日本語の格助詞の使い分けと語順による伝わるニュアンスの違い
助詞の役割
日本で生まれ育ち日本語を使い慣れた日本人は助詞を無意識に使っており、多くの場合は正しく使えているがたまに「ん?」と思うような日本語を使う人がいるのも事実だ。
会話や文章というものは極論を言えば名詞や動詞だけでも通じるといえば通じるのだが、それは同時に大きな誤解が生じる可能性も秘めている。
例えば
東京( )ニューヨーク( )遠い。
という一文があった場合に、想定される解釈は複数ある。
東京(も)ニューヨーク(も)遠い。
東京(は)ニューヨーク(より)遠い。
東京(から)ニューヨーク(は)遠い。
パターンを挙げ始めればきりがないが、上の3つの文章を見てそれぞれ伝わるニュアンスが異なることに気づくはずだ。
すなわち会話や文章を正確に相手に伝えるために必須となるのが助詞という存在である。
次の英文の括弧に適切な前置詞(in/on/at のいずれか)を入れなさい。
My partner is( )lunch now.
Please operate the machine following the instructions( )the screen.
Michael Jackson was born( )Gary, Indiana( )August 29, 1958.
私たちが英語を使うときこんなふうに接置詞(前置詞や後置詞)で悩むように、日本語が母語ではない人が日本語を学習する際に大きな難関として立ちはだかるのが助詞の使い方だ。
大辞泉によると、助詞とはこのように定義されている。
それでは具体的に見ていくとしよう。
助詞の種類
格助詞
体言または体言に準ずるもの(名詞、代名詞、数詞)に付いて、それが文中で他の語とどんな関係にあるかを示す助詞。
「が」「の」「を」「に」「へ」「と」「より」「から」「で」など。
副助詞
種々の語に付き、それらの語にある意味を添えて、副詞のように下の用言(動詞、形容詞、形容動詞)や活用連語を修飾・限定する類の助詞。
「さえ」「まで」「ばかり」「だけ」「ほど」「くらい(ぐらい)」「など」「やら」など。
係助詞
文中にあって、述語と関係し合っている語に付属して、その陳述に影響を及ぼし、また、文末について、文の成立を助ける働きをする助詞。
口語には「は」「も」「こそ」「さえ」「しか」「しも」「でも」などがあり、文語には「は」「も」「ぞ」「なむ」「や」「か」「こそ」がある。
接続助詞
用言や用言に準ずるものに付いて、下にくる用言や用言に準ずるものに続け、前後の文(または文節)の意味上の関係を示す助詞。
「ば」「と」「ても(でも)」「けれど(けれども)」「が」「のに」「ので」「から」「し」「て(で)」など。
終助詞
種々の語に付き、文の終わりにあってその文を完結させ、希望・禁止・詠嘆・感動・強意などの意を添える助詞。
「か(かい)」「かしら」「な」「ぞ」「ぜ」「とも」「の」「わ」「や」など。
間投助詞
文中または文末の文節に付いて、語調を整え、感動・余情・強調などの意を添える助詞。
「な(なあ)」「ね(ねえ)」「さ」など。
並立助詞(並列助詞)
種々の語に付いて、2つ以上の言葉を対等の関係で接続するのに用いられる。
「と」「や」「か」「の」「に」など、多くが格助詞・副助詞・係助詞・接続助詞からの転用。
「月と星と」「松や杉や」「左か右か」「あんなのこんなの」「肉に魚に」
準体助詞
種々の語に付いてある意味を添え、それの付いた語句を全体として体言と同じ働きをもつものとする。
「の」や「から」など、多くが格助詞からの転用。
「昨日のがない」「綺麗なのが見たい」「行くのをやめた」
「20kgからの制限」「そうなったからにはもう引けない」「着いてからが問題だ」
格助詞の使い分け
上記のように助詞というものはかなりの数が存在するため、今回は最も使用頻度が高い格助詞の使い分けについて確認しておこう。
「が」=主語をつくる(主格)
■ 主語
蝶が舞う。
サムギョプサルが食べたい。(対象)
「の」=部分主語、連体修飾語、並立関係、体言代用(属格)
「の」には多くの用法がある。
■ 部分の主語
複文の成分中の主語を表す場合に用いられ、「が」に置き換えてもさほど意味は変わらない。
君の言っていた本を買った。→君が言っていた本を買った。
彼は心の広い人だ。→彼は心が広い人だ。
■ 連体修飾語
「の」を含む文節は唯一、連体修飾語になることができる。
紫の花が咲いた。
■ 並立の関係
上記の並立助詞を参照。
■ 体言の代用
上記の準体助詞を参照。
「を」=連用修飾語(対格)
■ 連用修飾語
氷を入れる。(対象)
遊歩道を走る。(場所)
新宿駅を出発する。(起点)
「に」=連用修飾語(与格)
■ 連用修飾語
6時に起きる。(時間)
居酒屋に集まる。(場所)
東京駅に到着する。(帰着点)
ライブを見に行く。(目的)
弟に漫画を貸す。(相手)
茜色に染まる。(結果)
頭痛に苦しめられる。(原因/理由)
猫にそっくり。(比較)
■ 並立の関係
上記の並立助詞を参照。
「へ」=連用修飾語(方向)
■ 連用修飾語
北へ向かう。(方向)
ゴミ箱へ入れる。(帰着点)
先方へ連絡する。(相手)
「と」=連用修飾語(一緒に)
愛犬と散歩する。(相手)
彼は父親となった。(結果)
母と似ている。(比較)
「知りません」と答えた。(引用)
■ 並立の関係
上記の並立助詞を参照。
「から」=連用修飾語(始点)
■ 連用修飾語
今日から始める。(起点)
バターは牛乳からできている。(手段/材料)
寝不足から集中力に欠ける。(原因/理由)
「より」=連用修飾語(始点/比較)
■ 連用修飾語
本日より入社する。(起点)
数学より英語が得意だ。(比較)
忘れるよりほかにない。(限定)
「で」=連用修飾語(場所)
■ 連用修飾語
レストランで食事する。(場所)
水彩絵具で描く。(手段/材料)
寂しさで泣く。(原因/理由)
力ずくでつかみとる。(状態)
「まで」=連用修飾語(終点)
■ 連用修飾語
半分まで読み終わった。(帰着点)
語順で変わる要点
日本語は語順を入れ替えても会話や文章が成立しやすい言語だが、どのような語順で言っても同じ意味になるとは限らず、会話や文章から伝わるニュアンスも変化する。
夏休みにひとりでロサンゼルスへ行った。
基本的には文頭に持ってくる語句が最も強調したい部分になり、次にくる部分が次に強調したいこととなるため、この場合では「いつ行ったのか」を最も重要視し、次に「自分だけで行った」ということもやや強調していることになるが、この人は「どこへ行ったのか」はさほど重要視していないことになる。
ひとりで夏休みにロサンゼルスへ行った。
この場合は「自分だけで行った」ということを最も強調している。
ロサンゼルスへ夏休みにひとりで行った。
この場合は「どこへ行ったのか」をいちばん伝えたがっており、「自分だけで行った」ということはあまり主張していない。
私たちは無意識のうちにこの語順を使い分けているが、伝えたいことが明確である場合は意識的に使い分けると効果的だろう。
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