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第4回 超新星爆発を元素合成から理解する

研究者が「ここが一番面白い」と思う部分だけ、スライド1枚で楽しむ科学記事。あくまでも入り口だけど、出口が見える。そんなおいしい記事をよんでみたい。じゃあ書いてみよう。近しい方々の研究インタビューを、スライド1枚に書き起こす全5回の連載です。世界観が知りたい人は後書きコラムをお先にどうぞ。

今回は、京都産業大学理学部の博士研究員の澤田涼さん。超新星爆発がなぜ起こるのかについて。今回は寄稿記事
「超新星爆発を元素合成から理解する。」

研究紹介

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重力崩壊型超新星爆発(以下、超新星)とは、重い星が寿命の最期に起こす壮絶な爆発現象です。一方で、現在の大型望遠鏡であれば1年に1000件以上観測することができるように、宇宙において超新星はポピュラーな現象です。しかし「どのようにして超新星爆発が起こるのか」その爆発メカニズムは、天文学の未解決問題とされています。

①超新星の爆発シナリオ「ニュートリノ駆動爆発モデル」
ではいまどこまで分かっているのか?超新星が爆発する物理機構(シナリオ)が、いくつか存在しており、いま最も支持されているシナリオは「ニュートリノ駆動爆発モデル(図左上)」と呼ばれています。このシナリオでは物理学を構成する”相互作用”が全て絡み合って爆発を起こすと考えられています。つまり、現在の理解では超新星の爆発機構には現代物理学のすべて詰まっているとも言えるのです。

②何が「未解決」なのか?
超新星の爆発機構が「未解決」と呼ばれる理由は、このような支持される爆発シナリオがあるにも関わらず、提言されてから80年経ってなお「スーパーコンピュータによるシミュレーション計算では爆発が再現できない」ところにあります。しかし!近年、コンピュータの性能向上により、遂に爆発を再現できるケースが生まれてきました。その結果によると、超新星爆発はこれまで考えられていたよりも"ゆっくりとした爆発"をすることが示唆されています。

③あらためて「未解決」である理解
では、「どのようにして超新星爆発が起こるのか」というこの問題は遂に解決した…かと思いきや、欠陥が存在することを示したのが僕の研究です。スーパーコンピュータの結果が"ゆっくりとした爆発"であったことに注目し、シンプルな物理モデルを作り「爆発時間と元素合成」の関係を導き出しました。その結果、その結果、スーパーコンピュータは爆発ダイナミクスしか計算していなかったのですが、"ゆっくりとした爆発"では超新星が観測よりも暗くなることを証明しました。我々はこの論文の最終文で、

”We rather suggest that there must be a key ingredient still missing in the ab initio simulations, which should lead to the rapid explosion.”
(スーパーコンピュータの計算は、早い爆発を再現するために必要な何かを見落としている)

と述べています。超新星の爆発機構には現代物理学のすべて詰まっているとも言えるこの問題が「未解決」に戻ることは、新たな物理の存在の可能性を示唆しています。つまりこの研究は、物理学にとって面白さが詰まった「フリダシに戻る研究」かな、と思っています。


後書きコラム

 スーパーコンピュータの計算をフリダシに戻した研究は、どんなすごい計算機を使って達成されたのだろうと思いきや、彼の研究道具は普通のノートPC1台だという。シンプルなモデルを立てればノートPCでもスーパーコンピュータに挑めてしまうということだ。思えば、高校物理で最初に物体の落下を計算したとき、空気抵抗は無視できると近似し単純化することで、落下という物理の本質が見えた。複雑な要素を取り込んで物理現象を計算するのも大事だが、本当に理解したい重要な部分のみを切り取ることが、物理の初歩であり根幹であり、面白さでもある。
 とはいえ、論理が重要視される科学の世界でも、研究者たちが積み上げたものをフリダシに戻すことは簡単ではない。超新星爆発のメカニズムという、科学好きなら誰でもわくわくしてしまうような重要な問題ならなおさら。それにもかかわらず「現代物理学のすべてが詰まっているモデルでも超新星爆発が説明できない」ことを淡々と示してしまえるのは、彼が本当に物理を好きだからだと思う。好きだから、率直で妥協しない姿勢を貫ける。ノートPCを使って彼が示したフリダシから、どんな新しい物理が展開するだろうか。科学者たちの物理への尽きない興味とたゆまぬ努力によって「破綻と再構築」が繰り返されるところもまた、物理学の面白さだ。

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