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【映画】フィツカラルド(1982)


ずっと観たいと思いながらそのままになっていた『フィツカラルド』を観た。

19世紀。ペルーのイキトスに暮らすフィッツジェラルド(フィツカラルド)が、娼家を営む恋人モリーを伴って、有名なオペラ歌手のブラジル公演にやってくる。
途中船の故障で開演に遅れるも、何とか入場を許されオペラを堪能。
彼にはアマゾンの奥地にオペラハウスを建てるという壮大な夢があった。
まずは土地を買い、ゴムで資金を得ようと計画するのだが、そこは途中の急流に阻まれ船を乗り入れることのできない難所だった。

フィツカラルド(1981)
原題:Fitzcarraldo
監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
出演:クラウス・キンスキー/クラウディア・カルディナーレ/ ホセ・レーゴイ


オペラハウス建設を夢見る男の話だが、映画の中では建設まで全然行きつかず、なんならゴム農園を整備するところさえ描かれない。
農園を開く未開の地にたどり着くまでのお話。アドベンチャーともいうべきそれがトンデモなのだ。

急流を渡れないから、船で陸地越えしようって言うんだから主人公は相当狂ってる。いや、狂ってるのはそこをリアルに描いてしまうヘルツォークか。

ロープで引っ張られ、ジリジリと船が山を登る。
YouTubeなら1、75倍速くらいにしてしまうところそうしなかったのは、ヘルツォークの狂気を見届け、難儀をした演者たちにも敬意を表すのが作法のような気がしたから。

船の山越のシーンはもちろん、船上でも緊張が走る。仲間に犠牲者を出した原住民が何故作業を続けるのか。彼らの思いが見えないことが映画にスリルを生む。
乗組員たちが銃を構える中、フィツカラルドも緊張するものの中断を指示することはない。どうしても成し遂げたい強い思いからに他ならないのだろうが、飄々としてやり過ごすキンスキーがなんだかいい。

緊張と浪漫のせめぎ合いが本作の見どころ。
フィツカラルドにとっての浪漫はオペラで、これが本作の魅力を引き立てる。

冒頭の迫力の舞台歌劇
河を渡る船のスピーカーから流れる穏やかな演奏
そしてフィナーレ、山越えの成功を祝して開かれる船上のオペラ!

小さな手漕ぎの船でオペラ隊が集まり来る様に胸が躍り
音響環境などものともしない、ホンモノのオペラを目にした瞬間
フィツカラルドの浪漫に共感できてしまった。

思えば彼の野望は金儲けのためではない。
失敗はしたものの鉄道を通そうと思ったのも辺鄙な村を豊かにするため
田舎町にオペラハウスを建設するのも同じだろう。

駆けつけたカルディナーレ演じるモリーの笑顔が弾ける瞬間、映画的興奮もマックス。
赤いシルクの椅子に座るところまで見たかった気もするけど、想像するのも楽しいもの。


インディワイヤー選出80年代TOP100の79位