ期待に水を差す発言をしてくる。ゆえに、まずは昨年の金利低下の小幅な巻き戻しからスタートするのは想定通りであり、何ら違和感はない。本来なら米長期金利は4.2%程度くらいまで戻しても不思議ではないと考えていたが、ダラス連銀のローガン総裁から、「量的引き締め(QT)の減額の検討」発言が出たことで、米長期金利は早くも上がりにくくなった。ちなみに、このローガン総裁とNY連銀のウイリアムズ総裁は、FRBのバランスシート議論におけるキーパーソンだ。また、今週は3年債、10年債、30年債の入札が実施されたが、いずれも底堅かった。昨年とは金利水準が大きく変化している状況で、投資家から旺盛な需要があったことは、米国債投資への安心感をもたらしている。私は、米金利については2年金利が4%へ、5年~10年の金利は全て3.5%を目指して低下していくと見込んでいるが、この点について修正はない。FRB関連では、昨年3月の金融不安時に「時限的措置」として導入されたBTFP(バンク・ターム・ファシリティ・プログラム)が、予定通り1年で終了する方向性だ。下のチャートは、BTFPの残高の推移であるが、金融環境は安定しているにもかかわらず、借入残高は増加していることが分かる。

(BTFP 残高 単位百万ドル)

どうもモラルハザードが起こっていると推察されている。下のチャートは、FRBの準備預金に付利される金利であるIORBと、BTFPの借り入れ金利との差である。ちなみにBTFPの借り入れ金利は、「1年物OIS+10bp」と決まっている。IORBは、昨年7月の最後のFRBの利上げで5.4%に上昇してからは変わっていない中で、昨年後半からの金利低下を受けて、1年物OISは大きく低下してきたことから、この両者間のスプレッドは拡大してきた。
つまり、金融機関においいては、BTFP経由で資金を借り入れ、FRBの準備預金に資金を置いておくだけで、60bpもの利鞘を得られることになるのだ。もちろん、それはモラルハザードであるので、金融機関がそうした取引を積極的に行っているわけではないものの、お金に色はないため、結局は効率的な資金繰りを志向すると、そのような結果になってしまう。BTFPの残高上昇スピードが加速している時期と、この利鞘が拡大している時期はマッチしてしまう。要するに、BTFPは全体としては役割を終えたということだ。

(IORBとBTFP金利の差)

それでは、BTFPが終了すると、市場は混乱するのだろうか?私はそうは思わない。BTFPが終了するということは、3月11日以降に新たなBTFPを申請することが出来なくなるということであり、既存のBTFPによる借り入れを繰り上げて返済するという意味ではない。BTFPは個別の金融機関が、最大1年の期間の借り入れを、昨年の3月以降にそれぞれ行っているため、返済期限はバラバラである。つまり、分散されていると予想されるため、BTFPの期限に伴い、金融機関が短期金融市場での資金調達に殺到して、短期金利が急騰するようなことは起こらないだろう。但し、個別の脆弱な銀行においては、個別事象として、資金繰りが苦しくなる等の事態に陥る可能性はある。しかし、金融システム全体へ影響することはないだろう。むしろ、このBTFPという緊急時のプログラムの実績を作ったことで、今後何らかの金融不安が発生した際には、FRBは即座にこのプログラムを復活することができる。FRBは、また1つ強力になったということだ。

次にQTの終了についてであるが、下のチャートはFRBのバランスシートの推移である。リーマンショック前は1兆ドル前後であった。それがリーマンショック後の量的緩和政策により、4兆ドル台まで膨れ上がっていく。このQE政策は14年10月に終了し、その後はバランスシートの残高規模を維持しつつ15年12月に利上げを開始した。こうした中で、17年10月から19年9月までQTを実施し、バランスシートの縮小に励んだ。FRBはこのQTについて、当初は2021年から2022年程度まで継続して、一段とバランスシートを削減する予定であった。しかし、世界経済の減速や株価の急落等もあり、2019年3月のFOMCにおいて、それまで月額300億ドルで減らしていた国債の償還上限を5月以降は150億ドルに減らし、9月にはゼロとすることを決めたのだ。つまり、今後想定されるQTについても、QTが終了する時期よりも半年以上は先に決定され、段階的にQTが縮小されていくと見込まれる

(FRBのバランスシート)

つまり、QTが完全にいつ終了するかは明確ではないものの、QTの縮小に対する議論はかなり早い段階でFOMCで議論され、その縮小計画が発表される可能性が高いということだ。これは、米国債投資家にとっては、今年の懸念事項である米国債の増発への懸念を和らげてくる材料となる。バンカメなどは、3月にもQT縮小が発表され、夏にはQTが終了するという大胆な予想をしているほどだ。

欧州金利も反転上昇しているが、こちらも特段理由のない需給的な動きだ。12月のドイツのインフレ率の上昇を指摘する向きもあるものの、12月総合インフレ率(前年同月比)は確かに上昇したが、これは22年12月にドイツ政府が実施した光熱費支援措置に関連した一時的なものだ。(ベース効果)

(ドイツ HICP 前月比)

上のチャートのように、前月比伸び率は僅かに0.2%であることや、サービスインフレも12月には0.2%低下して、前年比3.2%となり、16カ月ぶりの低水準となったことを鑑みると、インフレの鈍化基調に変わりはない。

(ドイツ サービスインフレ 前年比)

次回の1月データではベース効果が剥落し、EU基準、国内基準ともに前年比2.5%未満に一気に低下することも予想される。もうほとんど目標達成レベルである。もちろん、欧州でも失業率が低く、賃金交渉がタイト化している。従って、ECB内には欧州の交渉賃金の動向を確認してから、政策判断をすべきとの声は強い。しかし、今年になってポルトガル連銀のセンテノ総裁からは、「利下げについて、5月まで待つ必要はない」との発言が飛び出た。12月の欧州のCPIを見た上での、相当なハト派発言である。欧州金利が来月、低下基調を強めると、米長期金利も連動して3.5%を目指す展開になるかもしれない。

(欧州 交渉賃金)

3.米国株について

米国株は、昨年の米金利低下を受けて、ここもとはセクターローテーションが盛んだった。要するに昨年の主役であるマグニフィセント・セブンが頭打ちになる中で、幅広く他のセクターが物色されていた。米金利の低下により、幅広い銘柄が恩恵を受けるのであるから、当然の動きであろう。
しかし、ここ最近は再び、ハイテク株が選好される展開に戻ってきているようだ。そうした中で、米国の決算発表が始まった。
まず、私が言いたいことは、今回の米国決算発表は、市場環境としては、かなり厳しいということだ。但し、テクノロジーは別だ。
何故か?まず下のチャートを見てほしい。23年第4四半期のEPSの伸びについての予想の変化である。これはリフィニティブのものであるが、昨年10月の8%弱の成長から、足元では4%台まで下方修正されている。セクターで見ると、テクノロジーはむしろ上方修正されているが、ヘルスケアや素材などは、かなり下方修正が激しいことが分かる。

だから、決算は厳しいのか?そうではない。米国企業の決算発表は、いつも決算発表前に下方修正される。そして、実際の決算では7割から8割の企業が事前予想を上回るというのがパターンだ。ゆえに、決算発表前にEPSが下方修正されているのは、いつも通りだ。
いつもと異なるのは、昨年10月から足元までの実際の株価動向である。下のチャートは、まずはS&P500である。昨年10月から大きく上昇してきた。

(S&P500)

下のチャートは、S&P500の業種別テクノロジーだ。テクノロジーに関しては、EPSも上方修正されている中で、株価が上昇してきた。

(S&P テクノロジー)

下のチャートはヘルスケアである。EPSは昨年10月の+2%超から、足元では▲19%も2割も下方修正されてきた。しかし、株価はほとんど調整もなく、急激に上昇している。カリフォルニアでJPMのヘルスケア・カンファレンスが行われいることも、株価が強い要因とも言われているが、昨年2月のJPMのヘルスケアカンファレンスも、かなり大きな話題であったものの、下図の緑色のように株価をサポートしなかった。足元のヘルスケア分野には、昨年後半のM&Aの加速や、今年の金利低下への期待、AIとの融合が織り込まれているのだろう。決算発表後に株価が耐えられるのだろうか。

(S&P ヘルスケア)

最後に素材である。素材も昨年の10月以降に急激に状してきた。この間にEPS予想は▲7%超から、▲21%に大きく下方修正されている。流石に今年に入ってからは、調整が入っているようだが、こちらも決算発表に耐えられるのかが心配である。

(S&P 素材)

このように決算発表を迎える市場環境としては、昨年10月以降に株価が上がり過ぎているのである。特にセクターによっては、急激に割高になっており、これに打ち勝つためには、非常に強いガイダンスが要求される。
一方で、マグニフィセント・セブンについては、あまり心配していない。それどころが、やはり24年を俯瞰したときには、マグニフィセント・セブンやAI関連の半導体株になかなか弱気になることは難しい。
下の表は、マグニフィセントセブンの23年の騰落率、過去5年間の騰落率、そして直近のPER、コロナ前の2019年末のPER、5年平均のPERである。いずれも12カ月先予想PERである。

これは色んなところで指摘されていることだが、まずはエヌビディアに驚かされるだろう。昨年の株価は2.4倍になり、過去5年では1300%を超える上昇となっている。凄まじい。しかし、割高なのかと言われると、むしろ驚くほど割安と言わざるを得ない状況なのだ。足元の27倍というPERは2019年末よりも低いし、過去5年の平均もかなり下回っている。株価がこれだけ上昇したのに、割安なのである。何故、割安に放置されているのだろうか?それは後述する。エヌビディア以外の銘柄についても、マイクロソフトとアップル以外は、過去5年と比較しても割安になっている。メタは平均レベルだ。
生成AIブームで騒がれているほど、こうした銘柄は割高ではないということが確認できるだろう。

次に下の表は、これまでテーマになったような株価をピックアップしたものだ。例えばネットフリックスやズームなどのコロナの巣ごもり需要銘柄だ。足元のPERはかなり割安なレベルにある。
イーライリリーは言うまでもなく、肥満薬で大ブレイクしている銘柄だ。過去5年で400%以上の上昇である。予想PERも過去平均の2倍近くまで上がっている。足元の利益に対して、今後の「Zepbound(ゼップバウンド)」や「マンジャロ」への期待が相当に高いことが分かる。一方でファイザーは苦しんでいる。株価は下落しているものの、依然として割安にもなっていないようだ。
脱炭素やESG、バイデン政権の気候変動対策で注目されたファーストソーラやアレイテクノロジーなどの株価も、かなり調整されて割安な水準で推移している。ブームは終わったようだ。
そして半導体のAMDとインテルであるが、過去5年間の株価では明暗がはっきりしている。そしてAMDについては、これだけ上昇しているものの、それほど割高でもない。一方でインテルは株価は低迷してきたのに、割高という状況になっている。これらの表からは、色々なことが読み取れるだろう。

ちなみに、現在ノリノリの日本株はどうだろうか?これらの主力銘柄は、それほど無理なく、割高にならずにここまで上昇してきたことが分かる。日本株については、後ほど取り上げる。

さて、話を戻そう。エヌビディアについてである。AI時代のチャンピオンとも呼ばれる同社の株価は確かに上昇しているものの、PERはむしろ割安になっている。どうして、こんなことが起こるのだろうか?
私は、次のように考えている。

生成AIが登場して、その凄さは認識しているものの、多くの人が同時にAIへの不安や懐疑的なものを感じているのではないだろうか?下のような不安である。ブームじゃないの?新興EVメーカーもブームで沸いたけど、弾けたよね。ドットコムバブルに似ているのでは?
そうした様々な懐疑的な見方が、エヌビディアの株価をバブル化するのを防止しているのだろう。

しかし、このAIへの懐疑的な見方は、まだ早過ぎるというのが私の見解だ。実際にAIが今後、どうなるのかは様々なシナリオがあるだろう。それに伴い、不安が現実化するかもしれない。しかし、それはまだまだ先の話である。下図のように、そういう不安が顕在化する前に、AIのカンブリア紀的なステージが存在することを忘れるべきではない。
まずマグニフィセント・セブンは社運をかけて、この分野への投資を加速させている。AIへの明確な戦略が見えないのは、アップルくらいだが、アップルもさすがに今年のどこかでは、何らかの発表をすることだろう。

そして、24年以降は生成AIの更なる発展をサポートするインフラがどんどん改善されていく。これはもう既定路線である。エヌビディアのH100からH200の投入等については以前も取り上げたが、AMDもエヌビディアのH100に対抗するようなMI300シリーズの新製品を既に発表した。この2社の戦いは面白い。インテルは、この2社に最先端ではついていけていないが、逆にエヌビディアのH100のような最先端分野を必要としない顧客層向けに「ガウディ」シリーズを提供している。どれほど伸びるかに注目したい。

それだけではない。AI時代に必須である積層DRAMであるHBM(広帯域メモリー)も、23年後半から次々に新たな動きが発表されている。HBMは現在、第4世代のHBM3が最先端であるが、とにかく収益性が高く、従来のDRAMの10倍とも言われており、最大手のSKハイニクス、それを追いかけるサムスン、マイクロンの3社は、この分野の設備投資と技術革新に邁進している。このHBMの供給により、エヌビディアのH100やH200の量産が可能になってくる。
更に生成AIは、クラウドサーバーから、パソコンやスマホの端末向けへ拡大していく流れである。AMDは既に高性能パソコンにAI半導体を内蔵して販売しているほか、グーグルもスマホ端末に内蔵し、インターネット経由でクラウドに飛ばなくても、生成AIの利用を可能にするとのことだ。エッジコンピューティングという言葉が流行した時期があったが、いよいよ生成AIにより、そういう方向性が明確化してきた。パソコンやスマホの需要にも新たな波が押し寄せそうだ。また、マイクロソフトが、CoPilotに対応するために30年ぶりにキーボードを刷新するとの報道もあった。これも無視できない動きである。こうしたことが起こるのは、まさにこれからなのだ。
AIへの不安や懐疑の前に、まずこうした爆発的にAIが日常に入り込んでいくステージが起こることは確定路線であり、このインパクトを侮るべきではないというのが私の見解である。そして、このストーリーは、あまり米国の景気の影響を受けないという点も強調しておきたい。

ちょっと長くなりそうなので、後半の日本株や来週のポイントは第二弾として、明日出したいと思います。
良い週末を!

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