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第3回「マルミミゾウは何を考えている?」

研究者が「ここが一番面白い」と思う部分だけ、スライド1枚で楽しむ科学記事。あくまでも入り口だけど、出口が見える。そんなおいしい記事をよんでみたい。じゃあ書いてみよう。近しい方々の研究インタビューを、スライド1枚に書き起こす全5回の連載です。世界観が知りたい人は後書きコラムをお先にどうぞ。

今回は、京都大学理学研究科人類進化論研究室、博士課程3年の野本繭子さん。日本で唯一のマルミミゾウ研究者。アフリカで調査を行っている。

研究紹介

スライド2

生物はさまざまな形で周囲の環境と関わりを持ちながら生活している。もちろん人間もその絶妙なバランスを取り合う生態系の一部だ。何千万とも推定される生物種の「生活の法則」を解明し、生物同士の関係性を明らかにしようとする学問が「生態学」である。中でも人間によって密猟が繰り返されてきた"マルミミゾウ"というゾウと人間との関係を研究するのが彼女だ。

「マルミミゾウは何を考えて生きているのか」そんな問いを胸に、日本ではじめて、マルミミゾウにスポットライトを当てた。

①マルミミゾウの生活法則を探る
「マルミミゾウは何を考えて生きているのか」を知る第一歩は、その生活を探ることである。アフリカゾウの中でもよく知られるサバンナゾウは、主に木や草を食べる。対して、森に住むマルミミゾウは果実食を選択肢に持つゾウだ。果実は高栄養で良質な食料だが、草木と異なり、実る時期や場所を認識して移動しなければ食べられない。果物を食べるため、どんな個体が、いつどこへ移動しているのか?性別や体サイズ、子供の有無によって異なるであろう彼らの食生活には、マルミミゾウの思考が隠れているのである。

②マルミミゾウの食生活を調べるために
食生活を調べるために、マルミミゾウを観察したい。しかし、森に隠れるゾウを遠くから観察するのは難しく、警戒心の強いゾウに近づけば、鼻で放り投げられ命を落とすことすらある。そこで着目したのが、ゾウの糞。糞には食事履歴が詰まっている。ゾウの生活圏をひたすら直線上に歩き、糞を集める。その数や中身から、利用頻度が高い場所や、個体の特徴、食べたものを調べるのだ。

③ガボンでの生活
糞を調査するためには、マルミミゾウの生息地に赴く必要がある。そこで彼女は単身アフリカのガボン共和国に渡り、水道はなく電気も限られた環境で現地の村民と生活しながら調査を行っている。計1年5か月の調査期間、毎日平均10キロ歩き、200個以上の糞を採集して分析した。肉体的にも精神的にもハードだが、調べれば調べるほど、知りたいことが増えてくる。複雑な生物間のバランスへの探求心が、唯一無二の研究を生む原動力になっている。

あとがきコラム

長年、象牙目的の密猟被害で数を減らしてきたマルミミゾウ。日本が主な輸入先と知り、ゾウを人間から守りたいと考えた。しかし、現地で目の当たりにしたのは、ゾウが畑の作物を食べる害獣となっている現実だった。ゾウを保護する厳しい法律の下で、賢いゾウに効果的な対策を打つのは困難である。人間が食料難に陥っていたのだ。(かつては、村民にとってゾウも大事な食糧だったが、当然食べることも許されない。)
開発が進み、人間と動物の居住地域が混ざり合っているいま、
「マルミミゾウは何を考えて生きているのか」
それを知ることで、これからの人と動物の関係性のあり方を探りたい。現地での生活が、研究者の視点を変えた。彼女の研究が、同じ地球を棲みかとする生物間の関係という普遍的な問題に、新たな解決策を与えてくれるかもしれない。

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