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看護師の私がどのくらい冷静かというと

感情を表さないことが美徳とされて育ってきたので、かなり焦っていても基本無表情である。

新人の頃は、理不尽にもそのことで先輩に怒られた。
「ちょっとは焦ったらどうなの?」と。

いやはや、患者さんの前で焦ってどうする。
より不安にさせてしまう。でも、点滴のルートを取る時はよく変な汗をかいている。やっぱり、見えない血管に針を刺すのは難しい。

それはさておき、臨床で三年も経つと怒られなくなる。なにしろ、先輩がどんどん辞めていくので気づいたら、序列がだいぶ上の方になる。
8年経ったら、自分の上には役職者しか居なくなっていた。

本題に移る。
私は、怪我人が運ばれてくるような修羅場で働いたことはない。
でも、患者さんは時々亡くなる。
老衰や末期癌などでターミナルの場合は、いつ亡くなってもおかしくないので全く驚かない。むしろ、患者が亡くなるとはつゆほども思っていなかった家族に逆ギレされてこっちが驚くことはある。

ある時、巡回時に大部屋のカーテンの隙間から患者さんの腕がつき出ていた。状況的にホラーである。
数年間癌の闘病後、癌が転移していて、明日にも緩和ケア移行の面談をする予定・・・という患者さんで、残念ながらお亡くなりになっていた。
ちょっとびっくりしたが、恐怖とかはない。
とりあえず、他の患者さんを驚かせないように、大急ぎで個室に移し主治医とご家族に連絡を取る。

突然の大量吐血もある。
「やべえー。窒息かショック起こしてしまう!」と内心少し焦るが、極めて冷静に片手で患者の体を支えて、口からゴボゴボ出てくる血液をベースンで受けながらナースコールで応援を呼ぶ。この方は、体力があって失神もしなかったので助かった。

死とか、発作に対する耐性はある。
一番焦るのが、認知症やせん妄の患者さんかもしれない。
ある夜、初めて睡眠薬をの飲んだ患者さんが、ベッド上に立ち上がって恍惚とした表情で天井を見上げていた。それはまるで、アルプスの少女ハイジのワンシーンのようだった。(ハイジがクララと勉強している時、アルファベットがツノの大きなヤギに変身してハイジが空想のなかのアルプスの丘に立っているシーン。もちろんこの後、ロッテンマイヤーさんに大目玉を喰らう)
患者さんの腕からは、抜けかけた点滴の針と、ちぎれた点滴ライン。ラインからはポタポタと点滴が水溜まりを作っていた。
新人の私が、真っ青になったのは言うまでもない。

さらに冷静にならないことで、失敗したことがよくあった。時間に追われて、早く処置しようとしてCVラインを誤って傷つけてしまったことや時間がない中で後輩のフォローをしようとして、患者を危険に晒してしまったこともある。
当時は知る由もなかったが、何でもかんでも対応しない、人手が足りないときは断る勇気も必要だった。今、日本で働いたとしたらできないものはできない!と断るので「使いにくいやつ」のレッテルを貼られるに違いない。



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