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怒涛の北アルプス裏銀座 その③

その①とその②はこちら。


続き続き。
 水晶小屋では、女性三人組と一人旅の方と一緒になった。これまでの登山歴とか、下界での仕事の事とかおしゃべりが楽しい。一人旅の方の"こんな事親友にしか話したことないのだけど"という、ちょっと深い悩み相談が始まり、一同固唾を飲んだりする。 
 ここでは携帯の電波があるので彼女のインスタをフォローすると、早速"今日はかみさまに会った!"と、道中はがれてしまった靴底を修理してくれた人の事が書かれている。その写真を見てびっくり。ブナ尾根で出会ったビリーだ。おお。私も会ったのよぉと、ひとしきり盛り上がる。
 夕飯はまたカレーだったが、こちらは手作りでおかわり自由だった。もりもり食べる。食べて即就寝。

そうして翌朝。暴風雨だ。小屋のお姉さんに聞くと、鷲羽岳の向こうに降りるならちょっと大変だけれど、ピストン(頂上に行って戻ってくる)なら大丈夫ではないかーとのことなので、荷物を置かせてもらい、レインウェアをしっかり着込んで出発。他の方々もそれぞれ違う方向に。 またどこかで!!

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こんなんである。
ゆっくりしっかり進んで、なんとか1時間半で真っ白しろの頂上へ。

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 写真撮ってすぐ来た道を戻ったのだが、どんどん風が強くなってきて歩きづらくなり、心細くなる。そこへ軽装の女性がひょいひょいと後ろからやってきて、強風をものともせず追い抜いてゆく。そうか、そうだ、大丈夫なんだと、少しずつ引き離されつつも勝手に励まされる。なんとか水晶小屋に戻ると、さっきの女性が上着を干している。その人は小屋の人で、友達を送ってきたんだという。どうりで慣れた足取りだったんだ。
 それから小屋のおでんを頂いて温まり、濡れたものを極力着替える。午後になるとさらに荒れるらしいから、早めに出た方がーと小屋の人に促され、よしっ!と下山開始。お世話になりました!!
  とりあえずあと3時間頑張れば、野口五郎小屋。そこに着けば雨風はしのげる。

と、ここからは強まったり弱まったりしつつも基本的に暴風雨なので、歩くのに必死で写真がない。キビシイ道中の描写のせめてもの慰めに、合間にお花の写真を入れよう。今回の行程ではあちこちの陽の当たる斜面にお花畑があり、盛りは過ぎていたけれど、結構咲いていたのだ。

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きれいですね、いやされますね。先日購入したコンデジがいい仕事してる。

 ここからの3時間の一人歩きが、今回の私の旅の核心。結構な暴風だけど、鷲羽岳の往復がいい予習となっていて、気持ちは落ち着いている。転んだり道迷いしないよう気をつけていたけど、岩場を歩いていてつるっとなり、支えた左手親指を突き指してしまう。いてて。みるみる腫れてくる。でも足の捻挫とかじゃなくてよかったと気を取り直す。取り直さないと、取り直して進まないと、小屋には着かない。

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 "野口五郎小屋まで1キロ"の文字が石に書かれてあるのを見つけた時は、嬉しかった!でもさらに風が強まり、なかなか進まない。道の右側が上にあがっていく砂地の斜面になっていて、左の谷底から雲とともに、強風が吹き付けてくる。くたびれたのもあって、びゅう!!と風に押された時に、踏ん張らずにそのままぱたりと斜面側に体を倒し、倒れたまましばし雲の流れを観察する。ものすごい山の、ものすごい稜線で、ものすごい風に吹かれて、土の上に寝ている私。あーすごいな、自然。待ったなし否応なしだ。

 気を取り直して(何度も気を取り直す)、起き上がって歩く。歩かないとー以下同文ー。700m・500mと小屋までの表示が刻まれていく。遅々たる歩みだけど、ちゃんと近づいている。

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 小屋が見えてきた時は、心底ほっとした。13時到着。ほぼコースタイムだ。
小さくて古くて暗い小屋。年配の女性が"よく来ましたね、今日は他にお客さんはいないですよ、ストーブたいてる乾燥室で温まって"と迎えてくれる。おお。暖かい! 濡れているもの全部干す。荷物を整理すると、水晶小屋に充電器と眠剤・耳栓の入ったポーチを忘れた事に気づく。慌てて電話すると、小屋閉めをして下山してからになるので、10月になりますが送りますよーとのことで、ほっとする。
こんなに疲れているので、今晩は眠剤・耳栓なしでも眠れるだろう。

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一人は寂しいが、暖かくいられるだけで嬉しい。山の記録などまとめて過ごそうーと、覚悟を決めた15時過ぎ。がたがたと玄関から人の気配が!そこにいたのは、びしょ濡れのビリーとその山仲間のマナさんだった。

  

 

 

 


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