「未来の地元(宍粟市)のため種まきを…」と願いをこめたシードル
こんにちは。壺阪雄一です。
180年以上続く「山陽盃酒造」という酒造会社で、「播州一献」という日本酒の醸造責任者をしています。
このnoteは、酒蔵が「地元のりんごを使ってシードルをつくるぞ!」と取り組む様子や想いについて綴っています。2020年クリスマスリリースに向けて、商品開発に取り組むわたしたちのドタバタな日々に、お付き合いいただけたら嬉しいです。
前回日本酒の酒蔵であるわたしたちが、シードルをつくりはじめた理由と、その先の願いについて書きました。
地元産のりんごを使って「町のシンボル」をつくりたい
と言いましたが、そもそも地元ってどこやねん、と。酒蔵がある「宍粟(しそう)市」がどこにあるのか知らない方がほとんどのはず。姫路ならまだしも、神戸の人に聞いても「どこ?」と言われることが多々あります。
広い兵庫県のなかの地元・宍粟(しそう)市について
兵庫県中西部に位置し、北は養父市・鳥取県、東は朝来市・神河町、南は姫路市・たつの市、西は佐用町・岡山県と接しています。京阪神と中国地方を結ぶ中国自動車道と、山陽と山陰を結ぶ国道29号が地域内で交差する西播磨内陸の交通の要衝となっており、エリアの中心部から神戸までが約100キロメートル、大阪までは約140キロメートルの位置関係にあります。また、東西方向約32キロメートル、南北方向約42キロメートルと広く、行政面積は658.54キロ平方メートルと兵庫県土の7.8%を占めています。<出典:宍粟市HP>
兵庫県にありながら宍粟市は、盆地の地形になっているため夏場は気温35℃を超え、冬場は氷点下を記録して雪が降るという寒暖差が大きい気候が特徴です。神戸や姫路をイメージしている方は「兵庫でりんごが育つ」と聞くと驚くかもしれませんが、宍粟市にはスキー場もあります。もっともっと北にいけば、日本海側には冬は雪深い中を歩いて湯めぐりを楽しむ「城崎温泉」があります。兵庫県ってとても広くて、多様な県なんです。兵庫の魅力を知ってもらいたくて、兵庫県産のりんごを原料とするシードルを企画しました。
自然豊かな宍粟市の魅力と憂い
宍粟市は、山々の緑は目に優しく、夜空には流れ星、夏場は蛍が飛び交い、滝巡りも楽しい場所です。四季を通じてあらゆる農作物がなり、揖保乃糸の一大生産地でもあります。ブランド「宍粟牛」のほかにも、春は山菜。夏は清流・揖保川でとれたアマゴ(鮎)。秋はぼたん鍋。冬は自然薯とモクズガニ。
そんなおいしくて豊かな宍粟市ですが、658.6km² という兵庫県第2位の面積をもちながら、多分に漏れず著しい人口減少を辿っています。2005年3月末現在の市の人口45,781人(内65歳以上比率25%)が、2020年6月末では36,951人(65歳以上比率35%)に。さらに日本全体の人口減少や高齢化も考慮すると、電車が通らない宍粟市がこのままいけばどうなるのかはお分かりになると思います。
未来のためわたしたちができること
それでもわたしは、私を育んでくれた宍粟市で、ご先祖様に感謝をしながら酒をつくり続けていきたいと思っています。そのためにはブレるのではなく、時代に適応して変わり続けていくことが必要です。
そこで「播州一献」のブランドとは別に、アルコール離れが進む現代に対し新たに打ち出すことを考えました。低アルコール日本酒、発泡日本酒、リキュール、クラフトビール・・・色んな案はありましたが、できることなら地域産品を使いたい。蔵がある宍粟市内にもりんご園があり、「地元」を発信するため原料に使いたいと考えました。(日本酒・播州一献も、米どころ兵庫県という地元を大切にして兵庫県原産の酒米だけを使ってつくっています)
極上の食中酒を届け、憧れの地になるその日まで
現在は日本酒蔵を併用していますが、いつか独立させたシードル醸造所(シーダリー)を建設し、フレッシュなシードルをその場で飲んでもらうなど地域の目玉となるような「町のシンボルをつくりたい」と考えています。訪れる人の心に残る原体験を創出し、若者が就労志願するような魅力ある場所にしていきたいーー「播州一献」「シードル」両輪で、地元を支え盛り上げていきたいのです。
飲んでもらう方にはシンプルに「おいしい」と感じられるものをお届けします。神戸でも東京でも大阪でも全国どこにいても、心が安らいだり、ワクワクしたり、飲む人の食卓と生活をより豊かにするようなお酒をつくりたいと思っています。
そして、そのなかで1人でも多くの人が「この酒がつくられた場所に行ってみたいな」と思ってくれたら、このシードルプロジェクトは成功だと思って、日々精進しております。クリスマスのリリースまで今しばらく、暖かく見守っていただけたら幸いです。
(つづく)
前回「シードルプロジェクト」発表時note