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【映画】リヴァプール、最後の恋(2017) 全てのピースがはまるとき、そこには確かに愛があった

『リヴァプール、最後の恋』(2017)

50年代に活躍した往年の女優グロリア・グレアムと駆け出しの舞台俳優ピーター・ターナーの恋を、ピーター自身の回顧録をもとに描くラブストーリーです。

【ストーリー】
1981年9月29日、ピーター・ターナーはかつての恋人グロリア・グレアムが倒れ、英国ランカスターのホテルにいると知らせを受け、駆けつける。

序盤、病に倒れたグロリアが2年前に別れた若き恋人ピーターを呼び出して
「病院には行きたくない。あなたのお母さんに面倒見てもらいたいからリヴァプールに連れて行って」と言うのには「何それ?」となります(笑)
こうして再会することが2人の将来のためにいいことなのかわからないピーターは困惑の面持ちを隠せないわけですが、グロリアの願いどおり家に連れ帰るのは、彼女に思いを残していたからなんでしょうね。
リヴァプールではピーターの両親がグロリアとの再会を喜び、歓迎してくれる。グロリアと言葉を交わせば、ピーターにも懐かしい日々が蘇ります。


構成の面白さ
面白いのは、2人の出会った79年と、再会した81年の二つの異なった時間と空間が自在に行き来するところ。

オゾン監督の『ふたりの5つの分かれ路』やデレク・シアンフランス監督の『ブルーバレンタイン』など、異なる時を対比させ、恋の始まりと終わりを描く映画は過去にもあったけれど、リヴァプールのピーターの部屋で、初めて出会った頃を懐かしめば、部屋を出たとたん、そこにロンドンのアパートが現れたり、電話で「カリフォルニア」と口にすると、ドアの向こうはグロリアの待つロス空港だったり といった具合に時空間を瞬時にワープする本作はちょっと異質。
それはきっと、回顧録をしたためるにあたり、グロリアとの思い出をジグソーパズルのピースを集めるように紡いでいった、ピーターの頭の中そのものでもあるんでしょう。

観てる方としては少し戸惑うものの、イギリスとアメリカの空の色や空気感の違い、文化や家族との関係の違いなども対比され、構成として面白いと思いました。

役者陣の素晴らしい演技
グロリアを演じるアネット・ベニング、ピーター役のジェイミー・ベルの2人が凄くいいんです。

映画冒頭、グロリアの口元のアップに老いを感じさせたと思ったら、79年のグロリアはなかなかにキュート。ピーターと『サタデイ・ナイト・フィーバー』を踊るシーンなんか楽しくて永遠に見ていたくなります。

30歳近くも年上という負い目から、ピーターに対して突如ヒステリックになる場面もありました。あるときは可愛く、ある時は激しく、時にセクシーにグロリアを演じるアネットから目が離せません。

ジェイミー・ベルは『リトル・ダンサー』以後、暗めの役ばかりが印象に残っていたこともあり、今回彼がこんな魅力的な役者になっていたことに正直びっくり。
古いフィルムのなかで輝くグロリアを熱いまなざしで見つめたり、オスカー女優と知ってキャリアの差にへこんだり 過度な説明を省いた作品だけに、ジェイミーの 台詞に頼らない内面の演技が光ります。

大物女優の悲しい運命
劇中のアパート大家の言葉を借りれば、グロリア・グレアムは尻軽女の役がはまり役の女優さんだったらしい。
彼女は4度結婚してますが、2番目の夫ニコラス・レイの13歳の息子とベッドにいるところを見つかるなど(その息子は4番目の結婚相手に)、
別れた夫二人から訴訟を起こされたらしい。私生活でも恋多き女性だったんですね。

そんな波乱万丈な結婚生活が影響してか、生活は豊かではなかったのでしょう。公演前に倒れたグロリアが滞在したランカスターのホテルの質素さや、年季の入った化粧ポーチに、華やかなキャリアとのギャップを感じます。
最後まで仕事をすることにこだわったのは生活のためか。一方、演じることに誇りと喜びを見出してもいたようで、女優の光と影を感じるところでした。

まとめ
ピーター・ターナーの回顧録をもとに、往年の大女優としがない舞台役者との恋を振り返る本作。
あのとき何が起きていたのか、あとになって気づいたんだろうとわかるシーンが挿入されているのも印象的で、手記をしたためるうち、グロリアと過ごした日々が鮮やかに蘇ったのでしょう。
『夢のカリフォルニア』に胸がキュンとなったのは、私自身の思い出にシンクロしたから。

古い映画に通じている方には、一層おすすめです。