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みなさん、こんにちは!
コンサベーション・インターナショナル・ジャパンの広報、磯部と申します。

ブログのプラットフォームを新たにnoteへ移行するにあたり、私たちのことを良く知らない皆様へ向けて、「コンサベーション・インターナショナルってどんな団体?」という疑問にお答えする記事を書きたいと思います。ぜひお付き合いください。



■創設者ピーター・セリグマンについて

ピーター・セリグマン

コンサベーション・インターナショナルは、アメリカ人のピーター・セリグマンが創設した環境NGOです。ニューヨークで生まれたセリグマンは、少年時代の休暇中、祖母宅のワイオミング州の農場で、灌漑の仕事を手伝いながら過ごしました。都会生まれのセリグマンにとって、田舎での暮らしは経験したことのない安らぎをもたらしました。大自然に囲まれ、風の音を聞き、鳥や昆虫の様子、川の流れなど、自然を監察することに慣れるにつれて、自然への愛着を深めていったセリグマンは、「自然こそが自分の心を揺さぶる原点だ」と気づいたと言います。

1960年代のアメリカは、黒人の人権を確立するために、公民権運動が最も激しかった時代です。セリグマンが13歳だった1963年、ジョン・F・ケネディ大統領が暗殺される事件が起きました。その後もセリグマンは立て続けに改革路線の指導者の暗殺を目撃することになります。多感な10代に激動の時代を経験したセリグマンは、「世界を新しいものへしたい」という気持ちを強くしました。

そして、心の糧であった”自然”に関わる仕事をするために、ニュージャージ州ラトガース大学で野生生物生態学の学位を取ったのち、エール大学で森林環境科学の修士号を取得しました。その後、“TNC(ティー・エヌ・シー)”で知られる、米国環境団体のネイチャー・コンサーバンシーにおいて、国内13州におよぶ保護区の管理人を務めたセリグマンは、そこでさまざまな場所の独自性や、それぞれの場所の明確な課題、そこへ暮らす多様な人々をよりよく理解するようになりました。セリグマンは、国やコミュニティの運命のカギを握るのは、そこに暮らす住人たちである、ということに早くから気づいていました。人々の声に耳を傾け、意見の相違があったときの妥協点を見出すことの大切さを学び、長期的な視点に立った環境保護のために人々を説得するコツを身につけたのです。のちにそうした経験が、重要な漁業のための国際基金設立など、資金調達の戦略を生むことにつながります。

その後、イエール大学時代の友人とともにTNC内へ国際部を立ち上げて活動を広げ、まだ「環境保全」という言葉が世間になじみのない時代だった1987年、コンサベーション・インターナショナルが始まりました。

TNC は、私のアプローチがTNCの文化と合うするとは感じていませんでした。 当時、私は TNC 国際プログラムの事務局長でしたが、国際プログラムが TNC の文化によりよく適合するよう、国際的なプログラムを再構築するよう求められました。 どうしようかと考えていたとき、私たち国際部のプログラムが実施されていた当時 3 か国 (ボリビア、コスタリカ、メキシコ) で働いていたスタッフ、そしてワシントン D.C. で一緒に働いたメンバーから嬉しい手紙を受け取りました。 「ピーター、この組織を続けてください。私たちは科学と経済、そして人々のために保全を結び付け、生態系レベルのスケールで取り組むアプローチを信じているからです。」と言われたのです。 そこで、皆でTNCを退職し、1987 年 1 月下旬、私たちはワシントン D.C.のタバード インの一室から CI を立ち上げました。

私たちは一晩中働き、一連の規約を作成しました。 その後数日間かけて、当初のミッションステートメントを考え出しました。 大変な時期でした。 私たちはお金を借り、家の外で働かなければならず、ストレスの中、組織を立ち上げなければなりませんでしたが、それは私たちが信じていたものでした。私たちは皆、人々を巻き込み、支援することが保護活動に革新を起こせることを信じて、長期的に取り組んでいました。 保全の所有権は地元の人々に委ね、小さな場所よりも、より大きなランドスケープを含むスケールの保全に焦点を当てました。 私たちはそれを「生態系保全」と呼び、1987 年に CI が始まりました。

ピーター・セリグマンのインタビューより


CIの初期メンバー。立ち前列右から3番目がピーター・セリグマン、同右端が初代CIジャパン代表の福岡史子氏。


■世界初の自然保護債務スワップを実現

同年、コンサベーション・インターナショナルは、ボリビアとの間で、自然保護活動拡大の約束と引き換えに同国の不良債権を譲り受けるという「自然保護債務スワップ」に調印し、世界初の革新的保全手法を成功させました。コンサベーション・インターナショナルはまた、応用保全科学に基づき「生物多様性ホットスポット」の選定を行っています。1988年、イギリスの生態学者ノーマン・マイヤーズは、10の熱帯林「ホットスポット」に関する重要な論文を発表しました。これらの地域は、生き物の固有性が非常に高く、同時に生息環境の損失が深刻であることが特徴でした。

生物多様性ホットスポットを示す世界地図

コンサベーション・インターナショナルは、1989年にマイヤーズのホットスポットの概念を組織の活動指針として採用しました。その後数回の追加調査を実施し、現在世界に36か所の生物多様性ホットスポットがあります。日本も「ジャパン・ホットスポット」として、指定されている36か所のうちの一つです。日本国内では、生物多様性ホットスポットについて、学校や塾などの教材や、展示、セミナーなどで紹介されているほか、 NHKスペシャルにおいては、3シーズンにわたり、生物多様性ホットスポットに焦点を当てた番組が放送されたので、皆様もどこかで目にした機会があるかもしれません。


■ 組織の大変革を経て

保護区の拡大やエコツーリズムの開発、また生物多様性ホットスポットの保全のための国際基金の創設、スターバックスやウォルマートなど大手企業のエシカルな調達支援などを進めてきたコンサベーション・インターナショナルですが、地球環境悪化のスピードを食い止めるためには、より広い支持を集め、大規模で効率的な保全を進める必要がありました。そこで2008年から2009年にかけて、組織のミッションとアプローチの大改革が話し合われ、組織のスローガンを「 People Need Nature to Thrive 」(※日本語では「自然を守ることは、人間を守ること。」)へと刷新することになりました。つまり、ただ単に自然が好きだから自然を守るのではなく、私たち人間がこれからもこの地球で生きていくためにはかならず自然が必要だ、という”人”を軸にした強いメッセージへ変わったのです。

コンサベーション・インターナショナルは、活動規模を拡大するために、国際的に力を合わせていくことのできるパートナーシップの構築に注力しています。健全な生態系がいかに人々、国家に恩恵を与えてくれるかを示し、持続可能な社会へ向け具体的な道筋をつけて、保護活動の規模を拡大させてきました。私たちは、フェニックス諸島からスマトラ北部、ブラジル中部やペルーのアンデスなど、地球上で最も重要とされる生態系を有する様々なエリアを、そこへ暮らす人々も含めて「ランドスケープ」や「シースケープ」との包括的な概念で捉え、保全戦略を策定しています。

南アフリカのクルーガー トゥ キャニオン生物圏保護区は、世界的に重要な生物多様性を持つランドスケープ。「Irrecoverable Carbon(回復不可能な炭素)」と指定される高炭素保持エリア 
© Ami Vitale

■ 活動の3本柱

コンサベーション・インターナショナルの活動の軸は「科学」、「パートナーシップ構築」、「現地プロジェクトの実践」です。現在、29カ国に現地拠点を持ち、100カ国以上で2,000以上のパートナーと、プロジェクトを推進しています(※2024年3月時点)。コンサベーション・インターナショナルは、世界一多くの科学者が在籍するNGOであり、これまでに1,100本以上の査読付き論文を発表しています。それらの多くはScience、Natureなどの科学誌に掲載されています。

私たちの活動指針は、そうした科学的知見から導き出されるもので、コミュニティへの支援を含む包括的な保全計画を組み立てたのち、政府や企業、また先住民コミュニティとのパートナーシップを下に実践しています。

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コンサベーション・インターナショナルはまた、①「自然の力を活用した気候変動対策」、②「海洋保全のスケールアップ」、③「ネイチャーポジティブな経済の促進」 の3つを重点分野として取り組んでいます。

  1.  自然の力を活用した気候変動対策

    ”Natural Climate Solutions”、略称「NCS」として知られる、自然の力を活用した気候変動対策は、コンサベーション・インターナショナルの活動の中心です。健全な状態にある自然が大気中から炭素を吸収して貯蔵する能力は、気候変動に取り組む際の強力な味方となるため、私たちは特に重要と思われる生態系を特定して、マップ化し、公開しています。そうした自然生態系を適切に利用し、管理することができれば、生態系を再生しながら、人びとの生活を守る強力な気候対策の一つとなります。

  2.  海洋保全のスケールアップ

    コンサベーション・インターナショナルは政府や企業、地域コミュニティ、他団体と連携しながら海洋生態系の保護規模の拡大に取り組んでいます。世界目標である「30 by 30」に貢献する「ブルー ネイチャー アライアンス」を創設し、アライアンスを通じた国際間連携により、東太平洋やマダガスカル、フィジーなどで総面積1,150万平方㎞におよぶ19の海洋保護区創設を支援しました。これにより「1,800万平方㎞の海域を保全する」というアライアンスの最終目標の3分の2以上をすでに達成しています。

  3.  ネイチャー・ポジティブな経済の促進

    自然を経済発展の中心にとらえ、「自然資本」の価値を取り入れた経済モデルは、持続可能な社会を実現するために必要不可欠です。自然のもつ様々な役割と機能を理解し、対象となる場所で暮らす人々を保全計画に含めることこそ、”ネイチャー・ポジティブ”な開発を成功させるために効果的であることが分かっています。コンサベーション・インターナショナルの「持続可能なランドスケープとシースケープ」の概念を基にした保全戦略は、一か所でも、または、複数国家でも適応が可能なので、自立的かつ拡張可能な保全モデルの新たな創出へつながっています。こうした革新的な取り組みは、森林減少の流れを食い止め、持続可能な雇用を創出し、循環型の経済モデルを推し進めます。


シェイドグロウン(日陰栽培)で育てるコーヒーの木。自然保護と経済性向上の両立を目指す。
© Ralph Lee Hopkins

■先住民族コミュニティとの協働

1987年の設立以来、コンサベーション・インターナショナルは、世界に現存する原生自然(人の影響を受けていない自然)の約4割をテリトリーとする、先住民やローカルコミュニティの権利保護に取り組んでいます。私たちは、人間の幸福と自然保護を結ぶ「人権に基づく自然保護アプローチ(rights-based approach)」を実践を大切に考えており、いくつかのイニシアチブが立ち上げられました。「先住民族フェローシップ」では、特に先住民の女性に重点を置き、個人および職業的発展のための学習の機会や人脈を提供する充実したプログラムです。2019年からは深刻な人権問題を抱える南米コーン地域(アルゼンチン、チリ、パラグアイ、ウルグアイ)の先住民リーダーを支援する南コーン・フェローシップといういくつか異なるフェローシップの支援も開始しています。また、地域に収入をもたらす持続可能なコーヒーの栽培方法やマーケットアクセスの仕組みなど、ローカルコミュニティへの技術支援や小規模融資などを通じて、コミュニティ主導の自立した保全活動をサポートしています。


ブラジル・アマゾン先住民カヤポ族の少女。CIは、先住民によるアマゾンの保全に長期的な資金を提供するカヤポ基金を創設した。 ©Cristina Mittermeier

■ 理事会

コンサベーション・インターナショナルの特徴の一つに、創設者の持つ強力な人脈から形成されている理事会が挙げられます。理事会には、俳優のハリソン・フォード氏をはじめ、さまざまな業界の経営層や金融家、ファッション・デザイナー、個人活動家、先住民代表などが集まっており、現リーダーシップとともに組織の方向性について定期的な話し合いが行われています。また、米国内ではそうした理事メンバーを中心として、定期的なチャリティガラディナーも開催されており、各国支部の活動資金の一部を支えています。

ピーター・セリグマンとCI副理事長、ハリソン・フォード氏 © Tracey Landworth Photography

■CIジャパンについて

コンサベーション・インターナショナル・ジャパン(CIジャパン)は、1990年より国内での活動を開始しました。活動開始当初は、世界銀行や日本政府との「クリティカル・エコシステム・パートナーシップ基金」また「経団連自然保護基金」の設立支援やエクアドルにおけるタグア(象牙椰子)を工芸品として扱う保全事業の形成などを進めました。その後活動34年目を迎える現在まで、政策提言から、企業連携、途上国のコミュニティ支援まで、様々な形のパートナーシップを元に環境保全と持続可能な開発を同時に進める保全事業を形成し、実施しています。

(ちなみに、現在のCIジャパンチームは7名で運営しています。^^)

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いかがでしたか?

コンサベーション・インターナショナルは、変化の早い現代において、入念で大胆な戦略を組みながら、幅広いパートナーシップを通じて、すべての人びとのウェルビーイング達成に向けて活動を推進していきます。今回ここでご紹介したのは、ごく一部なので、今後ニュースレターなどで活動を知っていただけると嬉しいです。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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投稿 :CIジャパン
TOP画像:左、全CI会長ラッセル・ミッターマイヤーと創設者ピーター・セリグマン  © Jeff Gale


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