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日本映画界、コロナ禍の取り組みが分かるトークを無料配信中@米映画祭「JAPAN CUTS」

 6月、ドイツで日本映画を紹介する映画祭「ニッポン・コネクション」がオンライン開催されたが、7月も米ニューヨーク市のジャパン・ソサエティーが主催し、最新日本映画を紹介する「JAPAN CUTS」が31日までオンライン開催中だ。

 実は大阪アジアン映画祭では、インディ・フォーラム部門の日本映画を対象に、米国ニューヨーク市のジャパン・ソサエティー(日本映画祭「JAPAN CUTS」主催団体)がエキサイティングかつ独創性に溢れると評価した作品に授与する「JAPAN CUTS Award」が設けられており、今年は日本・香港・韓国合作の三澤拓哉監督作『ある殺人、落葉のころに』
”The Murders of Oiso”が選ばれた。

 そういう経緯もあり、毎年インディ・フォーラム部門で上映された作品が数多く「JAPAN CUTS」に選ばれている。オンライン開催された今年はメジャー系作品から、大阪アジアン映画祭出品作では『ある殺人、落葉のころに』、最優秀男優賞を受賞した『コントラ』、短編の『白骨街道』が選ばれており、コロナ禍で制作、先日予告していた7月24日無事公開を果たしたばかりの豊田利晃監督最新作『破壊の日』も、同日から「JAPAN CUTS」で配信されているという。リージョン指定があり、アメリカ国内しか作品は鑑賞できないのだが、いくつかのトークセッションがアーガイブ公開されており、こちらはメールアドレスを登録してログインすれば、無料で鑑賞できる。

 大林宣彦監督を偲ぶトークでは、大林監督の長女で執筆活動も行なっている大林千茱萸さん、後年の大林作品常連女優だった常盤貴子さんらを迎える他、『セノーテ』で第一回大島渚賞を受賞した小田香監督、『プリズン・サークル』の坂上香監督、装幀家の菊地信義さんに密着した『つつんで、ひらいて』の広瀬菜々子監督らを招き、ドキュメンタリーの作り手とそれぞれの作品について考察を深めたトークもある。

 中でも興味深かったのは、コロナ禍の日本映画界の新たな動きや、そこから出て来た課題を考察するトーク。

●コミュニティシネマ事務局長 岩崎ゆう子さん(4月初旬からスタートした「Save the Cinema」の呼びかけ人)


●濱口竜介監督(4月初旬から1ヶ月間クラウドファンディングを行なった「ミニシアター・エイド基金」発起人)

●配給会社東風の渡辺祐一さん(想田和弘監督と「仮設の映画館」を構想、立ち上げ)

●シネ・ヌーヴォ 山崎紀子支配人(4月初旬1週間で「Save Our Local Cinemas」プロジェクトを展開。支援Tシャツに1万3千枚の注文が集まる)


の4名が、それぞれどういう経緯でその活動を立ち上げたのかという背景とその反響や結果を報告。またそれだけではなく、コロナ禍でそれぞれが感じたことについても語っている。

 先日オンラインで行われた「Save the Cinema」公開報告会で話題にものぼらなかった、アップリンクの従業員訴訟問題(パワハラ問題)についても語られ、山崎さんは「劇場スタッフとしてすごく考えた。どこの映画館も常態化しているのではないか。独立系の映画館は一商店と同じで、監視的なものがない一国一城の主。労働環境面でも、同じ映画館で長く働いているスタッフがアルバイトのままなことが多い。劇場の経営者は高齢者の方も多く、無自覚のうちに若い従業員を追い詰めている可能性もあるので、ミニシアター全体で、ガイドラインのようなものを作れないか、相談したいと思っている」と明かした。

 また、濱口監督がコロナ禍で実感したことについて、「敵がはっきりした。短期性 短い時間で何かをしようとすること」と断言。「ある種区切られた時間の中で、例えば年度内で利益を出すということをやっていると、非常に難しいことになってしまう。何か違う物差しを持つ必要がある。この時間にお金ではなく、保守的な部分で確保したお金を、短期的な回収が認めないものにきちんとコストをかけていかないと」と、濱口監督の中でのパワハラの根源問題について語っていた。時間をかけて映画を作ることも、映画館で人を育てることもどんどん難しくなり、全てが短期で結果を求められる傾向にある今、それこそが問題の根源であることを指摘したこの言葉は、本当に多くの人に聞いてほしいと思わずにはいられなかった。

 日本より映画界や映画館が深刻な状況にあるアメリカの視聴者にコロナ禍の日本映画界の取り組みを紹介することが目的のトークだが、人選も見事、そして他では聞けない踏み込んだ内容になっており、「JAPAN CUTS」のオーガナイズ能力の高さにも感心した。7月31日までは視聴できるので、ぜひ聞いてみてほしい。


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