『グッドナイト・マミー』(2014)

 オーストリア映画で、ドイツ語の映画。英語の題名だから英語の映画だと思って観たらドイツ語で驚いた。先入観、良くない。オーストリア映画は初めて。オーストラリア映画ならたくさん観てきたのだけど。

 整形手術をして双子の元に帰ってきたお母さん。双子たちはお母さんが偽物ではないかと疑う。というのが大体のあらすじ。

 顔を包帯で覆い、素顔を見せようとしないお母さんは確かに不気味だし、すぐにカッとなる様子を見ると双子たちの疑念も理解できる。そんなことを考えながら観ていると、次第に双子の方の様子も怪しくなっていく。

 『ドリーム・ハウス』や『アザーズ』が好きな私は、冒頭から本作の仕組みを察していた。答え合わせをしながら観ていくと、やっぱり私の予想は的中していた。こういう映画が好きな人はすぐにトリックがわかってしまうかもしれない。しかし、それでも流れる時間は心地よかった。

 肉親への疑心暗鬼ほど辛いものはないし、肉親から向けられる疑心暗鬼も辛い。お互いへの不信感を増幅させるのは、舞台となっているひんやりとした雰囲気の家だ。ガラス張りの部屋は明るくもあるが、一度ブラインドをおろすと暗く怪しい空間へと様変わりする。二つ置いてある人のシルエットを描いた絵は不気味で、ぼんやりとした不安感を募らせる。子ども部屋には、双子の集めた虫が蠢く水槽がある。カサカサと動き回る虫を、子どもたちは無邪気に掴んで弄ぶ。

 子どもの無邪気さが巻き起こす一連の騒動。純粋であるからこそ、母が偽物だと信じ、本物であるなら証拠を見せるように迫るし、過去の悲劇を乗り越えられずに幻影を追ってしまう。この無垢な心を責めることのできる者はいまい。

 興味深いのは、母に本物である証拠を迫りながらも、葛藤していることが双子の会話によって示されることだ。内面の揺れが双子の片割れに映し出されて、目の前の母を絶対に偽物だと信じているわけではないことが読み取れる。そこに、双子が完全な悪ではないことが描写され、観客の同情を誘う余地が生まれている。エスターやオーメンなどの完全悪との差である。

 ラストがバッドエンドだという人は多いだろう。しかし私はハッピーエンドだと思いたい。本物の母親と双子が一緒になり、幸せに暮らしていくであろう姿が想像できる。現実との乖離があるかもしれないが、主人公にとっては幸福な幻想に生きていくのだ。『パンズラビリンス』のオフェリアのように。

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