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桜があまり、得意ではなくて


桜の時期が巡るたび、年々偏屈になっている自分がいるなぁ、と思う。


私は桜が得意ではない。そういう気持ちが、年々明らかに膨らんでいるのだ。いや、もちろん綺麗だなぁとか、春だねぇとか、さまざまな思い出と共に感じるけれども。けど、桜はなんだか愛されすぎていて、自分が今更それを愛でる一人として加勢しなくても良いんじゃない? だなんてことを思ってしまう。

春爛漫の陽気の中、多くの人が外に出て、この時期だけの美しさを写真に残そうとカメラを構える。Instagramもお天気ニュースも桜色に染まり、人々は桜を口実に酒盛りをする。日本の国花でもある桜は、まさに国民的行事に相応しい人気者だ。そこに私ひとりが加わる理由が、いまいちよくわからないんです。(ほら、偏屈でしょう)


それよりも、凍れる寒さが残る中、我先にと春をひとり運んで来る梅の花のほうにずっと惹かれる。そして、そんな地味な梅の花を見過ごさず、足を止める人のことが私は好きだ。

 

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なにかとなにかが対として描かれるとき、いつも陰のあるほうに惹かれてしまう。太陽よりも月が好きだし、夏よりも冬が、村上隆よりも奈良美智が、クリムトよりもエゴン・シーレが好きだ。なんだかこれは、多数派の一員になることに対する抵抗、みたいなものかもしれない。

私は多数派の中でいつも落ちこぼれていた。運動が出来ず、背が低く、滑舌が悪い。そんな「めんどうな」子どもであれば、もちろん他の子たちから距離を置かれる。

そうしたさみしさを埋めたいときに、表現活動は都合が良い。絵を描いたり、日記をつけたりしておかなきゃ、辛い時間を埋められない。「ネガティブを潰すのはポジティブではない、没頭だ」というのは、芸人の若林正恭さんによる言葉だけれども、確かに私の没頭はネガティブを打ち消すために生まれたから、仰る通りなのである。

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