【映画レビュー】『百円の恋』/ 監督 武正晴(2014年/日本)


NHK朝ドラの主役に抜擢され、今や国民的女優になった安藤サクラの出世作の一つ。32歳で職歴なし、実家にパラサイトするニート女・一子という主人公を演じる。姉とのいさかいをキッカケに家を出た一子が近所の100円ショップでアルバイトを始めるところから物語はスタート。店に客として訪れるボクサー・狩野(新井浩文)と接するうちに恋慕を抱くようになり、自身もボクシングジムへと入門する。一方、引退をして傷心の狩野は一子のアパートに転がり込みヒモのようになるが、一子のことは恋人と認めず、別の女性に乗り換えてしまう。一子はやり場のない思いをぶつけるようにボクシングにのめり込んで行く。

大まかにいうと、花沢健吾作の漫画「ボーイズ・オン・ザ・ラン」の女版といったところ。汗と精液がほとばしる青春偶像劇。ただし、主人公が成長するところまでしっかり描いているという点では花沢作品とは異なる。タイトルに「100円」と入っているが、登場する100円ショップのブラックな労働環境や社会の末端という言葉を連想させるような従業員達についても詳細に描かれている。


いわゆるロスジェネ世代(私も含む)が自嘲気味にこういう物語を好む風潮が0年代にあったように思うが、さすがにもうこの手の設定は陳腐化してしまい、なおかつ時代にそぐわなくなってきたのではないかというのが私の感想だ。同作品の公開は2015年である。ちょっと古臭い作風という印象が拭えない。

一方、主演の安藤サクラの女優としてのストイックさは目を見張るものがある。物語の冒頭では太っていて動きもウスノロな感じだったのが、ボクシングにのめり込んで行くにしたがってアスリートのように俊敏で引き締まった身体へと変身する。撮影中にかなりの体重コントロールをしたのではないだろうか。正直、安藤サクラの演技だけで見応えを感じてしまう映画だと思った。

なお補足ではあるが、100円ショップの描かれ方がステレオタイプに満ちているようで少し気になった。勤めている人はみんな貧困層、運営会社はブラック、就職できない人の最終到達地点のような扱いだ。これはさすがにディフォルメし過ぎだろう。

同じく安藤サクラが主演する「万引き家族」のクリーニング店に関しても同様の指摘がされている記事を読んだことがある。あらぬ差別を助長する設定は良くないが、誰からも批判の起きない毒気のなさも映画としてはソツがなさすぎるように思うので、難しいなあと感じた。

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