デュラム小麦のセモリナ
力強さとエレガンスの協奏曲。
きみの名は、人を惹きつけてやまない。
デュラム小麦のセモリナをご存じだろうか。冷凍パスタのパッケージの裏面で必ず見かけるあいつだ。下の写真は、今日のお昼に食べたオーマイの「具の衝撃 ボンゴレビアンコ」のパッケージ。やっぱり、いた。
先に答えを書くと、デュラム小麦はパスタに使われる小麦の品種で、セモリナは粗挽きのこと。パンやうどんに使われる小麦に比べてグルテンの弾力性が富んでいて、コシの強い食感がパスタにうってつけなんだそう。国内パスタの原材料の大半がこれ。多くがカナダかヨーロッパ産。
ちなみにイタリアでは、デュラム小麦のセモリナ以外を使ったものは法律上でパスタと認められない。ドイツのビール純粋令ばりの矜持だ。
前書きが長くなった。そんなデュラム小麦のセモリナ、名前がカッコよすぎると思うんだ。
初めて聞いたとき、高級イタリアンでしか使われないパスタだと思った。割と長いことそう思ってた。大学時代に彼女とデートしていたとき、「おっ、このズワイ蟹のペスカトーレ、デュラム小麦のセモリナだね。」みたいな世迷い言をほざかなくて本当によかった。
デュラム(durum)が強い。フランスの抒情詩「ローランの歌」に出てくる聖剣・デュランダル(Duandal)や、ローマ帝国の貴族の称号・デューク(Duke)の高尚な響きに似ているからだ。剣と古代ローマといえば剣闘士、すなわちグラディエイター(Gladiator)。重なる連想の濁音が、ダンディな力強さを醸し出す。
卑近な例でも、ドラクエⅥの強敵・デュラン、遊戯王カードをしていれば必ず叫ぶ「デュエル(決闘)!」など、中2病患者を惹き付ける要素には事欠かない。Wikipediaを見たら別名「マカロニコムギ」と書いてあったけど、絶望するほどに信じられないので見なかったことにする。
セモリナ(semolina)は優美だ。ヨーロッパ系の女性名に多いセシリア (Cecilia)やマリナ(Marina)を思わせる。どちらもローマ帝国の聖人の名前に由来していて、ロマンがある。古代文明への追憶が織りなす、儚い美しさに酔いしれてしまう。
ただ「セモリナ」じゃなくて「…のセモリナ」というのも見逃せない。フレンチによくある「オマール海老の冷製コンソメ」とか「特選国産牛フィレ肉とフォアグラのロースト」的な高級感が出るからだ。
メニューに「デュラム小麦のセモリナ 雲丹風味のクリームとキャビアを添えて」とか書いてあったら誰も疑わない。ただの雲丹クリームパスタなのに「これを2人に」とキメ顔で注文し、彼女には「デュラムの処女作、『ああセモリナ』って知ってる?」と尋ねて文学通を装う。この想像をする意味がわからない。
何より「デュラム」「小麦」「セモリナ」という3段構成がキャッチーすぎる。「デュラム小麦」だけで終わってしまいそうなものなのに、「…のセモリナ」と続くのを見た瞬間「…っあぇい!」みたいな変な声を出しながらつまずきそうになる。心がざわつく。
何かに音感が似てると思ったら「首都大学東京」だった。この春から「東京都立大学」に戻ったらしい。セモリナ小麦デュラム。そうなる日が来るかもしれない。この想像をする意味がわからない。
なんかよくわからないけどカッコいいって、いいよね。
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