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【アメリカサイバー陰謀論・あとがき】アメリカという国の「自由」

※画像は「みんなのフォトギャラリー」からお借りしました。
※ 本作は、小説家になろうに転載しています(https://ncode.syosetu.com/n3671gm/)。

前話:
【アメリカサイバー陰謀論3】Tor犯罪者と当局との仁義なき戦い

 結局、Tor絡みのことが大半になってしまいましたが。ここまで米国におけるセキュリティ絡みの話題をいくつか拾ってみましたが、どう感じたでしょうか。私はこれらの話を知った時、こんなことを思いました。

――とてもアメリカらしい話だな、と。

 個人的にですが、何というか、アメリカから流れてくるインターネットセキュリティ関連の話って、アメリカ合衆国という国の性質をよく示してるのかな、なんて思うのです。


 アメリカ合衆国という国は、元々は植民地でした。そんな彼らが独立し、一つの国となる際に、「あらゆる政府は、国民の権利を守るために存在する。政府がそれが無しえなくなったときは、新しい政府を樹立すべきである」ということを高らかに謳いあげています。

 われわれは、以下の事実を自明のことと信じる。すなわち、すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているということ。こうした権利を確保するために、人々の間に政府が樹立され、政府は統治される者の合意に基づいて正当な権力を得る。そして、いかなる形態の政府であれ、政府がこれらの目的に反するようになったときには、人民には政府を改造または廃止し、新たな政府を樹立し、人民の安全と幸福をもたらす可能性が最も高いと思われる原理をその基盤とし、人民の安全と幸福をもたらす可能性が最も高いと思われる形の権力を組織する権利を有するということ、である。

独立宣言(1776 年)- American Center Japan より引用

 この理念は、現在においても有効なのだと思います。

――アメリカという国には、自分たちの政府が国民の権利を守れなくなったときには旧い政府を排して新たな政府による統治を選ぶ権利が国民にはある、そんな理念が今も生きているのではないか、そう私には感じられるのです。

 だからこそ、言論の自由のための技術が犯罪者に利用されたり、その犯罪者を取りしまるために犯罪者と同じような手法を取りながらも、その行動にはどこか芯があるように、私は感じられます。

 そしてそれは、国家だけではない、企業や非営利団体にも当てはまることなのかなと。

  ◇

 例えば、「脆弱性報奨金制度」と呼ばれる制度があります。一言で言うと、「脆弱性を報告してくれた人にはその内容に見合ったお金を支払うよ」と、そんな制度なのですが。

 これは、本来であれば犯罪を犯さない限り現金化できなかった脆弱性の情報を犯罪を犯さずに現金化することを可能とするような、いわば「正規ルート」のようなものを、企業側が準備をしたと言えることだと思います。

 製品やサービスを提供する企業が、その製品の脆弱性(特にエクスプロイトやセキュリティホールなど)に関する報告を外部の専門家や研究者から受け、その対価として報奨金を支払う制度。この制度を利用することで、開発者は一般のユーザーが気付く前にバグを発見し、対処できるため、広範囲に渡る可能性のあるインシデントを事前に防げる。MozillaやFacebook、Yahoo!、Google、マイクロソフト、日本ではサイボウズやピクシブ、LINEなど、多くのウェブサイトや組織、ソフトウェア開発者が導入している。

(エクスプロイト:攻撃に利用可能な脆弱性のこと)

脆弱性報奨金制度 - wikipedia より引用

 こういった制度を使って収入を得る人のことを「バグハンター」というらしいのですが、こういった制度は、「なんでそんなことを知ったのか」なんてことを言ってしまったら成り立たなくなってしまう類の制度だと思います。

 この施策によって、企業側は今まで知らなかった不具合を知ることができる上に、その不具合の情報が犯罪者の間で売買されることも防ぐことができる。とても有効な施策だと思います。
 なので、報告を受けた企業や第三者が変な勘繰りを入れたりするのはデメリットしかないと思います。ですがまあ、そんな「細かいこと」を気にしてこういう施策を打つことができない国だってあるでしょうし。それに比べるとね、遥かに筋の通ったことをしていると、私個人としては感じます。

……まあ、たとえ益のあることでも、本当に好き放題に攻撃されたら企業側も区別がつきませんし、それで本当に被害が出てしまったらたまったものではありません。その辺りは、互いに情報を共有しあって、ちゃんとしたルールや節度を持って行うべきだとも思いますが。

  ◇

 結局は価値観と、物事をどんな角度から見るかと、そんな話になるのでしょうね。「スパイ行為やハッキングは悪い」という観点で見ると、マイクロソフトの脆弱性をハッキングしたNSAは悪いということになる。でも、そのマイクロソフトも、実は自社製品の脆弱性の情報を外部から買っていて、その情報を有効に使っている訳です。

 Torのようなプライバシーを守るための技術を国が開発した、その技術を犯罪者が使い始めた、その犯罪者を捕らえるために今度は国がハッキングを始めた。

――これらは、一見すると皮肉を交えた笑い話に見えます。ですが、それぞれが目的を持って行動した結果ですし、その目的ははっきりしています。

 外部からのハッキングによって被害を被ったであろうマイクロソフトは、その外部からのハッキングを使って品質を高めています。NRL(アメリカ海軍調査研究所)によって作られたTorは「言論の自由を守るための技術」という目的を見出され、その価値は今も失われていません。だからこそ、今もボランティアによって保守運営がされているのだと思います。

 彼らが有益である限りにおいて、社会は彼らを受け入れられるでしょうし、受け入れられなくなったのなら、その役目を終えたということでしょう。その時は、より有益な新しい何かにとってかわられるのだと思います。そういった割り切りがアメリカという国にはあるのだと思います。

――国民にとって有益である限り政府は存続を許されるでしょうし、企業や非営利団体も認められる。そうで無くなれば消えていく。アメリカという国は日本と比べて、その辺りが極めてドライに出来ているのだと思います。

 まあ、マイクロソフトの脆弱性を盗まれたNSAはちょっと間抜けだと思いますけどね。それでも存続してますからね、きっと有益さが認められているのでしょう(笑)

  ◇

 日本という国において笑い話になるであろうこれらの話は、結局は価値観の違いからくる話なのだと思います。私には、これらの話は、アメリカという国の好ましい面として映っています。

――まあ、それはそれとして、面白い話だとも思ってますが。こんな文章を書いてしまうほどには(笑)

 まあ、国の数だけ価値観があって、それによってさまざまな文化が生まれる。その結果、いろんな笑い話も生まれると、きっとそんな程度の話なのかなと、そんな風に思います。

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