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小説:おっきなヴィランときっかいな姫 3

#ポケモンSV #パルデア #グレンアルマ #ゲンガー #二次創作




 \前回までのあらすじっ!/

 特別なキルリアを預かることになったアカデミー生・リト。ただ、その対処療法は仲間のゲンガーが暴走エネルギーを飲み込むというキルリアが嫌がるもので…
グレンアルマ・ナッツとはエスパータイプとしてシンクロするところがあるようで…

 周りの意見を聞いて、ポケモンたちの間で勝手に関係性、『お姫様・キルリア』『ヒーロー・ナッツ』『ヴィラン・ゲンガー』のショーを始めてしまう。
リトはポケモンと周囲からの目をコントロールできるのか?





 アカデミーからテーブルシティ南最下段までを貫く『地獄階段』をモトトカゲでくだることは禁止されている。トレーナーもポケモンも危ないから。思わずそうしたくなってしまうほど長くて高い階段なんだ。
もはや名物。
ただし、一番南にある店で休み時間に買い物をすると、『授業遅刻緩和キップ』がもらえるため、それでビビリレースをやる生徒もいる。

 それは別として、私も今日はテーブルシティ最下段に来てみている。まずお昼の腹ごしらえと、私は日陰のベンチに腰をおろした。だいたい予想通りだ。メインストリートでもないココなら人が少ない。ありのままの3匹と過ごすことができる。
 朝に、おそるおそる出てきたゲンガーにナッツが笑顔で飛びついたのを見て、涙目になって『小生は今猛烈に感動しています!!!!!』と友人に写真つきメールを送るのも当然だろう。
2匹は、ケンカ別れしていないんだ!

「おいでおいで」「げ〜ぅ…」

 私と歩を合わせるナッツ、彼の腕にしがみつきながらキョロキョロするキルリア、そしてするりと彼らの影から出てきてくれたゲンガー。「ありがとう」と労って、買ったお惣菜とお弁当を自分の分と、3匹分に分ける。そしてカバンの中から、

「ほら、今日はおにぎりだよ」

パルデア地方の軽食トレンドといえばサンドウィッチだけど、チャンプルタウンの人はよくライスで食事する。一家に一台『炊飯器』が珍品のように見られたのはカルチャーショックだった。
ポケモンでも形を崩さす食べられるよう、ラップでしっかり巻いたオーソドックスな塩おにぎり。
きよめのしおは必ず使いません。
 キルリアには小さなおにぎりがたくさん入った箱を渡す。

「キリリィア……?」受け取りかねる。
「ぽむ、ぽむ!」むしゃむしゃ。
「ナッツ、ごはんだけじゃなくておかずも食べるんだよ〜」
「…………」
「なんだその目は。せっかく昨日の朝、実家からお米と栗が届いたんだぞ。今日のおやつは甘栗だぞ」
「……、……まう!」
「なんだ今の間は〜〜〜不満か〜〜〜!!」

くすぐる攻撃!甘いの苦手ヒーローめ! 「ぷしゅ!ぷぷぷぅ〜!!」とナッツがキャッキャ悲鳴を上げる。

「んがーぅ」「キィ……?」

 ゲンガーがやや下からキルリアの方を見上げ、『こうするんだよ』とラップを外す手本を見せる。やや怪訝な目で見ていたキルリアだが、新しいおにぎりのラップを覚束ない手付きで外し始める。小さな手の大きさに合わせてよかった…。

のんびりした食事。

私はスマホロトムに目を通しながらの食事。特別授業のお知らせや、友だちとのやり取り、先生から“生徒”宛の連絡。
…はあ。私は7日間、キルリアを守ることができるのだろうか。……ポチポチと返信を終えた頃には、みんな甘栗に手をつけている。さらば、私の甘栗。

「食べ終わったらみんな手を拭いて、おみず飲んで〜。さあっ、今日のメインに行くからね〜!」
「グルボウ!」「キリーィ」
「特にそこのゲンガー!」
「ゲンゲ!?」

さらば、私の財布。



「いらっしゃいませ〜。あら〜、かわいいキルリアちゃんとグレンアルマちゃんですね〜!」
「グレンアルマくんです。今日はこのキルリアをお願いします」

 テーマパークの女性スタッフのような返事が返ってくるこの店。私は影からゲンガーを引っ張り出すと押し出すくらい背中を叩いた。
なんだねそのしおスパイスな顔は。
ナッツは完全に店の気迫に負け、キルリアの方もチカチカした店内に戸惑っているし、店員さんの「ありえな〜い!」「マジコス出そ〜」「映え撮りする〜!?」キャッキャウフフした陽の気に私も腰が引け気味だ。

「スタッフさん。この子、すごく敏感な子で…肌とか…もしかしたら店内すごく汚しちゃうかもなんですけど…よろしくお願いします」
「きゃ〜〜いえいえいえ!こんなコにウチの服着てもらえるだけでありがとうございます〜〜〜!」
「あ、高い声と大声もできればお控えいただけます…?」
「わ〜やだ〜もったいな〜い!ん〜ゴホン……でもお客様のためにガマンしますねぇー」

 地声にチューニングて。…私も、心筋引き絞って店内に入る。レースやガラス玉やリボンで溢れた、━━ポケモン専門のコスプレショップに。
さらば、私の財布……。

「キルリアちゃんってだけでかわいいのに何をお探しですかぁ?」「あ〜… むしろこの子が見ての通り、珍しい子なので体を隠そうと」「やだぁもったいない!あっ肌やさ生地よろー。でも学生さんだと珍しいコ守るの苦労しちゃいますよね、ご協力いたします〜♪ あっ後でモデルいいですか〜?!」

あ、あまりにも陽…! 眩しい……!! でも一瞬出た業務用の声も、いや逆にガチギャルの気迫がある…!
 キルリアは採寸に落ち着かない様子である。私は深呼吸し、私の裏に貼り付くゲンガーを前に出す。

「ゲンガーが選んで。あなたのお姫さまでしょ?」
「げっ!?」
「エ〜〜〜〜ッ!? キルリアちゃんのピッピですか!? ……あ、今のは『彼ピポケモン』の略ですぅ」

それは〜… と言いかけて、言い直す。

「さらっちゃいたいくらい片思いだと思います」

 間違えた。
ゲンガーの前にいたスタッフさんがキャ〜〜〜ッ(黄)と声を上げる。「俺様〜〜!」逆です。ゲンガーがおろおろ顔を覆う。「ダテンゴヒメ系サゲで〜〜」とあちらの相談が終わって約1分━━。

 上下一式タイプの服が、マネキンに並んでいた。更に上だけ下だけ、プラスアクセサリ…。

べたべた触られたキルリアは「不機嫌です」を顔全面に出して私にくっついてる。ウム。キルリアの色がうまく隠れ、かつ元の姿を尊重した、主にプリンセスドレス。くっ、私も着た…ゴホン、私はもう大人だし…ヒーロー派だし…!

「お客様が選びますか?ゲンガーちゃんが?それともキルリアちゃん?」
「私はゲンガーに選ばせたいんですけど、見ての通り奥手ちゃんで…」口調移ってきた…。

キルリアはあまり美的感覚わかんないぽいしなぁ…ゲンガーはけっこう早く適応したけど…。そう思いながらビンビンに体のトゲを尖らせているゲンガーを見つめる。陽キャが眩しすぎて影の踏み場もない。

「お?」

 スタッフさんが先に声を出した。
ゲンガーが一歩踏み出したからだ。
私もスタッフも、その勇気を固唾を飲んで見守る。衣擦れや金物がぶつかるごそごそ、かちゃかちゃと音がいくらかした後、その太い腕に何か隠すようにぽてぽてと戻ってきた。キルリアが自分を見られていると気付いてビクリと警戒したが私に貼り付いたままでいる。よし、よし、と背中に腕を回す。

「…………げーぇあ」

ゲンガーは丁寧に膝をつき、キルリアと体の高さを合わせる。そして腕を高く掲げた。私はキルリアの背をそっと押す。ふわりと刺繍の重ねられたレースが一度キルリアの顔を覆う。ゲンガーが緊張で動揺を強張らせた腕で頭を覆うそれの角度を直す。

 ティアラをかぶせるしぐさはうやうやしく。

「リリ、リリア?」

淡雪のようなフリルレースと、角を痛めずそれをまとめる飾り紐、冠を飾る銀細工に翠色の宝石。
鏡に映る自分の顔と頭飾りを、小さな手でそろそろと触れて確かめる。歩いてみる。ちょこんと首を傾げ、服を見上げる。

「リリーン!」

クルリと回って、ペコリと頭を下げる。

 ━━キルリアが踊った。


「遅刻緩和切符は持っていますか?」
「は、はい!」
「わかりました。遅刻です」
「ああああああああ」

 さらば、私の出席回数。



 着こなしがかわいい、お姫さまだ、天使だ、とクラスメイトにもてはやされるキルリアは、やっとこ彼らに慣れ始めたよう。髪の“色”を隠すレース、踊ったり歩くのを邪魔しないよう前が開いたドレス。…こんなに買っても、1週間をうまくすごさなければ、私のコスプレ出費(自費)も無駄になる。
 テラバーサクの説明は…はっきり言って、失敗した。そんな現実より、ナッツとゲンガーでかわいい女の子を取り合っていること自体がみんなにはおもしろいのだから。病弱なんだからね!ということだけ、やっと伝わった。
クラスメイトの半分くらいは、テラバーサクの処理失敗を見てるはずなんだけどね? ね???

「次いつやるの?」

と聞かれたのはさすがに無視なんですわ。
こちとらから聞けば不謹慎がよ!
 唯一こわがりゲンガーを気にかけてくれたのは、我が友ヒナゲシ君だけであった。休み時間にササッと私を美術室の隅に呼び出し、なかば無理やりゲンガーを引っ張り出し、おろおろするゲンガーを、しばらく見つめたあと、

「さてはキミ、こっそりテンション上がってるだろ!」

そう言ってのニッカリ笑いに、ゲンガーはビックリ顔で彼女を見上げ、「……ケケケッ!」…って、笑い顔を親友は引き出したのだ。
「がんばれよっ!」とゲンガーをナデようとした体はすり抜け、バタンと倒れた。それでもゲンガーを仕草だけでもナデナデしようとする。そんな一見アホらしい光景━━ハッとゲンガーの生態を思い出して自分側に抱き寄せる。

「アッハハハ!さっむ!!」
「もう、ゴーストタイプの代表みたいなポケモンにさあ…!」

生気吸収してしまう“彼ら”の中でも、不意に触れるだけで体温を奪う“代表ポケモン”に、臆することなく…。

「めちゃ疲れた〜。リト君もがんばってるな」
「うん、ありがとう。あなたのおかげ…」

 予測不能だったのはその後で。

「ありがとう、あ…」

の、二の句を、継ごうとしたとたん、まったく、どうして、ボロッと私の胸の堤防が、決壊。

「わ、私、がんばっ」
「がんばってるよ。ヒーローのヒロイン。例えナッツがハーレムヒーローになろうが、リトがいちばんだよ」

なにそれ。

「今の状況、もっと良くしよう。一人で泣くな。ポケモンの前で泣くのは、私はカウントしない。人の前で泣け。私の前で泣け。私たちは人間なんだから」

抱き止めたはずが、私の方がしっかり抱き締められている。

「ポケモンのことは詳しくないけど、私はリトをよく知ってるつもりだぞ。なにしてほしい、リト?」
「わたし……」

なにさそれ、どういうことさ、って。

「…………協 力 して…………」「いいよ!」「まだ頼み、言ってない…………」「じゃあ言って?」「…………人、探し、」

 美術室はさわがしい。



「今回は最近話題のラルトス族について取り上げても…よろしいですか?リトさん。……ありがとうございます

ラルトスはエスパー・フェアリータイプで、ひとがた・ふていけい分類のポケモンです。キルリア、サーナイト。またオスのキルリアはエルレイドに進化しますねえ。こちらはエスパー・かくとうタイプ」

「……オスのサーナイトもいます。これは、オスのヤトウモリがエンニュートに進化しないこととは別扱いなので注意してくださいねえ」

「……このように分岐進化するポケモンは多くいますが、更に体質を変えると、まるで分岐なんてなかったみたいになっちゃうポケモンは何種類かいるんですよ〜。これは、別地方で見られる、りんごぐらしポケモンから進化するアップリューとタルップルの特別な姿。見た目、一緒ですね〜。

一方これは、更に別地方で見られる、サーナイトとエルレイドの姿ですが、全然別物です。しかしサーナイトとエルレイドを区別していなかった地域もありました」

「……古代の時代にしか進化しなかったポケモン、というのもいましてえ、例えば… …とは別に、ポケモンを変わった方法で進化させた姿が、えーと、…………、彼らとかですね。先祖返りだという主張もあります。

ほんとにポケモンは不思議な不思議ないきものですねえ」

「おっと、話が逸れました。本筋といたしましてぇ、ラルトスたちと仲良くなるには、ですが……」





  → Go Fire & Go Fight WIN! 


★ゲンガー (♂)(年齢不明)(XXL)

 臆病な性格の元野生テラスタルゲンガー。
臆病要素をかき集めたような性格。布を乗せられてクッションにされることに従うレベル。しかし空腹や疲労が限界に達すると本来のゲンガーらしい冷徹な食欲を見せる。
臆病なところ以外というと、とても愛嬌があって心優しくて感情の共感が強くてお菓子が大好き。愛情に敏感。勇気を振り絞るとときに無謀になってしまうが、一度取り組んだ事には一生懸命。ナッツは戦友であり憧れでもある。すずしろは大切にするべき存在(恋ではない)と認識している。『ヴィラン』役を任されているが、誰よりも悪者に改心してほしく思っているようだ。
いちおう、ゴーストタイプ代表格らしく、体の力が抜けるとすり抜けて相手の生気を奪ってしまう。
ニックネームで呼ばれていないが、ピンとくるものが来ないまま数年経って今更だから。

 メインはヘドロばくだん、他毒技。シャドーボール、黒い霧、ゴーストダイブなど。

 上記通り野生テラスタルポケモンであり、初アカデミー通学のリトを襲ったのは紛れもなく彼である。空腹と寂しさで限界が来ていたところに、少女を見つけ、遊ぶなり持ちかけようとしたつもりが本能で襲撃してしまう。グレンアルマにコテンパンにされたが、その後大人の前でそのグレンアルマと少女に許してもらったこと、本当に寂しいのはイヤという理由で着いて行った。
非攻撃的でひかえめな性格ではあることはともかく、ガチモンの強さは持っており、当時の年齢のリトと(以下略)

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