-Return-で私が考えていたこと(終編)

演技の振り返りもいよいよ終編となってきました。前編中編を見てない方はこちらを先にご覧ください。時期としては2019年11月〜2020年9月までです。(ネタバレではありますが、うち3ヶ月は何も考えてません)技名については中編に解説が多少あるので分からなければそちらをご覧ください。

1.演技構成を考える〜黄金のBPM〜

 前回、演技コンセプトが決まったというところまで書きました。それに向けてまずは曲を探していくのですが、選曲について特に気にしていたことを列挙します。

・何が何でも1曲構成にする
 これは、昨年の松永さんの演技でしたり、JJF2016の高橋優弘さんの演技だったりを見て、迫力や重みは1曲構成の方が明らかに出る、という知見を得ました。今回のコンセプトを考えるとなんとしてでも1曲にしたいな、でも5分程度の長めの1曲が見つかるかな、という葛藤がありました。

・BPMは85前後にする
 これは今回の演技を組む時に一番悩んでいたことなのですが、自分の持ち技は大きく分けるとアイドリング系の技と4シガーの止まらない系統の技の2つに分けられます。そのうち、前者は早いテンポには合わせづらいのですが、後者の技の中の特に2-2ファウンテンに関しては早めのテンポが合います。この矛盾した要望を叶えるために今回は「BPMは85くらいで、2-2ファウンテンのパートのみ倍速で音が取れる曲を選ぶ」ことにしました。この際、ファウンテンパートは倍速をとっても違和感の無いところに配置する必要があるため、そのあたりについても意識しながら選曲を考えました。

・無音パートを入れる
 個人的な意見なのですが、ルーティンで無音になる瞬間にぴったりと動きを静止できるとかなり締まりが良くなります。カッコいいな、と思ったので無音がある曲を優先して選びました。

これらを意識して、2019年12月頃に曲が決まります。

この曲はとあるゲームに使われている音楽なのですが、上記要素を満たしつつ荘厳さ、感動的なパートもちゃんとあり、曲の長さもちょうど良いです。この他にも曲をいくつか探したのですが、結局この曲になりました。
 この曲の良し悪しをCS本選出場経験のある方々、シガーボックスをやっている先輩方の両者に聞いたのですが、前者の反応は割とよく、後者の反応は「この曲でシガーボックスは違くない?」みたいなものでした。僕は今回アイドリング系を中心に静的な技をやりつつ4シガーの独自の定常状態を生かして動的にするべきなところは動的にこなす、といった他のシガーボックスジャグラー(何ならシガーボックスに限らない)にない強みがあると思っていて、そう言う意味で今の僕にしかできない選曲であると確信していました。ストール系がうまい人は動的なところが引き出せず、トスやディアの人は静的なところが引き出せない。両方ができるシガーボックスならではの演技を作ってやる!と思い、CS本選出場者方の反応を信じました。

 次に具体的にどのようにルーティンの技を配置したかについて話します。
 まず、2回くるサビのラインに大きな感動ポイントがあります。ここに自由の女神系統の技を決め、ルーティンのピークを持っていくことを最初に決めました。また、ここでより映える見た目になるように、と少し難易度は上がるもののフォームの矯正をしました。
 次に、スペシャル2の前の曲の盛り上がるパートが決まりました。シガーボックスになかった「大技をやってから定常状態に戻る良さ」を提示して、その流れでさらにスペシャル2を決める!という流れをやるとより効果的だろうと判断しました。 
 まだライン4や2-2ファウンテン系の技が入って無いですが、これらは順当に曲の中の1パートずつを使えば良いと思いそれぞれに配置しました。特に、ライン4は、アイドリング系と自由の女神系の橋渡しとなりつつ曲のあそこしかない!というパートに収まったので自信があります。
 スペシャル3を決め技とするまでの流れも熟慮を要しました。これは個人的な意見なのですが、なんだかんだシガーボックスにおける「挟む」終わらせ方は他の道具と比べても圧倒的に強い終わり方だと私は信じています。ただ、それを我々が普段感じないのは本来強いこの「挟む」行為を濫用しているからであり、強いフィニッシュであるからこそ採用場所はかなり考えた方が良いのです。それを踏まえて今回の演技では、実はスペシャル3まで挟むことで拍手ポイントになるパートを1個も用意していません。今まで挟む終わり方をしていない中、挟む終わり方になりにくそうなファウンテンパートから急に展開して曲が静かになるタイミングで挟むフィニッシュをする。そうすることで「挟む」終わらせ方の良さが十二分に発揮されるだろうと判断しました。3パートをよくよく見ると割と強引に挟まない終わらせ方にしようとしているのが分かると思います。特に挟むと思いきや指にのせて、ライン4への伏線にもなっているパートはかなり自信があります。
 3シガーのパートは概ね学生大会の時と同じ考え方で組みました。一応弾く単発技、定常状態、ストール、ボディー系、シークエンス、自由の女神系、となるべくカテゴライズする意識はしましたね。後の5シガーでヘッドストールを使うので、そこの伏線回収兼曲の静的なパートを乗り切る意図でアイドリング要素のあるストールのパートがあります。あそこも何も考えずにストール技をやると、他のストールのうまい人に比べて自分が下手なことが浮き彫りになるので何か自身の要素を入れる必要があり、技を考えるのがとても大変でした。
 5シガーのパートは難易度でゴリ押しが効くと思ったのでそこまで考えていません。ただ、ヘッドストール+回りながらファウンテンをやる行為は難易度の上塗りに寄与するので重点的に練習していました。
 構成についてはこんな感じですかね。必須なパートに技を割り振っていたら大体尺が埋まってしまい、4シガーの冒頭というやや狭苦しい場所に4ミルズメスチェーンが入らざるを得なくなったのはここだけの話

2.天変地異

 卒論が終わってから2月、3月はとにかく練習の日々でした。完全にやる技が固まり、シークエンスをひたすら通す、それもなかなか上手くいかない、みたいな苦悩が続いていました。景気付けのためにエントリーした中部学生大会も、自分の目指しているものが間に合うのか、そんな不安に駆られています。しかし、世界は僕が不安な思いをできるほど優しいものではなかったようです。皆さんご存知の通りコロナウイルスの感染拡大により、各種ジャグリングの大会が中止or延期になってしまいました。JJFという長期目標に向かう途中の短期目標が無くなってしまいモチベーションの管理が少し大変でしたが、練習しなきゃいけないことに変わりはないのでそこまで苦ではありませんでした。優勝するつもりだった箱大会も同様ですね。コロナで屋内練習場所が無くなっても、外練に切り替えて、屋外でも撮影できそうな環境を探しつつ来たるべき日に備え練習していました。ただ、心の中に密かにあった不安が的中します。2020年4月16日、JJFの公式アカウントよりCSの中止が宣言されます。もちろん、当時の感染状況を考えればこれは妥当な判断ではありましたが、本当に心が虚空になりましたね。自分は何のために頑張ってきたのか、考えされられる日が続きました。まあジャグリングは好きなので続けてたのですが。それでもルーティンでやるような技は一切やる気が起きず、新規開拓をひたすらしていましたね。
 そんな中五月祭がオンラインで9月に開催されることが決まりました。せっかくなので今回の演技を少し頑張って提出するか、という気になれました。これが2019年8月頃です。
 あとは、今まで通りの練習をするだけでした。サークルにも結構お邪魔したりしましたが、無事動画が撮影できて五月祭に出演することができました。モチベーションをくれた後輩たち、ありがとう。

3.-Return-の振り返りと今後の展望

 最後に今回の演技について振り返ってみましょう。

・技を見せる演技としてはこれ以上ないものだった
 これは2年前考案していた形をほぼほぼ実行でき、当初イメージしていた以上のつながりがとれました。結果として二重の意味での新奇性を出し、難易度の上塗りを繰り返すことができました。この点については、今回の演技で達成できたと私は大いに満足しています。

・技じゃないところに「らしさ」を出せた
 これは自身の動画を振り返って思ったことですが、今回の演技で初めて「自分じゃないとダメな要素」が感じられました。これは、前編で話していた反省点の4つ目のうちの、技に頼らない「自分らしさ」ですね。自分を他者から見た時の第一の印象として「背が高い」がまず挙げられると思うんですけど、自由の女神をキーポイントに置いて丁寧に演技することで、自身の特徴が良く生かせて、「らしさ」が出せたのだと思いました。

・ポーズの静止やステージ移動など、細かいところのアラはまだ残っている
 まあこれはその通りですね。使う技やフィニッシュの形をこだわることで前よりは良くなっているのですが、ここ2年間身体的な弱さをやや軽視して練習を進めていたので、この点が課題にはなっていると思います。

・今まで他のジャグラーが自分に期待していた要素が少なかった
 まあこれは選曲、コンセプトからして若干仕方がないですが、「多分ゆっくりした曲でこんなコテコテのバランスルーティンをやることは求められてないのかな」と思いながら練習していました。今後はバランス技の一貫を見せつつ駒場祭2018のような速さも兼ね備えた演技が作れたら良いですね。

こんな感じですかね。概ね目標は達成できたので、満足しています。今後は、先ほど言ったように従来の自分に加え、今回の知見を活かしつつ、さらに以前までの演技の速さを兼ね備えた演技を改良できたら良いのかな、とか最後だし選曲に直接的に意味のある(今回は知らないゲームミュージックを使っていただけなので)演技でも作りたいな、とか思って…
いたのですが、これを書いている現在はもう何もやる気が起きてないですね。これで私のジャグリングも終わりなのでしょうか。

ここまでの駄文を最後まで読んでくださりありがとうございました。

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