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ミュージカル『マチルダ』

『そんなの、正しくない!』

ミュージカル「マチルダ」を観ました。
万里生さんとトレンディ・エンジェルの斎藤さんのWキャストが話題になりましたね。最初、宣伝の仕方とか売り出し方を見て、メリポピ的な感じの作品かな?と思ってたんですけど、そういうわけでもなかった。
あらすじを読んだ感じ私はストーリー自体にはあんまり惹かれなかったんですけど、万里生さん出てるしせっかくだから観てみよう、ぐらいの気持ちでチケットを取りました。

3月に1回目の観劇。

3月26日 17:30公演 キャストボード

実はこの時、観た後に心があまり動かず、チケットたくさん取っちゃったけど手放してもいいかな~なんて思ってしまいました。
楽しかったんだけど、何か物足りない。そして、子供がひどい扱いを受けるのを何度も見るのも苦しいかもしれない。そんな気持ちだったように思います。
で、実際なんやかんやあって数枚は手放してしまったんですが、先日それでも手元に残した2回目・3回目を観劇して、自分でもびっくりするぐらい1回目と観劇後に抱いた感情が違いすぎました。
ものすごい興奮して、楽しくて、自然に手拍子していたし、終わった後に観てよかったー!という気持ちになったのです。前方サイドで多少の見切れがあったにもかかわらず。
自分の心の変化なのか、キャストの組み合わせなのか、1ヶ月という時を経てブラッシュアップされたのか、何が理由かはわからないけど、とにかく、全部手放さないでよかった、リピートしてよかったなと思いました。

カーテンコール撮影OKの日でした

この作品、両親や校長先生からひどい扱いを受けている女の子が、ハニー先生という良き理解者と出会い、負けずに立ち向かっていく物語。そして、忘れちゃいけないのが、理不尽に立ち向かっていくのは、マチルダだけじゃないということ。それまで校長に怯えていた学校の子供達や、過去に縛られていたハニー先生も、マチルダの姿に背中を押され、殻を破って立ち向かっている。「人生が不公平なら我慢より行動しなきゃ」と最初は一人で、父に対するちょっとした反抗心で可愛いイタズラをするマチルダだけど、やがてそのエネルギーは強くなっていき、周りを巻き込んで、より大きな敵に挑み、そして、勝利する。
復讐物と考えると、学校が舞台で子役が主役とはいえ、決して子供向けの作品ではないと思う。キャラクターはインパクトがあるし、復讐の仕方はコミカルなものもあるけど、内容はけっこうシビアだし、辛い描写もある。むしろ、子をもつ親や子供と関わることが多い大人にとって刺さる部分が多かったんじゃないかな。子供との向き合い方、子供への「正しさ」の伝え方、持ってる能力の「正しい使い方」の伝え方、そんなのを学べた気がします。

マチルダが劇中でフェルプスさんに話す"お話"が単なる劇中劇ではなく、物語後半で大事な意味を持つ展開がパズルみたいでおもしろかった。
ハニー先生の過去と、マチルダを取り巻く環境の、似たところや異なるところ。それぞれが上手く交差して二人が心を通わせていく細やかなお芝居が素敵でした。
多少ファンタジーな展開もあるんだけど、それも1幕のラベンダーのちょっとしたセリフにフラグがあったし、能力を発揮した後のマチルダ、ハニー先生のセリフに補完されて、突飛な現象ではなくなっていてよかったです。

マチルダがたびたび口にする「そんなの正しくない」というセリフ。このミュージカルのテーマだと思います。
だけど私はマチルダが100%正しいわけではないと思った。むしろ子供らしくて、マチルダの言葉を借りるなら「正しくない」ところが、彼女自身にもある。
父親の詐欺に対して「嘘をつくのは正しくない」と言っておきながら、ナイジェルがトランチブル校長に追われているとき「彼はナルコレプシーで一時間前からここにいた」と嘘をつき、周りの子どもたちにも嘘をつかせた。友達を救うためについた嘘なんだよね。それは確かに優しいことで正しく思えるけど、マチルダの中で矛盾してない?と。
トランチブル校長のことを「でっかいデブのいじめっ子!」と言って追いやるシーンも、そういう言葉を怒りに任せて投げてしまうのは褒められたものではないし、その暴言のせいでスカッとするよりむしろトランチブル校長に同情してしまったまである。(マチルダの言葉を受けて、お腹を気にしてジャージのチャックを閉めたところで客席から笑いが起こったのも私はいい気持にはなりませんでしたな…)
パンフの中で達成くんかな?も触れていたけど、マチルダの原動力「正しくない」は、正しいようで実は危険も孕んでいて、正しい(と自分が思う)ことなら何をしてもいいという発想になりかねないこと。ともすれば、マチルダもトランチブル校長や両親のようになってしまうかもしれない。それに気づけないのはまだ子供であるマチルダの、ちゃんと子供らしいところで、弱さでもあると思う。
能力が消え、トランチブル校長がいなくなり、父と母とも離れ、ハニー先生と暮らしていく中で、自分の中の矛盾や弱さと向き合い、人との関わりの中での"正しい・正しくない"を理解できたとき、マチルダは真の意味で強い人になれると思う。
ちなみに、もそもそフェルプスさんやハニー先生に「両親は優しい、私を誇りに思ってる」的な嘘をついてるんだけど、これは嘘というかなんというか、そうやって言うことでしか自分を守ることができなかったんだろうなと思って辛かったな。けど、このシーンがあるからこそ、その後の展開はワクワクしたし、ハニー先生に本当のことを話せたときはグッときた。

好きだったシーンは、ハニー先生の家で二人でお茶を飲むところ。ミルクを実際注いだりお菓子も食べたり、小道具がリアルだったし、照明の色も温かみがあった。ハニー先生が決してマチルダを子ども扱いせず、給料のことや父の死のことをぼやかさず語っていたのが良かった。

3回見て、全部の座席が前方だったのでWhen I Grow Upのブランコはすごい迫力でした。最前列だとほんとに、舞台を飛び出して真上に振れてくる感じ。
School Songはアルファベットの箱をはめていく演出と亜子さんの完璧な訳詞が合わさり、上級生の存在感がでっかく感じれて楽しかった。
この作品は、それぞれのキャラクターが一人二人で歌ういわゆる"持ち歌"より、子供たちが全員で歌うナンバーの方がパワーがあって好きかも。School SongやBruce、Revolting Childrenのような。
Naughty(マチルダ)、Pathetic(ハニー先生)、The Hammer(トランチブル校長)、Loud(ミセス・ワームウッド)、Telly(ミスター・ワームウッド)などなど、それぞれの歌も当然キャストの実力が遺憾なく発揮されててそれぞれ面白くていい曲なんだけど、やっぱりこの作品のパワーの源は"子供たちの曲"なんだなって思った。

全然キャストに触れてないけど観た人全員それぞれにそれぞれの良さがあってよかったです!
全員がマチルダの世界観にどっぷり浸かっていて、現実に引き戻されることのない3時間でした。

万里生さんのワームウッドは、近頃の役どころを見ていればもうそんなにびっくりしない(笑)
でも本を破いたり踏んだり投げたりするのは辛かったです。(本人も言っていたし)
「玉と竿がな〜〜〜〜〜い」って、なんて歌詞歌わせるねん!って思ったけど、モンローくんも「犯人はインポの変態だ」とか歌ってるのでもうあんまり驚くことないですね!
帽子が取れないマイムも、「被っておこう。雨が降りそうだ」のイケボも、取れなかった帽子がやっと取れた時のキラキラした表情も段々と愛らしく思えてきたし、最後には娘って言っちゃってたじろいだり、マチルダに助けられて涙ぐんだりもしてて、憎めないキャラクターだったな。
Tellyで本を読んだことがある人を馬鹿にする歌、斎藤さんワームウッドは「本を売るなら○ッ○・○○♪」らしく(アフタートーク談)、気になりすぎるので斎藤さん回のチケット持ってないけど追加したくなってきた。

ゆうみちゃんハニー先生も昆ちゃんハニー先生もどっちも大好き。ゆうみちゃんハニー先生はLoudでルドルフォに振り回されつつの踊りがとても華麗だった。
ブルースがケーキを食べ切った時のはっちゃけっぷりは昆ちゃんハニー先生が割と尺取虫で可愛い。めっちゃピョンピョン跳ねてた。
ハニー先生の「世界で一番力のこもったハグ」というセリフと、そのシーンの驚きの空気感が好き。
ドアをノック♪のとき、ゆうみちゃんハニー先生はカーディガンの袖を折り返していて、昆ちゃんハニー先生は袖口を拳に握りこんでた。

ミセス・ワームウッド、お二人ともぶっ飛んでます。
お二人とも2022年、ちーちゃんはスラムドッグ$ミリオネアで、霧矢さんはバイ・バイ・バーディーで拝見しております。
私の見たちーちゃんはスミタからのえらい振り幅(笑) 声は高めでキーキーしてて、かわいらしい感じの役作り。メイクや髪形のことだけ考えてればいいの!にすごい説得力あった。だって可愛いんだもん。
霧矢さんはパワフルな歌声全開。Loudのダンスのシーンめちゃくちゃかっこよいです。強い女って感じで、優しい母親役なら温かく包み込んでくれただろうに
なんでこんな役なんだ!と思わずにはいられなかった(笑)

トランチブル校長は達成くんと小野田くんが見れました。
達成くんは目が大きいので、かっ開いたときの表情が怖い。無表情の中にトランチブルの怖いぐらいの意志の強さを感じて、ストーリーをしたうえでよく考えてみると、もしかしたら過去を必死で押し込めていたような表情だったのかもなーと思った。
小野田くんは声色の切り替えが多彩で器用だし細かい演技が丁寧。カーテンコールでお辞儀が適当だったり顔を隠したり腕時計(ない)をトントンしたり、最後までトランチブルしてて面白かった。

ふと思ったんですけど、この作品における登場人物たちの衣装や髪形。これって、実際そういう姿をしていたわけじゃなく、マチルダから見える姿だったのかもなーなんて思ったり。
マチルダにとってある意味理解不能な両親はサイケデリックな色・柄の服にどぎついメイクや印象的な髭。
意地悪なトランチブル校長は、異様にでっかくて、決して美しいとは言えない容姿。
自分に優しくしてくれたハニー先生はブロンドで細くて小っちゃくて、ピンクのふんわり花柄ワンピ。
そうなるとスクールソングで上級生がめちゃくちゃでかいのもわかるなーって。
自分が1年生の頃の6年生ってすごく大きかったので、5歳のマチルダにとって11歳の上級生(西川さんのクロネコチャンネルより)はあのサイズ感に見えてもおかしくないよな、と思いました。

個人的には、スカッとした!楽しかった!ハッピー!みたいな作品ではなく、観る回数を重ねるほど深みが増していく、大人向けっぽい作品だなと思いました。
東京公演はもう終わってしまうけど大阪でまた観る予定があるので、もっと深く、もっと細かいところまでとれたらいいな。斎藤ワームウッド回を追加するかもしれない(笑)

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