8ビートのいじりかた

ドラムパターンを組み立てるときの個人的な方法論を記していってみようと思います。
今回は基本の8ビートを例に、バスドラムとスネアのいじり方について4種類にまとめてみました。

1.前置

ターゲットとなる音の直前に短い音を付け足します。これは「短い音→長い音」の関係ができたとき、長い音が強調される、ある種のアクセントが生じるという考えに基づくものです。

1拍目に前置した場合は1小節単位の大きな流れが強調されてより小節線の存在感がクッキリする感じ、3拍目に前置すれば2分音符単位の流れが強調されてゆったり、どっしりとしたイメージになります。
2・4拍目の前置についてはより軽快な印象にはなるのですが、スネアが定位置以外に現れるのはなかなかの「異変」です。なので基本のリズムパターンでというよりは、なにかしらの変化をつけたい場面でのほうが使いやすいかと思います。2拍目の前置の形はフィルの予告に、4拍目の前置の形は2小節や4小節サイクルの締めによく使われるかなという感じです。


2.分割

音を分割するイメージで、後ろに音を付け足します。
前置とは逆に、音を短く分けることでアクセントを放棄させる感じで、パワーを失う代わりにスピード感やなめらかさが出てきます。
また、分割で生じた音は次の音の前置としての働きも持ちます。

圧倒的によくあるのが3拍目を分割したパターンです。1拍目と3拍目を比べたとき相対的に1拍目が長く重くなるので、小節の先頭の位置が掴みやすく、安心して乗れるビートになります。
1拍目の分割もけっして悪くはなく、サウンド全体でアクセントが集中しがちな1拍目の重さを和らげたり、軽快なスタートを切りたいときに有効です。
2拍目の分割は古典的なロックによくみられた(気がする)パターンです。かなりウキウキ陽気な印象。かわいいポップな曲調にも合いそうです。
4拍目の分割は次の小節に駆け込むように、またなめらかに流れていく感じです。ごく軽いフィルのような感覚で使えます。


3.先取(アンティシペーション)

音を前に移動する、いわゆるシンコペーションです(厳密な定義や呼び方の話はややこしくなるので割愛して、ここでは先取と呼ぶことにします)。
拍を提示している音が持ち場を離れることで拍子感覚に混乱をもたらし、また前に移動するため分割とはまた違ったスピード感なども感じられる手法です。

基本的なリズムパターンとしては1・3拍目のどちらか、あるいは両方を先取することが多いです。どの拍をどのくらいの頻度で先取するかでその曲のリズムの骨格はほとんど決まってくるようなところがあります。
先取で最も効果が大きいのは1拍目ですね。一番重いはずの1拍目が特に軽い4拍目裏に位置どることになるためか、ひときわ軽やかな浮遊感が感じられます。また聴感として小節線があいまいにぼやけることで四角四面ではない奔放なイメージにもなるかと思います。
3拍目の先取もやはり非常に軽快なノリになりますが、小節内で完結していて、その点でまとまり、安定感があります。おなじみのラテン系リズムであるトレシーロ(3:3:2)を形成しているのも注目ポイントです。
2・4拍目先取のスネアの位置は「前置」のところで述べたとおり、ちょっとクセの強い場所です。しかしそれだけに印象に残りやすく、良いフックとして働きます。もう少し刺激が欲しい、トリッキーにしたいときなどには基本パターンとして使ってもうまくハマる場面は結構あると思います。

また、先取というと次のような形、オレンジの音符で示した音も伴ったタイプもよく見かけるかと思います。

このオレンジの音は先取した音の裏拍だと考えられます。表拍は移動してしまったけれど相方の裏拍はちゃんと定位置にいてくれるため、一瞬拍子感覚が乱されても速やかに修正・復帰できる、そんな効果があるのだと考えています。
比べてみると、オレンジ無しのほうの先取はダイナミック、有りのほうはマイルドで自然だという印象を受けます。


4.遅延

先取とは逆に、音を後ろに移動するパターンです。
これもやはりトリッキーなのですが、先取が他の拍の領域に陣取ってしまうのに対して、遅延の移動先は同じ拍の裏なので拍子感覚はさほど乱れません。さりげないフェイントといった感じです。
また、遅らせるというよりは裏に「変異」させて軽くしているという考え方もできます。連発すればカウントを裏で取るオフビートシンコペーションです。
なお遅延した音は必然的に前置にもなります。

個人的には1・3拍目の遅延は分割と同様、重くなるのを避ける目的で使うことがどちらかというと多いです。1拍目表を打たないというのはレアなためフェイント効果はより高いといえます。3拍目の場合については打たないことも珍しくははいのでそう違和感はなく、4拍目の前置という意味合いが強く感じられるかと思います。
2・4拍目のスネア遅延のパターンはスリップビートと呼ばれるもので(先取のパターンもですが)、ジャズなどでよくみられます。先取の位置よりはクセがなく、ちょっとオシャレにしたいときなどに気楽に使えます。


おわりに

今回は便宜的に1・3拍目のバスドラムに対してはバスドラムを、2・4拍目のスネアに対してはスネアでいじった例を挙げてきましたが、もちろん他のパーツにしても構いません。一音一音の「前置・分割・先取・遅延」の解釈というものはきっちり分けられるものではなく、どのパーツで鳴らすかによってどの意味合いが強く出てくるか変わってくるものです。
また、同じいじり方を連用してみたり、「前置を分割」のように併用してみたりでもまた面白いリズムが生まれます。
そうした話もまた気力体力のあるときに続きをかけたらいいなと思います。

それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。

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