エイトビートがわからない

共に過ごす時間が生活のほとんどを占める学生時代において、好みが殆ど被らないことはある種好都合だった。

同時期に発症した厨二病にしても、私は洋楽で彼女はボカロ、私はエセサイコパスで彼女はファッションメンヘラ、私は金髪で彼女は姫カット、と各々方向性の違う黒歴史を残していた。

好きな芸能人も好きなテレビ番組もアニメも、漫画も映画も音楽も、全然違うからこそわたし達は飽きもせず5年も仲良くやってきたのだと思う。

それなのに彼女の部屋にあのバンドのCDを見つけた、わたしも最近見つけたあのバンド。

「え?すきなの?」
「それ昨日タワレコで試聴して好みドンピシャすぎて買った、もしかして嫌い?」
「いや、私も先週買ったんだよね、好きで」
「まじ?めちゃくちゃ珍しいじゃん」

あのさーあれ以来じゃない?ショートケーキ味のポテチ出た時〜〜、ほらみんな不味いっていうのに私らだけ美味しいって意見合ったじゃん〜〜、なんて話しながら彼女はCDプレーヤーにCDを入れる。
4秒程度のジジジッという音の後、まだあまり耳慣れてない音楽が流れ出す。

買ったCDは全部パソコンからスマホに取り込みイヤホンから流し込まれるようにしか聞かない私は、彼女の家に来て空気を揺らし全身に伝わるような音を聴くのが好きだった。

それだけじゃない、可愛い柄なのに少し丈の足りてないカーテンもだいたい6巻までしかない漫画のラックも枕の横のセーラームーンの目覚まし時計も、ふざけてこぼしたコーヒーのシミが薄く残ったラグマットも、好き。
この部屋が好き。あんまり物が多くないこの部屋を圧倒的に完成させる彼女のことが好き。

ふと我に返ったらもう一曲目はアウトロになっていて、私の好きな落ちサビを完全に聴き逃したことに気がつく。

「この曲は落ちサビが良いよね〜!超タイプ、すごい好き!」
「私も好き」

脈拍が変拍子になって二曲目のイントロがかき消されてそれをわざとらしいくしゃみでかき消す。

「あ、花粉症の薬持ってくるの忘れてた、ごめん帰るね、またあしたー!」

共に過ごす時間が生活のほとんどを占める学生時代において、好みが殆ど被らないことはある種好都合だった。
誰かを取り合うことも無かったし、何か一つに対して争わなくて良かったし、君の好きなものを好きになれ無いことが正当化されるから。

限定だったあのあまじょっぱいお菓子が季節を三つ越してもまだ一袋だけタンスの上に隠されてること、何でもベッドの下にしか隠せない君じゃ、きっとずっと気付かない。


#ミスiD
#ミスiD2019

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?