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「ちょうど今、やろうと思っていました!」の会話にある意図とは?職場に潜む信頼と主体性

こんにちは!シンギュレイトnote編集部です。

「この作業、やってもらえないかな?」
「ちょうど今、やろうと思ってたところでした!」

こんな職場での何気ないやり取り、身に覚えのある方もいらっしゃるはず。実はこのシンプルな会話の中にも、実は高度な認知機能と話者の意図が潜んでいるのです。

この会話に含まれる意図とはなんなのでしょうか?職場における何気ない会話の中に含まれる意図を考えます。

京都大学などの研究機関の教員・研究員として、ヒトの脳(認知神経科学)の基礎研究に第一線で従事。その後、大手人材企業でピープルアナリティクスの事業開発に取り組む中、株式会社シンギュレイトを設立。”信頼”をキーワードに、人と人との新しい関係・関係性を作り、新結合(イノベーション)を増やすことを目指す。ピープルアナリティクスの技術、学術研究などの知見を活用し、イノベーティブな組織づくりを支援している。1on1での話し方・聴き方を可視化する1on1サポーター「Ando-san」、イノベーティブな組織への変革を促す組織診断「イノベーション・サーベイ」を提供中。情報量規準が好き、漫画好き、サッカー好き。
話し手:鹿内 学,博士(理学)シンギュレイト 代表

1つのやり取りに秘められた意図 

今回は、ある職場で働く安東さんと馬場さんの会話からはじめましょう。

安東さん「この作業、やってもらえないかな?」
馬場さん「もちろんです。ちょうど今、やろうと思ってたところでした!」

この会話、みなさんも経験があるのではないでしょうか?上司からの依頼とそれに対する部下の了承の対話です。職場での何気ないやり取りの1つですね。

実はこれ、人間の高度な認知機能と社会性があるからこその会話です。きちんと確認はしてませんが、おそらくChatGPTをはじめとした生成AIでは、まだつくりだせない対話だと思います。さて、何が、いまの生成AIにはできない要素でしょうか?

それは、「ちょうど今、やろうと思ってたところでした!」という、馬場さんがおこなった自身の「意図の表明」です。本来、「この作業、やってもらえないかな?」という依頼に対しては、「もちろんです」の回答で十分なはず。ですが、馬場さんの返答には、『「馬場さんは、この作業に気づいてないだろう/やろうとは思ってないだろう」という安東さんの意図があって、私(馬場)に依頼したのだろう』という馬場さんによる、安東さんの意図の推測が含まれています。馬場さんが、安東さんの意図を推測しているからこそ成り立つ会話なのです。

ゆえに、「ちょうど今、やろうと思ってたところでした!」という言葉は、馬場さんが、安東さんの中にある自身(馬場さん)の意図の推測を仮定している高度な認知機能があるからこそ出てくる対話といえます。

意図と能力を示す

もう1つ、この会話には意味が込められています。それはなんだと思いますか?

高度な認知機能があったとしても、馬場さんがわざわざ「意図の表明」をおこなう理由には足りません。込められたもう1つの意味に関するキーワードは、シンギュレイトがマネジメントのコンセプトにかかげる「信頼」です。

あなたが誰かを信頼して仕事を任せるときを思い浮かべてみてください。あなたは暗に、相手に対して同時に2つのことを期待していると思います。その2つとは、その仕事ができるだろうという「能力」に対する期待と、仕事をやろうとしてくれるだろうという「意図」に対する期待です。能力があっても、やろうとする意図がなければ仕事はなされませんし、意図があっても、仕事をやり遂げる能力がなければ、仕事は達成されません。どちらが欠けてもダメなのです。

さて、次はこれを仕事を任される立場(部下)に立って考えてみましょう。部下は、相手に意図と能力を信頼してもらわなければ、仕事を任せてもらえないことになりますね。そこで、相手に対して「自身にはできる能力があり、やろうとする意図があること」を示す必要があるのです。

そうです、馬場さんは、「ちょうど今、やろうと思ってたところでした!」という返事で、やろうとする意図や、「すでに気づいてましたよ」という状況把握の能力を、安東さんに示したのです。馬場さんの返事は、相手からの信頼につながるとわかっているからこそできる社会性のあるシグナリング(相手にわかるように表現すること)なのです。

何気ない会話に見えますが、馬場さんは、職場の中で高度な認知機能と社会性を発揮し、行っているのです(無自覚に自然にできているかもしれませんが)。

誰かに言われる前にやる=主体性

さて、別の場面を例に挙げてみましょう。お子さんのいるご家庭では、夜ふかしがすぎる子どもに、「もう寝なさい!」と言った経験はないでしょうか?「もう寝ようと思ってたのに、言われたから嫌になった…」と言い訳をされたこともあるかもしれません。この子どもが、本当に寝ようと思ってたかどうかはさておき(苦笑)。

この子どもの返事(言い訳)には、馬場さんと同じように高度な認知機能が働いています。「もう寝ようと思っていた」という意図ですね。さらに、この反応は実は、「主体性」の発揮にもかかわります。子どもの主体性を発揮させるためには、自ら行動するまで待ってあげることが大事です。

これを仕事の職場に置き換えるとどうでしょうか?あなたが職場の中で、自分自身の主体性を発揮したいと思えば、誰かに言われる前にやらなくてはなりません。仕事においては、なかなか待ってはくれないものです。ただ職場では、期待に応えて良い仕事をするほど、周りの期待も高まっていきますから、早く早くと急かされることになるのが、世知辛いところかもしれませんね。

ちなみに、さきほどの夜更かしをする子どもへの対話は、日常の忙しい中では、待っていられないでしょう(苦笑)。そんなときは、質問してあげてみてください。「夜遅くなったけど、いま、何したらいい?」と。


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本記事は、シンギュレイトが毎週配信しているメールマガジンに掲載している代表鹿内のコラムを、シンギュレイトnote編集部が加筆修正したものです。メルマガ登録はこちらから。