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映画 『燃ゆる女の肖像』 p.28の意味を考えてみる


 この記事のタイトルとして「p.28の意味」と大きな題をつけてしまったのですが、私がこの映画に登場するp.28についての感想と


どこで見たのかすら覚えていない、あやふやな情報をただ綴っただけのものなので、ホーンっていう感じでサラ〜リと読んでもらえれば嬉しいです。



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※既に映画を観た方を対象に書いており、ネタバレを含みます。
また、映画を観た自分の内なる感覚を大切にしたい方にはお勧めできません。ここで書いている情報にはエビデンスが無いものも多々ありますので、ご了承いただける人のみスクロールしてください。


 まず、この映画で特に印象に残る一つとして挙げられるのは「p.28」ではないでしょうか。


ざっくりと場面の説明をすると、エロイーズが思い出としてマリアンヌの絵が欲しいと。


じゃあ本に描いてあげるから何か数字を言ってとマリアンヌが促すと、

エロイーズは間髪入れずに迷わず「28」と答えるわけです(本当にざっくりした説明)

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それを聞いたマリアンヌは何かを「分かっている」ような表情で返します。


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2人にしか分からない意味深な表情が交わされ、とても意味のある数字なのだと観客に示す構図となっています。

でも正直、1回目に観た際は「何の数字???」と思いました。

だって、28という数字が何を示すのかハッキリとは分からなかったから。

「あ、あの神話のことだな」ぐらいには思いましたが、明確にその数字が表すものについてはピンと来なかったという感じでした。



では「p.28」には何が書かれているのか? 



 作中での該当ページの文章を下記でざっくり翻訳してみたいと思います。

その前にひとつ。

ここの場面、観客の意識が一瞬でもちゃんと文章にいくような絶妙な間があるので、シアマ監督ならここにも意味を込めているのだろうなぁと。

細部にまでこだわり抜かれている作品の美しさが様々なところに。

なんだか隠しミッキーを探す気分です(例えが何だか違う気もする)


ちなみに、どこかで読んだ海外ファンの方の感想によると

フランス語が分かる観客であれば、この文章がスクリーンに写った瞬間

"Fleur" 「花」という単語がパッと目に入るらしいです。



あ、あともう一つ。

作中で登場するこの本は実際に出版(販売)されているものではなく、作品のために作成された小道具だそう。

どこかのウェブページで見たファンによる情報によると、モチーフの神話である「変身物語」の結末がp.28という若いページに書かれている本は存在していないはずで、

フランスで出版されている本を色々と探したが見つけられなかったため

わざわざ28ページにこの文章を書いた本を小道具として作成したのだろうという予測でした(ま、そりゃそっか)。

小道具のレプリカで良いからこれと全く同じ本が欲しい…。


「Hey U Guys」のインタビューでご本人たちが語っていましたが、

エロイーズとマリアンヌを演じたアデルとノエミも
この作品以降、

28」という数字を見ると作品を思い出すのだとか。ふふ。


つい口元が ほころんじゃったので、翻訳に進みます。


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D' OVIDE LIV. X.
quelqu'éclat', en moins d'une heure. il en sortit' une Fleur rouge. qui ressembloit' à celle de la Grenade. Cette Fleur dure peu de tems, puisque les mêmes vents qui la sont  éclorre, la font' auffi tomber.

※フランス語 勉強初心者につき、間違いや誤訳などあればコメントなどで教えてください。

オウィディウスの変身物語
赤い花が咲き、ザクロに似ていた。
花の命は短し。花を咲かせた風がまた、その花を散らせるからである。


日本語訳が極端に短くなってしまいましたが、作中のp.28には大体このようなことが書いてあります。

この文章の登場人物(?)は「」と「」のようです。

前者はエロイーズ、後者はマリアンヌでしょうか。

風のように島に降り立ち、花を咲かせたかと思えば、束の間にまた風のように去っていってしまう。


この映画では特に「花」が一種のメタファーとなり、各要所で登場している印象が強いです。


p.28の話からだいぶ脱線しちゃうけど、特に顕著なのがソフィーが刺繍をするこの場面。



モデルにする花は色とりどりに咲き誇っているけれど、ソフィの刺繍にはまだ花が咲いていない。


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ここでは「咲いている花」からの「ソフィの手元」という順番でのクロースアップショット。

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後に、これと全く同じ構図で映し出されるのが次の場面。


先程と全く同じ構図なのに、映し出される順番は逆になっている。

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「咲いている花の刺繍」→「枯れた花」と先程に対比する場面が映し出されています。

この間にソフィが経験したもの、それは「中絶


p.28の文章で「赤い花」(言語:une Fleur rouge)という単語がパッと観客の目に入るようにしていることからも、

シアマ監督が描くものが観客を考察へと導く種まきのように思えて、この映画の深みにどんどんとハマっていく。

何回見ても新しい発見があって、でもはっきりと分からないところもあって、それを考えることも全部が楽しい!


p.28の意味ってなんだろう


 私が一番「なるほど!」と思ったのは、シアマ監督がアデルと初めて出会った歳を表している説でした。
……と言うのも、監督本人がどこかのインテビューでそのように語っていたそうな。


 シアマ監督とアデルが初めて出会ったのは、シアマ監督作のシンクロの世界を舞台にした青春映画『水の中のつぼみ』(原題:Naissance des pieuvres、英題:Water Lilies)の制作です。


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無粋ではありますが年齢を実際に計算してみると、

シアマ監督の生年月日は1978年11月、上記映画は2007年発表なので確かにシアマ監督は28歳だったということに。

そして上記インタビュー記事によると、「水の中のつぼみ」撮影後に2人は恋人関係となり、その後も長く美しい恋人関係を共にしたとありました。


この関係の最中に繰り広げられた、愛、芸術、映画が持つべき役割に関する熱い対話をこの映画で表現し、観客にも伝えたかったとのこと。


まさに対等な関係にある「コラボレーター」を体現するかのような実際の関係、互いを尊敬し合う信頼関係があるからこそ出来上がった作品なのだなと、にわかに感じざるを得ません。


では、p.28の意味を考察してみた! をそろそろ書き締めたいと思います。


あ、でも最後に

感想を一つだけ言いたいシェアしたい。

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エンディング近く、マリアンヌがエロイーズの肖像画に描かれた「p.28」を見つける場面は何度みても胸が苦しくなります。


この「あっ」という表情がなんとも言えず、観た際には本当に私もこの表情になってしまう。

本当に「あっ」という感じ。

マリアンヌの視点(ポイント・オブ・ビュー)で映し出され、人ごみがサッとモーセの海のように開き、再会するこの瞬間。

見つけた瞬間に内側で一気に巻き起こる複雑な感情。

水の中に沈殿していた砂が一気にかき混ぜられるような心情を感じました。


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マリアンヌは、どういう心境で、感情でこのエロイーズの絵を見たのだろう。


エロイーズは、マリアンヌが描いたp.28の神話の絵を見て何を思ったのだろう。


作中で描かれているものから無限に広がる想像は尽きません。


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また、画廊でのマリアンヌの服装の色合いが、マリアンヌ自身が描いた背後のオルフェイスとぴったりとリンクしていること。

(青いケープもそうですが、絵画の土の色とまで同じ)

ここでも、画家としての選択を取ると決断したマリアンヌから、人間としての感情が垣間見えてまた心がキュッとなるそんな感じを覚えました。


このマリアンヌの後ろに映っている他の絵画にも何か意味があるのだろうなぁと、特に向かって左側の絵には、女性と子ども、そして唯一の男性がなぜか彫刻なのは……? とか


こうやってまた細部にハマっていってしまう。


次のことも別記事に分けて書こうかなと思っていたけど、ええい、もうこの流れで書いちゃえ。


マリアンヌの回想で何度も登場するエロイーズのこの残像。


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これについてはシアマ監督がFYCのインタビューで、誰だって恋愛の最後が頭から離れないものだから、と語っていました。

このFYCでのインタビューは約27分間と、まとまった時間でのインタビューということもあって、監督が作品について深く語っていたのが印象的でした。

自分が映画を見た際に抱いた感情への答え合わせみたいな感覚で、とても興味深かったなぁ。


同時に、やっぱりそんなところまで考え込んで作っているんだ……とシアマ監督の凄さに圧倒され続けています。


キャスティングにおいても、アデルに負けない相手役として監督は

アデルと同じ身長、同い年、を条件にマリアンヌ役を探し始め、

作中では2人だけが同時に映し出される場面が多いため、同じ画角内でアデルに負けないインパクトを感じる人を……とオーディションを行い

オーディションでノエミの番がきて

監督がカメラのレンズを覗き込むと……

「これだ!」と

ビビッときたそう。


それがアデルとの素敵すぎるケミストリーを爆誕させ、

これほどまでに世界中でファンが燃ゆることに。


……あれ私なんの話してたんだっけ

そうだ、残像となる最後の場面だった。

(話があっちこっち飛んでごめんなさい)

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映画での「」は区切り(ex, 外の世界と内の世界など)を表すことが多いというけれど、まさにここで

扉を開けて外の世界へと飛び出ていくマリアンヌ。

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「振り返ってよ」と神話について語り明かしたあの夜の言葉にマリアンヌは

一瞬のためらいを持って振り返り、

その直後に扉が閉じられて真っ暗の中に佇むエロイーズの姿。

その姿が残像となり、マリアンヌの頭から今も離れない。

 外の世界へ風のように去っていったマリアンヌと、連れ戻されてしまったエロイーズ。


p.28

最初から最後まで徹底してオウィディウスの「変身物語」とリンクしていて、

何度みても飽きず、むしろ新たな発見や解釈が次々に溢れ出てくるそんな映画に出会えたことが奇跡のようです。感謝。


まだまだ考察したいこともあって、


冒頭で、島に向かう船上のマリアンヌが落ちたキャンバスをめがけて一切迷わず海に飛び込むシーンと、

エロイーズがマリアンヌに画家だと打ち明けられて、服を脱いで海に入っていくシーン。

あれは対比というか、一種の比喩だと思うのですが

海=世界、と仮定して

「泳げるか」or「泳げないか」は分からないけど

知らない世界に飛び込んでみようと思った決意の表れなのかな、とか。

「浮いていました」と返すマリアンヌに

いたずらっぽく笑う初めて表情を見せるエロイーズ。


自分のなかでもはっきりと分かるようで分からないところが多くて、

考えが止まらない。

こんなにも一つの映画作品にのめり込むことが今までなかったけど、

これはこれで楽しいなぁ。

……と、そろそろ締めますとか書いておきながらそこからの方が長くなってしまったので、さすがに書き終えることにします(笑)

溢れ出す感想とか感情をアウトプットせずにはいられないというか、一方的に頭のなかの感想を綴っただけの記事ですので、

適当に遊びながら読んでください!! ボワラ。

(フランス語で、じゃじゃーん!とか、完成!みたいな意味だそう。アデルの口癖なのかな)


では!アヴォワール!

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