結局ハムレットはいいという話

人生初シェイクスピアがハムレットだったのでハムレットが好きだ。
最初に触れたものには無条件に懐く、雛鳥理論である。

シェイクスピアの戯曲はいい。何がいいって登場人物ほぼ全員に名前がついている。「この人、名前、要る?」という人にまで名前がついている。全然覚えられない。
そしてべらべら喋る。長台詞というボリュームではない。半ページくらい平気で喋る。全然覚えられない。
一人喋ると関係性とか記憶から飛ぶので読み終わるまでずっと人物紹介ページを見る羽目になる。リア王なんて絶望的だった。鳥頭に非常に厳しい。
でもシェイクスピア作品はそこが好きだ。ベラベラ喋りみんな名前付き。そして物々しいようで軽薄。とっつきやすい。昔も今も人というのはあまり変わらないのであろう、ということがよく分かる。

そしてハムレットは面白い。代表作なだけのことはある。
幽霊が出るというキャッチーな導入、父親の復讐という血湧き肉躍る命題、心を許せる友人とのやりとりに悲恋のロマンス、剣を使ったアクションシーンで主人公が命を落とし、大体みんな死ぬ。センセーショナル贅沢盛り。

そんな感じなので好きな言葉やシーンがたくさん出てくるのも楽しい。

まずフランスへ発つレアティーズが妹であるオフィーリアを心配し、父親であるボローニアスがレアティーズの出立に親心全開で声をかけるシーンが好きだ。お互いを思い遣っているところがとても分かって柔らかい気持ちになる。ハムレット唯一のほっこりシーンだ。

まぁそれ以外は暗い雰囲気のシーンしかないが、オフィーリアが狂人になってしまってみんなに花を配り花言葉を伝えるシーンはいい。可愛らしさと残酷さがいいバランスで胸を打つ。
特にガードルードに「あなたには、昔を悔いるヘンルーダ」と渡し、「でもあなたには忠実なすみれをあげたかった」というところ。
これほど美しく堪えるシーンを私は他に知らない。

有名な「尼寺へ行け!」のシーンも好きだ。狂人ぶったハムレットがオフィーリアへ辛い言葉をガンガンかけて舞台からハケる。しかしオフィーリアがちょっと何か言おうものなら返事をしに戻ってくるし、「あっ、これも言っとかなきゃ」とそこそこ筋の通ったことを伝えにきたりと、ちょこちょこしているところが狂気を演じ切れていない。強い口調で「尼寺へ行け!」と言われても、なんとなく一連の所作に迂闊さを感じてハムレットが少し可愛らしく見えてしまう。クローディアスがハムレットを「国民に人気がある」と評す台詞があるが納得してしてしまう可愛さだ。

レアティーズが墓場で埋葬の穴に飛び込み、オフィーリアの亡骸を抱きしめて「一緒に埋めてくれ!」というところも無茶と切なさが同居した良さがある。私はレアティーズが好きなので贔屓目で彼が出るシーンは全て好きだがここは彼の頑固さと話の通じなさそうなところ、そして愛情深いところが存分に味わえるのがいい。

台詞単体で見てもいいものが沢山ある。

先に出てきたオフィーリアが花を配るシーンでレアティーズが言う「狂気にも教訓があるのか」はどこかで使いたいと思いつつ今のところ出番はない。
一番有名な「生か死か、それが疑問だ」は個人的にどう訳すのが妥当かまだ結論が出ていないのでなんとも言えない。

一番好きなのはクローディアスが旅立ちの許可を求めたレアティーズへ返すこの台詞。

「気ままに遊んでこい、レアティーズ。来る春はお前のもの。」

ハムレットの父を毒殺し、その妃、国までも奪ったクローディアス。復讐を受け、最後には殺される。
そんな男でも腹心の部下の息子に贈る門出の言葉は晴れやかで力強く美しいのがとてもいいなぁ、と読むたびに思い、彼自身はこんな言葉をかけられたことがあったのかな、とふと思う。

ハムレットはいい。みんな愛すべきキャラクターなのがいい。
ホレイショーとフォーティンブラスはとにかく頑張ってほしい。


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