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HITACHI サーキュラーデザインプロジェクトのパーパス

サーキュラーデザインって何? サーキュラーエコノミーとは何が違うの?  循環社会にデザイナーはどう貢献できるの? HITACHI サーキュラーデザインプロジェクトは、こんな問いへの解を、実践を通じて探索するプロジェクト です。初回の 記事ではプロジェクトのパーパスについてお話しします。(文責 デザイン研究者 曽我修治)


HITACHI サーキュラーデザインプロジェクトとは?

サーキュラーデザインプロジェクトは日立製作所 研究開発グループで行っている、地域循環社会への貢献を通じて新事業の可能性を探索するプロジェクトです。2022年4月から武蔵野美術大学と日立製作所の共同研究として進めています。「創造性を瞬間的・消費的なもののためでなく、持続的・生産的なモノ・コトのために使う」をめざして、究極の循環社会であったであろう江戸時代の人々の暮らしの分析、地域理解のための滋賀県長浜市での住込み型デザインリサーチ、国分寺市での小さな循環の実証、欧州のサーキュラーエコノミーのためのビジネスモデルパターンの文献の分析などなど、を行ってきています。これら個々の活動もおいおいnoteで発信していきたいと思っています。

パーパス作りのワークショップ

5名の主要メンバーが各々、江戸を調べてみたり、地域に滞在したり、家具を作ったり、サーキュラーエコノミーのビジネスモデルを調べたり、とバラバラとやっていたのですが、活動をはじめて6ヶ月ほどたった頃、多様なメンバーの英知を結集するためにも、「そろそろパーパス作らない?」ってことになりました。パーパスとは企業が存在する社会的意義のことです。われわれは企業全体から見るとごく小さな存在ではあるのですが、プロジェクトのパーパスがあってもいいな、と。

そこで、2022年11月のとある日、みんなで集まってパーパスワークショップを開催しました。パーパス作りは、共同研究でご指導いただいている武蔵野美術大学 岩嵜博論教授が共同執筆されている書籍「パーパス」を参照し、次の手順で検討しています。まず、われわれとして大事にしたい価値観と組織やメンバー個々が持っている能力を洗い出します。次いで、この半年の活動で感じてきた、向き合いたいと思う地域の課題を洗い出します。そして、この2つをぶつけながらパーパスのヒントになるキーワードを抽出していきます。

このワークショップで出てきた重要キーワードは二つ。一つは「手放す」です。地域には空き家や耕作放棄地などさまざまな手放したいものに関する問題が拡がってきています。個人として考えても、モノを手放すシーンって、手に入れるシーンと比べて十分にデザインされていないことも多く、まだまだ改善できる余地がありそうです。ゴミの分別もそうですが、手放した瞬間にその先のことを考えなくなってしまうことが多いですよね。デザインで貢献できる何かが「手放す」にはありそうです。

もう一つは「触媒」です。等価交換により経済効率を求める大量生産・大量消費社会と異なり、循環社会は贈与をきっかけに人がつながっていく社会と感じています。モースの贈与論でも、貨幣経済が普及する以前の未開社会では、贈り物に対してお返しをしなければならない交換義務によって人々がつながっていたことが述べられています。この贈り物もしくは贈り物のきっかけが「触媒」です。赤ちゃんを 抱っこする人を見ると、話しかけてみたり席をゆずってみたくなったりし ますよね。これは、赤ちゃんは 、社会の個人化が進む以前から人に備わっている、贈り、受け取り、お返しをする気持ちが呼び起こされる、そういう感情が動く強力な触媒なのではないか、そして赤ちゃんではないにせよ、このような人がつながるための贈り物の機構を駆動するきっかけとなる触媒をわれわれはデザインし得るのではないか、と。ワークショップではこんな議論をしました。

サーキュラーデザインプロジェクトのパーパス

ワークショップを経て、われわれがいったんの結論として置いたパーパスがこちらです。

「身の回りにあるモノから新しいモノを生む」プロセスへの参加機会を提供する

このパーパスは「身の回りにあるモノから新しいモノを生む」と「・・・プロセスへの参加機会を提供する」の二重構造になっています。まず一つ目について述べます。昔、しかもそんなに遠くない昭和初期頃は、藁から草鞋や草履を作る、古くなった着物をモンペにする、など、身の回りにあるモノから新しいモノを作る機会がたくさんありました。当時の人はモノが不要になったときにそのモノが廃棄物に見えるのでなく、何かを作るための素材に見えていたのだと思います。それは手元にあるモノの素材性の理解や加工のスキルが身についていたからこそのモノの見え方なのだと思います。このようなモノの見え方は素敵で豊かに感じますし、われわれが現代に回復したいことの一つです。イリイチが言うコンヴィヴィアリティの概念でも技術を手元に収めることの重要さが論じられています。コンヴィヴィアリティは、自発的な個人が創造性を発揮しつつ相互に依存する暮らしです。「身の回りにあるモノから新しいモノを生む」はコンヴィヴィアリティにつながる一つのあり方と考えています。

Mass Productionと循環社会の間(あわい)

パーパスの二重構造の二つ目について述べます。図にあるように、一般にMass Production、大量生産と循環社会の世界観は二項対立の関係に捉えられることが多いと思います。しかし、この見方は、われわれメーカーにとっては矛盾をはらんでいますし、ぼく個人としても大量生産社会なしには生活の多くが成り立たないと感じます。例えば、毎朝お世話になっているトースターの銅線一本とっても地域で自給自足しようと思ったら大変ですよね。ちょっと話はそれまずが、ぼくはデザイナーのトーマス・トウェイツが好きなのですが、彼が作ったトースタープロジェクトはこの二項対立概念をシニカルにとらえたすごく笑える作品ですので、興味のある方はご覧ください。


われわれはこの二項対立を捉え直し、Mass Productionと循環社会の間(あわい)を作りたいと思っています。それが、メーカーが循環社会に取り組む一つのあり方と思っています。Mass Productionにも循環社会にも参加、選択できる場があり、買う人・使う人・作る人が、各々の考えで良いと思うあり方を選ぶ。そんな世界観を言葉にしたものが、パーパスの構造の二つ目「・・・プロセスへの参加機会を提供する」です。


これから

HITACHI サーキュラーデザインプロジェクトのパーパスについてお話してきましたが、ちょっと抽象的ですよね。次回からは、このパーパスの実践をめざした国分寺でのプラスチック循環の実証や滋賀県長浜市でのデザインリサーチ、このパーパスの背景にある江戸時代の循環的な暮らしの分析などnoteで発信予定です。
 
またお会いしましょう。