#12 調布 外環チャット問題(5)~プライバシー侵害にあたらない?
#11 調布 外環チャット問題(4)~住民の〝恐怖〟信頼回復、再発防止は
5月上旬のある日、地盤補修範囲からほど近い施設に、調布市、NEXCO東日本の現場担当者、住民らが集まり定例の会合が開かれた。主催する調布市の外環担当が呼んだNEXCO東日本の担当者が、住民の要望を聞いたり質問に答えたりする形で進められる事実上の“三者会合”。この日、15回目を数えた。
この形式で会合が持たれるようになったのは、陥没事故からおよそ2年が経過した後だ。〝忌憚のない話し合いの場の継続〟との市側の要請から、取材は不可とされている。
出席者への取材によると、この日はまず、補償や土地家屋の買い取りのありかたについて住民側が質問や要望をぶつけた。
詳細は別の機会に譲るが、かなり基本的な前提についていまだ納得が得られていないことに驚く。東つつじヶ丘・若葉町という狭いエリアでも、住民の抱える事情は均一ではない。大深度法下でその下を無承諾で掘ることは可能でも、何かあれば事業者はその事情のひとつひとつに向き合うことを余儀なくされ、“無承諾”のメリットは瞬く間に霧散する。
この日、質疑の最後に一連のチャット問題が取り上げられた。住民側からプライバシー侵害の認識の有無を問われたNEXCO担当者の回答は以下のようなものだった。
ここでいう「限られた者」とはおよそ60人。
「60人でね・・・」
住民からはそんなつぶやきが漏れたという。
説明は妥当なものなのか。法律に疎い筆者は、プライバシー問題に詳しい佃克彦弁護士の著書「プライバシー権・肖像権の法律実務」(初版 平成18年 弘文堂)をもとに拙い考えをめぐらせた。
プライバシー侵害に関してはさまざまな判例が存在するが、日本でプライバシー権が最初に法廷で認められたのは、今から60年ほど前、作家・三島由紀夫が発表した小説をめぐる「宴のあと」事件だ。
判決(東京地判昭和39年9月28日)はプライバシー権を
「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」
と定義した。また同時に提示した侵害の成立要件では、
「一般人の感覚を基準として公開されることによって心理的な負担、不安を覚えるであろうと認められることがらであること」
「このような公開によって当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたこと」などとして、「公開」が前提とされた。
佃氏は、この「公開」という要件は必要ではないとして疑義を呈する。
その理由に佃氏は、「高度情報化社会における脅威」を挙げる。
一連の問題の報道によれば、地盤補修範囲の周辺では、
などと、住民の職業や生活の様態といった情報がグループチャット内に拡散したとされる。鹿島建設やNEXCO東日本の担当者は、その後の個別の説明や謝罪などの中で、これらの事実関係をおおむね認める発言をしている。
現在のようなSNSが普及した社会においては「特定屋」という言葉もあるように、断片的な情報をタテヨコに紡ぎ合わせることで、個人の特定や動静把握も可能だ。まして地盤補修範囲の周辺の東つつじヶ丘、若葉町といった狭いエリアではそれはさほど難しくなく、たまにしか現地を訪れない筆者ですら、報道の対象となったある個人にたどりつくのに時間を要しなかった。
鹿島JVの要員が毎日のように行き交い、異動や配置換えなどで入れ替わればチャット参加者の累計は60人を上回る可能性がある。それらの目が住民の細かな動静をとらえ、情報が積み重なる。6カ月で消去されるとの説明は検証のすべがない。佃氏がいう、情報が集積され効率的利用の対象にされることによって個人の生活様式が裸にされる「脅威」が、この地域に存在するかもしれないとの懸念は大げさだろうか。
4月、しんぶん赤旗日曜版は続報を掲載。地盤補修範囲から500メートルほども離れた住民説明会場の小学校付近や最寄り駅で、特定の住民の様子を撮影したり、会話に聞き耳をたてたりした内容がグループチャットに投稿されていたとして「(事業者側のいう)安全確保とはとても言えず、監視・盗撮目的以外には考えられない実態」と報じた。
これについてNEXCO東日本の担当者は会合で次のように釈明したが、“とってつけた”との印象はぬぐえない。
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