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Handwritten name

私は、名刺を集めたカードケースを開いていた。

名刺の中には、きっともう二度とお会いすることがないようなお偉い社長さんの名刺もあれば、その名刺自体がクリエイティブで、飾っておきたいと思うようなもの、とにかく洗練されたデザインなんだけど、どんな人だったか名前を見てもぱっと顔を思い出せないような人の名刺など、いろんな名刺が入っている。

名刺は、不思議なものだなぁ。

多分、名刺の役目としては、名前と、連絡先がわかればいいだけの話。そこに肩書やら、住所やら、細かい情報が加えられていく。

デザインの世界では、名刺を見てどんな人か、どんな会社か、どんなプロダクトを取り扱っているのかがより分かるようにデザインされるのが好ましい。飲食店を経営しているのか、サロンを経営しているのか、お店の色、雰囲気がわかればもっと良いのかもしれない。(ショップカードなら特に大事!)

話は戻るが、

私が今までいただいた名刺の中で一番好きな名刺がである。
その名刺はとにかくシンプルで、デザイン的に言うと、正直物足りないかもしれない。フォントもそろっているわけではない。でも、私はそのデザインのシンプルさを評価しているわけではなく、手書きのサインが入っていることを評価している。それが、他の名刺との違いだと思うからだ。

日本の「名刺を渡すー貰う」のシチュエーションにおいて、きっと、渡す直前に名前を書いて渡すなんてことはまずないだろう。失礼に当たるから、前もって用意しておいた、縦横整列された、完璧な名刺を渡すのが一般的だと思う。
だけど、時間が経ってもう一度その名刺を見たときに、「これってそういえば誰から貰ったんだっけ…?」となることは意外と多いと思う。

この名刺を貰う前、私は彼と話をしていた。彼は、オスロのGrünerløkka(グルネロッカ)という町でレザーショップを営んでいる。Essential Articlesという名前のお店だ。

彼は、とても気さくで優しいベトナム人だった。日本人が作ったノルウェーのトラベルガイドに載せてもらったことを話してくれたり、レザークラフトの工房の中まで見せてくれた。そして、帰り際にこの名刺に名前を書いて、笑顔で渡してくれた。

ペンは、近くのデスクに置いてあった青いペンだった。なんでそこまで覚えているかと聞かれれば、そのペンのインクの感じ、字の雰囲気からわかった。

手書きで名前が書かれていると、名刺を交換し合ったときに、相手とどんな話をしたのか、相手がどんな感じだったかを思い出すことができるのだという事に気づいた。

例えば、字が少し震えていたなら緊張していたんだ、とか、嬉しそうで勢いのある字だから、きっと初めて会ったその日に新しいプロジェクトを一緒にしようと話していたのだろうとか、簡単に思い返すことができる。

とても字がきれいな人なら、信頼に繋がったり、責任感がある印象を受けるかもしれない。これを機に、名前が空欄の名刺をデザインしてみようかな?!
名刺を渡す直前に、「自分の字で自分の名前を書いて渡す」なら、その1枚を大切にしてもらえるかな。

一期一会の出会いを、もっと大切に思えるかな。
手書きって素晴らしいね。いい味が出る。そう思えた瞬間だった。