見出し画像

IBDと戦った同志たちとの再会

最近、嬉しい出来事がありました。
私の昔の患者さんたちが、相次いでカナダに来たのです。
お一人は、カーリングの選手として、もうひとりはマッサージセラピストとして。二人が一緒に写真に写っていたので、びっくりしました。

二人は潰瘍性大腸炎を患っていました。
IBD(Inflammatory Bowel Disease)とは、炎症性腸疾患、クローン病(Crohn's Disease)や潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis)などの腸に炎症を起こす難病の総称です。

10代から20代で発症することが多く、突然の腹痛や頻回の下痢、下血で消耗し、絶食や治療のために長期入院しなければならず、学業や日常生活に支障をきたします。完全に治す方法が見つかっていないため、寛解と再燃を繰り返し、重症の患者さんは厳しい食事制限や定期的な点滴治療や免疫抑制剤の内服が必要。内科的治療に効果が見られない場合は手術を受けることもあります。

私の病院には、薬の効果がでなくなって変更したり、症状が悪化して絶食管理になったりして入退院を繰り返している患者さんもいらっしゃいました。重症だと、一回の入院期間が1〜2ヶ月に及ぶこともあります。

ひどい下血で半死半生のような状態で緊急入院されてきた患者さんに輸血したり、ステロイドパルスしたり、ひどい腹痛(ほぼ全部の患者さんが腹痛に苦しんでいます)に一日に何回も鎮痛剤、時には麻薬性の鎮痛剤の投与。手術の準備やら術後のストマの指導やら。そもそも、免疫抑制剤や手術を決める際には、医師による説明だけではなく、看護師も患者の決定の支援をします。(要するに、話を聞いたり、補足説明したり)
しかも、ほとんどの患者さんが10代発症の若者。人生の一番輝かしい時期、受験や就職などの人生の転機となる時期に腹が痛くてトイレに駆け込まなくてはならず、食事も取れず、ひどい痔瘻に悩まされ、何ヶ月も入院という。
IBDはしゃれにならない悲惨な病気です。この病気は通常命に関わる病気ではないのですが、残念ながら合併症などで命を落としてしまった人も何人か知っています。

大腸を全摘するとか、ストマ(人工肛門)をつけるとかはとても大きな決断です。中には10代のうちにその決断を迫られる場合もあります。夢を諦めた女の子、不安で夜中に泣いている子。手術しても痛みが取れなかったり、痛み止めが全然効かないと訴えられ、どうすることもできない無力さや申し訳無さを感じながら、私は次々と点滴を回っていました。

と言うわけで、IBDの患者さんたちは全員同志です。

カーリングの日本代表でもあった阿部さんは、今も現役で時々カナダに遠征に来ます。彼は、自分がUCにかかったことを公表し、IBDという病気を知ってもらおうと活動を行っています。難病指定ではありますが、年々患者数が増えていてプロスポーツの選手も罹患しています。最近では、陸上の桐生選手がこの病気にかかったことを公表しました。しかしながら、診断が難しいため見過ごされていたり、しょっちゅう腹痛を訴えたりトイレに駆け込んだりするので、神経質だとか、気が弱いなどと誤解されてしまうこともあります。

https://www.sanspo.com/article/20220929-X22GXAIM2BGIJDDHP3NUO5OJG4/


もう一人のSくんは、当時10代の高校生でした。今は、病気を克服して(大腸全摘)柔道整復師の資格を取り、ワーホリでカナダに来るまでになりました。感無量です。

高校生でIBDを発症した患者さんたちは、長期間学校にも行けず好きなものも食べられず、非常につらい思いをしたことと思います。定期的に免疫抑制剤の点滴や注射が必要な場合もあり、受験や就職活動に支障が出る場合も多く、定職につけない人もいます。海外に行くなんて夢のまた夢みたいになるのです。

病気にへこたれず、自分の道を進んでゆく。
本当に、立派だと思います。
彼らの輝かしい人生を、これからも応援していきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?