映画RENTを見たという話

ミュージカルRENTが日本で再演されるということで映画版のDVDを買ってきて視聴した。
日本初演の時に遠征代もチケット代も持ち得ぬ学生で悔し紛れにビデオをレンタルして以来の視聴である。

改めて、曲がいちいちとてもいい。
Seasons of loveは言わずもがないい。あの曲は天才の所業だと思う。
作品自体も台詞はほぼなく歌で進行していくが、どの曲もちょうどいい熱量と抜け感だなぁと思う。タンゴのシーンなど本当に差し込みが上手い。
全体的にロック調というか、ポップス寄りで当時「これからこんな感じのミュージカルが増えるのかなぁ」と思った記憶があるが思ったほど増えてはない。

話の内容は愛とパッションに生きる若者は未来なんて見据えている余裕はないぜ!というアメリカが好きそうな内容だ。
その中、エンジェルの愛だけが地に足をつけて柔らかく優しく描かれている。エンジェルは登場時から動きもファッションも可愛いくていい。本当に天使なのだ、エンジェルは。
葬儀のシーン、出会いのナンバーがリプライされる。コリンズはこの時に初めてエンジェルの心底の愛が分かったのではないだろうか。
これから彼はエンジェルなしの人生を歩んでいかなくてはならない。失った寂しさや虚無感はあるだろうけど、それでも一生エンジェルは彼の中にいて、折に触れてどこかで顔を出しては彼に幸せを運んでくるだろうな、などと思っていたらお墓のシーンでエンジェルを引き合いに出してカップルたちが喧嘩しだして台無しである。静かに諫めたコリンズは立派だ。私なら大暴れする。

私はこの作品に限らず「大切なものは失って初めて気づく」というロジックをドラマチックというより浅慮と感じて全然共感できないのでこういった出会いのドラマは終始「バカっ!…バカぁ…」と思いながら見る羽目になる。
そこをいくとエンジェルとコリンズのカップルはお互い可能な限り相手に届くように愛せていたので安らかな気持ちで見守れた。
モーリーンとジョアンヌみたいな喧嘩ップルも好きではあるのだが如何せん「私を受け入れて」と自己をぶん投げてくるモーリーンと「貴女は私のもの」と相手をむしり取りにかかるジョアンヌはどちらも結局自分が大切で相手を愛していないように見えてしまう。
またロジャーとミミにしても如何にも刹那の連続のような愛し方だし、覚悟が足りない。
こういう恋愛の醍醐味みたいなものを解しないので私は本当に恋愛に向いていないとつくづく思う。

群舞というか、みんなでバカ騒ぎするシーンにわざとらしさがなくていい。もうこれは国民性なのかな、と思う。
日本だと白々しくなってしまうが、まぁだからこそ日本は一定の秩序が保たれているのだろうな、と思えばなんでも世の中はフラットなのだろう。

「もうすぐ21世紀なのに」とニューヨークを憂うシーンがある。
いつの世もどの国も行く末への憂いはあるのだな、と21世紀も板についた世界で見ながら思う。
歴史は繰り返すというけど、繰り返したあとにせめてバージョンアップした世界になっていてほしい。
マークたちの憂いの先にあるこの世界にも問題は山積みだが、過去から見てひとつでも解消されていたらいいなと思う。

過去も未来もない、どうか今が続いていきますように、と人生を大切に過ごしていく人がひとりでも増えていたらいいと思う。

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