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小説:おっきなヴィランときっかいな姫 4

#ポケモンSV #パルデア #グレンアルマ #ゲンガー #二次創作



 \前回までのあらすじっ!/

ここにあらすじ




 キルリアの細腕が、ナッツからもぎ取られる。キルリアの悲鳴、引き攣るような笑い声は廊下の向こうに消える━━きゃあぁ、と定番の悲鳴が周囲から上がる。

「ナッツ!出番だよ!」「ボウッ!!」
「(こそっ)体調は?」「(こそっ)んぶぅ…」

 よし。

ナッツは声援を受けつつ、ファンサービスも忘れず、ゲンガーがどこに向かったか…念力が行き先を探る。今朝…あれだけ食い下がったからには、ついでに財布をだいばくはつさせたからには、私も傍観者でいられない!

「バン、ブォン、グルマ!! カル、ボウ!!」

 ━━急げ!!
私も! ヒーローモードの決めポーズとかけ声に間髪入れずニトロチャージをぶっぱなした彼は、行き先がわかるように各所におにび(タイプ:エスパー)を点けてくれている。


「グルマーゥ!!」「ゲェェェッス!!」


 2匹の雄叫び。
向かった先は、大人数を抱え込める大講堂…!

「ナッツ!(ゲンガー!) 私も手伝う!」
「ぷん!」

遅れて駆けつけた私の呼びかけに、ナッツは力強く頷いた。
今は授業外の講堂内の人たちは闖入者に様々なざわめきを示している。ゲンガーは天井角に貼り付き周りを見回し、キルリアはぶるぶる震えて口に手を当てている(テラバーサクの予兆)。

「ナッツさんだ! それに最近悪いゲンガー!」

補足説明ありがとう、一般生徒さん!

「お願いね、ナッツ!」私は少し背が下のナッツと目線を交わし、その手を強く握り……、 ━━ブラスト!!! (脳内決めゼリフ)


 カッ、とナッツが光る━━!!


「グルンオァーウ!!!」パァン!!
「(よかった……成功した……)」
「 わーっ! 」「 マントだ 」「 かーっこいーっ!! 」

ほ、ほんと、うまくいってよかった…エスパーエネルギーを通すと透明から色がつくマント、これもコスプレショップで買った。
 3つの目が交わされる目配せ。

「ナッツ。それを使う時は、戦いは長く続けられないからね!」(訳: あなたの体力はそこそこ限界です)

2人で(ナッツは背伸びして)(私は肘の上までの)腕を上げると、パン!と手を打ち合う。ぶわっと黒い霧が広がり、「あ━━!」と声を上げる。

「キィアっ」「ばくんげっ!!」

よし、吐くの阻止…もといゲンガーが口にキルリアを入れた。


「グルマーーッ!!!」
「ガァーーーッ!!!」

サイコフィールドと黒い霧が渦巻き合う、威嚇と咆哮!


鬼火を追ってきたのか、観衆はどんどん増えていく。「今回はやべーぞ!」と言うのが聞こえた。よしよし、いいぞ!

「気をつけて、ナッツ!何か違う!」

そう言い終わる間もなく、ナッツは跳び上がってマジカルフレイムの連射を叩き込む。魔法色の炎が弾け散る! ワアアッと歓声が上がったが、その炎の渦はバッとかき消された!
 ゲンガーは余裕のたたずまいで浮かんでいた。ニタリと大口を活かした笑みを浮かべたゲンガーは、先ほどまでなかった✝闇の鎧✝を身にまとっているではないか。広がるどよめき。

「いつの間に、そんなものを…!?」(※私の財布)
「ぼぉう……っ!」

ふわりと着地したナッツは肩当てを叩き、その白熱具合を確かめているようだ。コスプレとつげきチョッキ(※特殊攻撃に強くなる防具)のおかげでゲンガーも怯えることなく戦える。
ゲンガーも手を緩めないのだ!
己の臆病さに、立ち向かうために!
 広がっていた黒い霧はグンッと収束し、シャドーボールに変わる。「ゲハアッ!」と撃ち出された弾を、ナッツはマントを翻して防ぐ! が、ズサササッ……と、仰け反らせ後退させるには十分な威力だ! 一度手をつき、冷静にゲンガーの動きを見極め、次の連射を、


「ゲン、ガン、ゴン!!」「ハッ、マウッ、ポウッ!!」
 ドンドンドン、パンパン… パァンッ!!
「ん、げ……っ!!」ドッ!! ……砂煙。
 「うおおおーーっ、 やったーーーっ!!」


光の壁を次々貼って防ぎ、最後の一球はミラーコートにして撃ち返す!ゲンガーは自分の技の勢いを受けて壁にバタン!と叩きつけられた!

「(大丈夫かな…!)」

チョッキはあくまで特殊技を受けるためのものであって、直接的な痛みには自分で耐えてもらうしかない。壁抜けはキルリアが入ってて使えないから…!
 ナッツは瞠目の集中の後、「プワッ!」頭部の炎に手をあてがうと腕をブオンッと振るっての一回転を披露する。「アルム!!」その軌道を追うように燃え盛る、マジカルフレイムはまさに炎の鞭!マントはエスパーと炎のエネルギーをまとい、激しくはためく!

 興奮は最高潮……!
「ナッツ…!」

こっそり仕込んだジェスチャーは、『そろそろ“デンジャー”』の意味合い。演者の体調を見るのは、監督として当然の役目だ。…キルリアも、大丈夫かな。
ゲンガーの目の色が変わる。背中のトゲがあぶくを立て、無数の毒の槍に変わる。手を打って、両手のひらに霊力を握り締める。

   バオン!!!

 派手に黒い霧とサイコフィールドを巻き込み、両者は跳んでぶつかり合う!
次々発射される毒槍、浄化の炎を振るっていなし…エスパーとゴーストの距離は縮まっていく。熱気と冷気は竜巻になり、人の高潮は感情に呼応する2体を押し上げる。

 パアン!「グギャッ!!」
 ピシッ!「クルルゥ!!」

ついに命中した直接攻撃が、互いを大きく弾く…!床に転がる。 息も耐えだえのパフォーマンス。いや、片方は違う。

「“デンジャー”!」
「マウ……っ」
「ナッツ、“デンジャー”…!!」

 “ポケモン”のバトルの興奮を抑えながら、“トレーナー”が意思を伝えるのは、“短い指示”。
ナッツは目を凝らし、ゲンガーを見つめる。どろり、と口から毒液が滴っている。ゲンガーも臆病ながら本能の興奮は抑えられないのか、霊力の寒風を吹き出してくる。……寒気。…寒気?

「(私は何か違うことを口にしようとしたが、言葉にならなかった)」

 ナッツはすっと立ち上がった。
 ガチャガチャンッ、とナッツの肩のアーマーが形を変え、キャノンの形を取る。「まうぅっ…」苦しげな声が、それはナッツ自身に向けられたものではないと……。

「マウ!! マゥァ!!」

“必死な”声と共に膨大な熱量が講堂全体に広がる。まるで炎の球体。ボールが跳ねるように飛び起きたゲンガーは、自分の体をシャドーボールで包む…!
受け身ヨシ!
本当か?


「 クランフレア━━━ッ!!! 」

 ぱきっ

   爆発━━!!!

…………ドォン………… …………


 ………… …………ざわざわ、ざわざわ、

渦巻いた桃と紅の炎は黒色をすっかり吹き消してなお荒れ狂い… ばちゃんっ、と固体が液体の質量に落ちた音。

「ナッツ!!デンジャー!!」

 …少し、懸念を抱えながら、監督は膝をついたナッツに駆け寄る。ちっちゃなヒーローは、腕を軽く振って火の粉を打ち消した。透明になったマント。膝に抱え上げ、ぎゅっとハグをする。ナッツは私にすがって、しばらく荒く息をつく。
後ろからは賞賛の声が聞こえてくる。今までと同じく、ゲンガーは壁の隙間で休んでいると思う。
がんばったね。

「ぽぉう、ぽうー……」

甘える幼い声にぽんぽんと腕を叩かれて、私はさっきまでゲンガーのいた場所をやっと見た。キルリアが座り込んでいる。テラバーサクのヘドロの上に。その色がいつもと、
その床がいつも
キルリアの目。
キルリアの妖しい目。
キルリアのまたたく妖しい目。

「リト! すごかったよ、ナッツたちも! キルリアたちは大丈夫!?」

 …………はっ。「その声は、我が友李徴…」
「ちげーよ、袁傪」

振り返るとヒナゲシが多少呆れた顔で、しかし呵々大笑と笑っていた。ライチュウが机と机の間をバネのように跳ね回っている。

「ああそうそう、お頼み申されたことだがな」

オーケィ、のジェスチャーに私はツバを飲み、深く頷いた…話は後だ。ナッツがするっと私の腕を抜け、ゆらゆらキルリアの元に向かう。ヒナゲシは芝居がかった仕草で腕を組み、教壇そばの床を眺める。

「ほへえ、派手にやったなー。というか焦げ跡抉れてんじゃん、後で職員室覚悟だぞ、リトちん」

ゲッ…と顔を歪めてから、むっ……と顔をしかめる。シャドボ防壁と、キャノンの攻撃はうまく相殺しあって周りを壊さないよう調整してあるはず…。(怒られたくないからね。怒られたくないからね!!)

「すみませーん!「ナッツさん、触らせてくださ〜い!「手形くださぁい〜!「ほんとにちっちゃい〜!「写真お願いします〜!」
「お、おわわわわ……! い、今ナッツくんはお疲れで〜〜……!!」

 ひ、人だかり…!
 私はコホコホ咳き込むキルリアを慌ててボールに収め、それをナッツに投げ渡す(こうすると、キルリアは人に囲まれても少し落ち着いてくれる)。キルリアのファンもいたようだけど、仕方ない。

「…………あの、さ」
「なんぞろゾロ目のナッツ八つ」
「後でナッツ回収してくれる?お願い」
「わぁお。りょ、リト」

と、ビシッと手を構えたヒナゲシ隊長にナッツのボールを渡す。私も、彼女も、怪訝な目をしていて、安心した。安心して心臓が縮む思いだった。

「ぽーーっ……!」

 講堂を出る直前に聞こえた幼い声。私は、振り返って、深く頷いた。
強く思えば、彼らはわかってくれる、と信じている。



 「ゲンガー!

  どこ行ったの、ねえ! だいじょうぶ!?

  ゲンガー、 こっちだよ!

  もう終わったよ、 動けないの、 声、

  声出してよ! こっちから行くから!」

「………… ごぉ …………」
「ゲンガーっ!!」

 隣の、もひとつ隣の、教室の、ちっちゃなベランダ、窓から見える街路樹。なんとも中途半端な場所、にゲンガーは“引っかかって”いた。でろん、って。完全に疲れきった様子で、

「やっぱり、おかしい……」

手を、伸ば、す。どろりと通り抜ける手がほのぬるいものに包まれる。街路樹の枯れた葉の下に、ぽた、ぽた、とぬめる液体が零れ落ちる。もし、ゲンガーたちが話せるなら、尋ねたいことがたくさんある。そしてそうしなくても、大きく訴えかける、
 火傷があるのだった。
腕を伸ばし、抱きかかえても、私の体温を奪う冷たさはない。ゆっくりと引き上げ、ずでんと私を超える大きさに尻もちをついたが、私はやさしく、やさしくその体を撫で続けた。がんばったね。がんばったね…。
窓からの、月明かりを隠すたからぐもの煌めきに影を落としながら、私は気を引き締める。


「おっきなヴィランは、別にいる」



  → Go Fire & Go Fight WIN!


★ヒナゲシ (女) (中学生並) (パルデア)

 妙な噂の多い、飄々とした変わり者のアカデミー生。
リトの親友。
数学、言語学、歴史が得意。家庭科は苦手。運動できない方。人付き合いは最低限で、教師陣には取り入っている(自称)。パンよりカロリーメイト。栄養を取れればいい。それはそれとして友の作る飯はうまい。
いたずら好き、ユーモア好き、ジョーク大好き、笑いの沸点が極端に変わる。「ニヒヒヒ」って笑うタイプ。一度「気に入った!」ことには、最後まで首を突っ込まないと気がすまない。お前が植えた桜の木の下に埋まる心意気。

頻繁に引っ越す家庭の生まれ。アカデミーをとりわけ気に入り、寮生活を申請して独立した。部屋の内装に拘りはないが、ベッドだけは最高級品。ゴミ屋敷人間の自覚があるので、なるべく物を持ち込まないようにしているともいう。
 手持ちはライチュウ(アローラ)を常に連れている。必要に応じてボックスから他ポケモンを引き出すことも。
家族構成は両親以外不明。
 おもしれー女リトに絡んで協力しており、リトの方からは純粋な友情を向けられている。それにはきちんと報いるつもり。

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