ラウルって余計なことしかしなくない?という話
オペラ座の怪人といえば泣く子も黙るミュージカルの金字塔である。
いや、たぶん実際見たら泣く子は泣くんだけど。急に大きい音とかするし。
ブロードウェイではロングランに終止符を打ったが日本ではまだ続いている。ファンも多い。ありがたいことである。私も若い頃は足繁く通った演目である。
ところでこのミュージカルに出てくるクリスティーヌの恋人役、はたまたファントムの恋敵であるラウル・シャニュイ子爵、本当に余計なことしかしない奴だと常々思っている。
ロイヤルイケメンで育ちが良く、正義感も強く何でも持ってる王子様なのはよく分かっている。その上で余計なことしかしていないと思う。
だいたい登場から邪魔である。
クリスティーヌがアリアを歌っていると突然客席で立ち上がり「ブラブァー!」と叫ぶ。拍手までする。邪魔だ。しかもしばらく立っている。四季劇場ならスタッフが駆けつけてご退席願われるところである。
そのあとクリスの楽屋へ行って勿体ぶった自己紹介をする。これがまた自分がイケメンのステータス持ちだということを存分にわかっている立ち居振る舞いで平民の私には鼻につく。クリスが自分のことを覚えてないとは微塵も思っていない。そしてクリスが人違いかもしれないとも思っていない。おそらく前もって支配人に「あの子ってクリスティーヌ・ダーエだよね?あのパパさんがバイオリニストの。僕知り合いなんですよね。楽屋まで案内して?」とか聞いたのであろう。そうでなければ突然「♪可愛いロッテは〜」とか自信満々に歌えない。いや、ラウルならできそうな気もしないでもない。
そしてクリスの話も聞かずに食事の約束を取り付けクリスがファントムに連れ去られることになる。「エンジェル?」じゃないのよ話を聞けラウル。
そんな感じでだいたいラウルはクリスの話を聞かない。後半も「クリスティーヌが歌えば奴は現れる、最後は勝利だ!」などと支配人のオフィスで皆を扇動し勝手に決める。やりたくないと言ってるだろうが。聞け、クリスの話を。「嫌アァッ!」って真剣に嫌がってるぞ。
その挙句ファントムに向かって「お前にクリスティーヌの愛を勝ち取ることができるものか!たとえ彼女を監禁したとしても!」とかまた余計なことを言う。このあとまんまとクリスが連れ去られるが全然罪悪感がなさそうなのがまたどうしようもない。
「連れ去られたなら僕が取り戻せばいい!」と思っているのだろうが助け出すまで怖い目に遭っているのはクリスなんだラウル。恐れず僕の言う通りにして監禁されるのはクリスなんだラウル。気づいて。
最後オペラ座の地下室にクリスを助けにきてからも迂闊さが目立つ。あれだけマダムに「ファントムは首を狙ってくるから気をつけて」と言われていたにもかかわらず敵を目の前にして結構すぐに気が緩み首を吊られる。まんまと人質である。
そしてここからがひどい。
ラウルを人質にファントムが「俺を取るかコイツを選ぶか」とクリスに厳しく迫る。ラウルが来たことでピンチに陥るクリス。
そこにラウルが言うのだ。
「君を思ってやったんだ」
「命は惜しくない」
「君への愛に生きる」
「僕を見捨てろ」
ラウルよ。
全部その言い方はないんだ。
もうやってることが全て逆ヒロインなんだラウル。
このあと意を決したクリスがファントムにキスをすることにショックを受けるのは分かるけど、ことの発端は君なんだラウル。
というかなんで丸腰で来たの?ナイフの一つも持って来な?そういうところだぞええとこのボンボンが。
クリスとラウルのやり取りを思い出す。
「今君を愛す」と優しい眼差しでクリスを暖かく包むラウル。その直前には「どうしてここへ?帰ろうよ」などと弱々しいことを言っているがそのあとクリスの気持ちに寄り添ってちゃっかりプロポーズをしている。
「人に言っては駄目よ二人のこと」とクリスに婚約を交わしたことを内密にするよう言われ「だけど何故隠すのか」「もう婚約をしたのだよ、クリスティーヌ、どういうわけか」と詰めながらも「聞かないで」とクリスに言われればあっさり下がる。が、既にファントムにはバレている。あまつさえ劇中劇のラストでプロポーズのシーンを再現されてしまっている。これは恥ずかしい。
ツッコミどころは多いし余計なことをしているがまっすぐにクリスを愛しているが故だなと思う。クリスに注ぐ眼差しはいつも優しく、その肩を包む手もクリスを守ろうとしているのが分かる。
私が言い過ぎた。悪かったラウル。余計なこともするし、ちょっと迂闊で空回り気味ではあるけれど確かに君は愛に生きている。一生クリスと幸せに生きてくれることを願う。
が、冒頭のシーンを見るにそうはなってないことが分かるのがまたこのミュージカルの味だったりするのだろう。