Episode 2. オールドルーキー|プロシェアリングの未来小説 by. CIRCULATION
「次回の契約更新はないから、そのつもりで」
球団から告げられた戦力外通告。
覚悟はしていたはずだが、胸が張り裂けそうだった。
栄光を掴めると信じていた。
高校球児として甲子園に出場し、ドラフト1位でプロへと入団。3年目には開幕一軍に選抜され、日本シリーズでMVPも獲得した。
スーパースターへの階段を駆け上がれるはずだった。
ところが肩を痛めてから、以前のように投げられなくなった。成績も低迷し二軍落ち。
そうして迎えた、戦力外通告だった。
***
今まで野球しかしてこなかった。次の目標なんて簡単には見つからない。
未練とプライドがつきまとい、何をしても自分の惨めさを知るだけだった。
暗鬱と過ごす自分に、「久しぶりに故郷に帰ってこないか?」と連絡があった。
8年ぶりの故郷、かつてのチームメイトに恩師、忘れかけていた想い……。
ユニフォームをスーツに着替えて励む彼らが、少し眩しく感じた。
自分にも、何かできることがあるのでは?でも何を?
「新規事業への挑戦」ふと目にした広告の一文が気になった。
「夢半ばで挫折した元スポーツ選手を応援します!」
ドキッとした、自分のことじゃないか!
一瞬、気持ちは昂ぶるが、現実を思うと冷めていくのを感じた。
「DAOという分散型自立組織とプロシェアリングを組み合わせてサポートする……」そもそも社会人経験に乏しい自分には、その概要すらよく分からなかった。
それでも何かきっかけぐらいには、と足を運んだ説明会。壇上で話す男の姿には見覚えがあった。あいつは、高校までバッテリーを組んでいた中山じゃないのか⁉
中山は卒業後、プログラミングを学び大手ゲーム会社へと入社。その後、フリーのエンジニアとして独立したらしい。
「お前、まだ野球が忘れられないんだろ?」
久々を感じさせない口振りで、中山が話しかけてきた。
「どうだ、興味あるなら一緒にやってみないか?」
その誘いはとても嬉しい、でも自分には……。
「野球してた頃って、メンバー同士よく相談したりしてただろう。キャプテンはいたけどさ、みんな同じ立場で自由に意見を交わしてたよな。つまりDAOっていうのは、そういう組織のあり方でもあるんだよ。プロジェクト名にもあるように……」
こいつは、あの頃と変わらない。何も言わなくてもこちらの悩みを察してくれている。
「なあ、もう一度ユニフォームを着替えてさ。俺とバッテリー組んでみないか!」
その一言が、背中を強く押してくれた。もう、迷いはなくなった。
事業に参加すると、ビジネスの面白さも少しずつ分かってきた。
自分も、この「オールドルーキー・プロジェクト」、元スポーツ選手たちを活用したプロ人材のシェアリング事業を通して、引退した選手たちの活動を支えたい。何よりそれは、自分自身の救いにもなる。
そんな思いから、選手たちと企業とを繋ぐ渉外を担当することにした。
***
あの戦力外通告から2年。
私は、かつて所属していた球団のオーナー企業との交渉に立っていた。
「それにしても君、いい切れ味でプレゼンするなぁ」
先方の担当部長は満面の笑みを浮かべながら、力強い握手を返してきた。
ここが私の第二のマウンドだ!
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