DTMでBGMを。映画サントラ聴き比べ。/音楽編#3

第3回では、古今東西星の数あるサントラから「「スター・ウォーズ」「インターステラー」「戦場のメリークリスマス」「千と千尋の神隠し」などを比較しつつ、違いや特徴を見ていきます。
貼り付けたリンクから各種サブスクに飛べます。聴いてみてください。



○映画のサントラ(海外)

映画サントラ(SoundTrack)の歴史は古く、トーキー黎明期にまで遡ります。映写機にフィルムを読み込ませる要領で音楽を同時再生し始めたのが始まりでした。映画におけるサントラは場面を盛り上げる際に利用される、と思わがちです。しかし場面と音楽を紐付けさせて、後の伏線を張る効用もあります。
詳細は「インターステラー」の項で述べるとして、ひとまず時計の針を少し戻しましょう。


 ▽「ニュー・シネマ・パラダイス」(1988)


近代映画で、かつサントラが有名なものといえばエンニオ・モリコーネが手掛けた「ニュー・シネマ・パラダイス」のサントラがあります。

88年発表のテーマ曲は、麗らかな調べと映画との調和で多くの聴衆を魅了してきました。80,90年代までの多くの映画サントラは、シンセサイザーが生み出すような電子音よりも、生録音の演奏楽器―鍵盤,弦,笛―が生み出す音で構成されます。ベースやリズムラインを形成するドラム隊が加わるのは、もう少しあとの出来事。

80年代のクラシック強めのサントラとして「スター・ウォーズ」のテーマがあります。誰もが一度は聞き覚えのある名曲。


 ▽「インターステラー」(2014)

一気に時代は下って2014年。ゼロ年代以降の映画音楽といえばハンス・ジマー御大抜きには語れません。ノーラン組で誕生した「ダークナイト」「インセプション」「インターステラー」のサントラは、ジマーのディスコグラフィーで最高傑作と言えます。
ハンス・ジマーの特徴は、.....ブウォォーーン!!...ドゥーーーン....などのとにかく重い低音。劇場のサウンドシステムでの再生を前提に設計された低音は、一度聴いたら忘れられない印象を残します。

ハンス・ジマーの功績はDTMを駆使しての作曲を体系化した点に代表され、それら新世代の映画音楽作曲のテクニックは、様々な流派と無数のフォロワーを生み出します。つまり、10年代以降の映画・ドラマサントラ産業の7割ほどには、彼のDNAが受け継がれていると言っても過言ではありません。

ハンス・ジマーサントラのもう一つの特徴は、そのアンビエント性。アンビエントとは何か。ざっくり言うと、同じような音がずっと下の方で鳴ってるヒーリングミュージックみたいなもの。インターステラーのだとこれが近いでしょう。

とりあえず下地で音を鳴らしつつ、それを基礎に上物で装飾していく。これが基本的な構成です。勘のいいひとは気付いたかもしれませんが、いま書いた内容はまんまロックミュージックの特徴をトレースしています。リズムを優先する黒人音楽の流れを汲んで成長したロックは、ドラムラインで拍を刻む習慣があります。映画音楽においては、クラシカルな従来型の構成にドラムが直に入ることがなかった代わりに、エレクトロニカを経由することで下地+上物の構成が輸入されたわけです。

同じ音がずっと鳴っていてそのフレーズのアレンジを重ねてリフレインさせる、といった手法は、映画音楽にも利用されます。ハンス・ジマーもよくやる手のひとつですが、序盤のシーケンスでメインテーマの軽いアレンジを仕込んでおいて、クライマックスで本格実用する、などです。

「インターステラー」はアレンジが特にリフレインされる映画で、何度も同じフレーズを聴かされます。それでも飽きないのは下地が毎回変わるから。ジャケットが同じでもシャツを変えるだけで印象は大きく変わります。


 ▽「アベンジャーズ エンドゲーム」(2019)

御多分に漏れず、アベンジャーズのサントラにも上記のテクニックは使用されています。

アラン・シルヴェストリはサントラ作家の中でも電子音よりアコースティックな音を好む作家です。そんな彼でも、リズムラインでちゃんと太鼓を持ち出してきます。



○映画のサントラ(国内)


 ▽「戦場のメリークリスマス」(1983)


日本の映画音楽がこの手のテクニックをあまり使用しないのも、音楽文化的に文脈がずれてるから。例えば坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」サントラにおいて、有名な【チャラチャラチャン~ チャラチャラチャラ チャラチャラチャン~】のフレーズがあるのはテーマ曲ともう1曲だけ。

本編でこのフレーズが流れるのは2回―中盤の会議シーンとラストですべてを受け入れシニカルな笑顔を浮かべた北野武が「メリークリスマス、ミスターローレンス」というクライマックス―のみ。ハンス・ジマーなら本編で軽く10回はアレンジを繰り返すはずです。

一方で、坂本龍一はYMOでゴリゴリのエレクトロニカをやってます。戦メリから10年も前に「RYDEEN」が世に出ているわけで、坂本龍一がハンス・ジマーになれた世界もありえた...? 

もちろんエレクトロニカがサントラカルチャーから離れていたのではありません。80,90年代の日本ではゲーム音楽として需要され、独自の発達を遂げました。当時のゲームはデータサイズに制約があり、どうしても繰り返し似たフレーズで尺を稼ぐ必要もありました。そのあたりの条件と音楽的性質がちょうどマッチしたのでしょう。
のちの歴史が示すように、ゲーム音楽と日本の映画音楽は未だ交わっていませんがね。



 ▽「千と千尋の神隠し」(2001)

日本の映画音楽家といったら彼、久石譲がいます。

久石譲の特徴は何といっても美麗なピアノメロディに尽きます。ひたすら綺麗。
静かなピアノ→弦で盛り上げ→笛も参加→全部盛りで豪華サウンド→ピアノで締め。この流れは久石譲サントラでよく目に―耳に?―する構成です。良くも悪くもメロディで勝負している以上、違う曲でも似通った印象を受けます。
そして、日本の映画・ドラマ音楽の多くはこのメロディ重視かつドラム隊なしの座組みであるため、必然的に似た曲が増えます。電子音でないため音色がほとんど変わらず、誰が何を演奏していてもどこか”久石譲感”が出てきてしまいます。

サントラを作る際、このメロディ重視戦法はオススメしません。コスパが悪いからです。凝ったメロディを頑張って生み出しても、生音だからアレンジレパートリーが少ない、しかも下地がないからアレンジが目立つ。
もちろん優れたメロディが作れるに越したことはありません。しかし効率化させたいのなら、生音演奏生録音はやめるべきです。おとなしくピアノ音源をインストールして、さっさと好みの音色に変えてから上物を仕立てましょう。


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さて、海外と国内の映画音楽をざっとさらってみました。聴き比べてわかるように、緊張感の演出には太鼓が欠かせません。エレクトロニカをやらないにしても、何らかの音でリズムを刻んだ方がお得です。(これは生理学的にも当然で、緊張すると心臓の鼓動が高まりますよね。ドラムラインはあれを意図的に調整しているんです。)
そして感動的なテーマを用意したかったら、アンビエントを意識すること。下地を鳴らしその上でメロディをつける!


だいぶ寄り道もしました。次回はドラマとアニメのサントラの話。

・第4回


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