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『甘いお酒でうがい』『私をくいとめて』が示す「女の敵は女じゃない」

 2020年最後の映画鑑賞は、兼ねてからずっといいよとシネルフレ編集長に勧められながら見そびれていた大九明子監督の『甘いお酒でうがい』だった。いやぁ、本当に見ることができて良かった。松雪泰子演じる40代独身の主人公、川嶋佳子の日常を日記形式で綴るエッセイのような映画。12月にのん主演の『私をくいとめて』が公開され、現在も絶賛上映中だが、のんが演じるお一人さまのアラサー女子、みつ子は独り言や脳内の優秀な相談役Aと対話するが、本作の佳子は自分と向き合い、自分や、自分の周りに起きる出来事を静かに見つめ、そして日記という形で綴っていく。映画ではそれが佳子本人によるナレーションとなるが、そのなんともいえない語りがしみじみしていて、じんわり沁みることもあれば、深くえぐられるような気持ちにもなる。ふた回りも年下の彼氏が出来てという展開には驚くが、それよりもインパクト大なのが、黒木華が演じる会社の後輩、若林ちゃん。決して友達は多くないという佳子のことを真剣に心配したり喜ばそうとしてくれる頼もしい後輩であり、ちょっとぶっ飛んだ感覚の持ち主。自分の後輩、岡本くんを紹介し、佳子とうまくいくように岡本くんへ色々アドバイスもしているとは。いざ二人が付き合うようになると、寂しくなって手のひらを返すとか、そんな器の小さい女性ではないのだ。

 そういえば、『私をくいとめて』でも臼田あさ美が演じるみつ子の先輩が、頭でっかちになっているみつ子を解放してくれたっけ。会社の先輩、後輩といえば、恋敵だとか、女の敵は女と言わんばかりに描かれることも多いのだが、大九監督が描く女たちは、支え合い、お互いをプラスの方向に誘っている。緊張がほぐれるとても素敵な関係で、私は主人公の恋模様より、むしろ女性たちの描写に惹かれるなとこの2作品を観て思った。それにしても佳子のナチュラルな大人可愛いコーディネートのなんて素敵なことか。ウォン・カーウァイの傑作『花様年華』でマギー・チャンが何十着とチャイナドレスを着こなすのにも心動かされたけれど、松雪泰子が着こなすファッションの数々も大きな見どころだった。日常の中の小さなドラマ、ふとした違和感、共鳴する気持ちを優しくすくい上げた、好きだなーと思える作品だった。

(C)2019吉本興業

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