春のめざめを読んだという話

戯曲『春のめざめ』を読んだ。
2006年にミュージカル化されてトニー賞を取ったということで読んでみたが「よくこれをミュージカル化したな」と思うとともに「台詞は歌にすると感じが良さそうだな」とも思った。
ミュージカルはハンドマイクで歌ったり、オケピよろしくバンドセットが舞台にあったりとわりとロックで斬新な構成だったと聞く。全然画が浮かばない。

戯曲はギムナジウムに通うティーンの思春期特有の制御の効かない感情の昂りとそこに絡む大人の保守思考がうまいこと描けていて私が今まで読んだギムナジウムものの中では一番エッジが効いているように思った。
戯曲だが読み物として充分面白い。物語がうまく流れていて読みやすいのは翻訳の妙も大いに関係していると思う。実際、巻末の解説を読めば舞台向けに耳によく馴染むような翻訳をしたと書いてあった。とても読みやすいし、ついつい声に出して読みたくなるので大成功だと思う。
そしてとにかく含蓄が多い。名前に込められた意味や対比、セリフに出てくる他作品の数々、当時のドイツを知ってこそ分かる意味等々、読むのに知識が必要なタイプの話だ。巻末に注釈のためのページが結構割かれている。私はカタカナの名前が覚えられないので登場人物のページと注釈のページを反復横跳びしながら本文を読むので忙しかった。また解説を読むとさらに造詣が深まるのでもう一度読まなきゃ、という気になる。

登場人物についてはモーリッツにボリュームが、メルヒオールにウェイトがかかっているように見えるがこの二人が主人公というより群像劇の色が強い。大人も子供も、どの人物も何かを背負って何かを抱えている。
そして全体的に怒っている雰囲気がある。これが春のめざめのもつパッションみたいなものなのだろうか。

あと印象的かつ繊細で綺麗な台詞がいくつか。
モーリッツの「人間て、もっと酷いもんだと思ってた。でも手抜きしてる奴には会わなかったな」と言う台詞にはモーリッツの人柄がよく出ている。このあと自殺してしまうことを思うと辛い。
ヘンスヒェンの「美徳ってのは、見た目は悪くないんだけど、それに見合った人間でなきゃさまになんない」もいい。これはどこかで使いたいが今後の人生でそんな場面があるとは思えない。

ラスト、仮面の男が出てきたところがちょっと面白かった。なんというか、粋がっているのを感じでしまうというか。
演じるならどうするだろう。真面目な紳士然としようか、はたまた狂言回しのように振る舞おうか、などと考える。
小脇に首を抱えてくるモーリッツはどうやるんだろう。頭の中で色々考えるけどどれも面白くなってしまう。こんなんではダメだ。
是非ミュージカルが見たいな、と思った。

あと、テイストとしてなんとなくキューブリックの映画『時計仕掛けのオレンジ』に似たものを感じた。妙な頭の良さと、上手く発散しきれない性欲の発露、解決しているような、してないような足元の悪い話の着地などがそう思わせるのかも知れない。

読後は「とりあえずもう一回ファウストを読むか」と思わせる。あとギリシャ神話にお気に召すまま、その他にも知っていた楽しめそうな作品がいくつかありそうなのでまたちゃんとメモをとって本屋に行こうと思う。

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