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精神のつながりに共鳴。女性監督が描く同性愛〜『Sisterhood』(『姉妹関係』)@We Are One: A Global Film Festival

 毎年3月に開催される大阪アジアン映画祭。アジア映画、特に中華圏の映画を日本に紹介している第一人者、暉峻創三氏がプログラミングディレクターに就任してもう10年以上になるが、私も同時期にボランティアとして同映画祭に参加し、広報という役目のおかげで開催前にほぼ全作品のスクリーナーを観て、時にはカタログ原稿を執筆したり、SNSで見所を紹介してきた。近年は50本以上の作品が上映されているので、毎年春、集中的にアジア映画を観るのが一年のサークルに組み込まれているのだ。ただ、数が多すぎるが故に、観たことがあっても、印象に残らない作品もやはりある。

 そんな中、新型コロナ禍ならではの試みとして世界21の国際映画祭が参加し、今年初開催されるオンライン映画祭「We Are One: A Global Film Festival」で、マニラ国際映画祭のキュレーション作品として長編劇映画『Sisterhood』が6月2日から配信されている(1週間アーカイヴ配信)。

 この作品は記念すべき第1回マニラ国際映画祭観客賞と主演の1人、ジェニファー・ユーが最優秀新人女優賞を受賞した作品であり、さらに海外初上映となった大阪アジアン映画祭2017で、相手役となるもう1人の主演、フィッシュ・リウが来るべき才能賞を受賞、つまり、中国返還前のマカオを舞台にした若い二人の過去パートが、実に魅力的に描かれている作品なのだ。数多い作品の中でも、観た当初から強い印象が残ったのは、他でもないこの二人の言語化しがたい関係性なのだと思う。

 映画祭タイトルは『姉妹関係』となっている本作、身寄りのないセイは、働き始めたマッサージ店の先輩リンを慕い、大家からアパートを追い出されたことをきっかけにリンと同居をはじめる。甲斐甲斐しく家事をするセイと、幾人もの彼氏とデートをしてもセイと過ごす時間の方が楽しそうなリン。リンの妊娠をきっかけに、セイは二人で赤ちゃんを育てることを提案し、二人のママに一人の息子の生活が始まる。だが、セイのマッサージ客だった台湾人男性が、セイに好意を寄せていることをリンが知り・・・。

 過去パートでは、これだけ仲睦まじい二人を描くのに、一切性描写はない。大阪アジアン映画祭では女性の同性愛を女性監督が描く作品を今まで何度か上映しているが、どれも直接的な性行為でそれを示すというよりは、もっと精神面でのつながりを、繊細に表現している。本作もタイトルが示すように、一生共に生きたいと願うぐらい心の通じた二人の皮肉な運命や、封じ込めてしまった過去と再び向き合うことで再生しようとする女性を描いたヒューマンドラマであり、だからこそ、劇場公開してほしいと思うぐらい心に残っていたのだ。若き日のペ・ドゥナを思わせるフィッシュ・リウ、外での洗練された身のこなしと、家でのだらしなさのギャップがキュートなリンを演じたジェニファー・ユー。現在中華圏で活躍している若い二人の、微笑ましい親密さは、久しぶりに観ても色褪せなていなかった。オンラインプレミア作品なので、英語字幕だがぜひチャレンジしてほしい!

『Sisterhood』@We Are One: A Global Film Festival

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