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海外子育ての始まり

「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとて、するなり。」

紀貫之「土佐日記」


と紀貫之が土佐日記に書いたのは、承平5年(934年)ごろ。時は流れて、その約1086年後の2020年。駐在夫(※)としてシンガポールに住んでいるアラフォーの男が、初めての子育てをシンガポールですることになった。


「駐在妻もすなる海外育児記といふものを、駐在夫もしてみむとて、するなり。」ということで、世の中にたくさんある「海外駐在妻の育児日記」の駐在夫バージョンを始めることにしました。
(※)駐在夫=海外駐在員として現地で住むことになった妻に帯同する夫、またはその総称。世界各国に散らばっているが、その実態はなかなか掴めないのが一般的。

天使がやってきた

2020年9月上旬のある日の午後5時1分。我が家に1人の天使がやってきました。その日の天気は晴れだったような。午後4時半前、分娩に向けた本格的な処置が始まり、病室には妻(駐在員)と産婦人科の先生(日本人男性)、看護師2人(いずれも外国人女性)、と私。

分娩室では私以外全員が必死

「出産は闘い」。知り合いから事前に聞いていた言葉の意味をここで、ようやく知ることになった。

分娩台で、いきむ妻。額には玉のような汗を浮かべている。妻の両サイドには、映画「天使にラブソングを」の主演女優のような看護師が立つ。先生の合図で、妻のお腹を左右から力の限りプッシュして、胎児を押し出そうとする。しかし「いきむ力が足りないっ!もう少しなんだけどな」と先生に指摘される。まだ出てこない息子。

看護師の女性のプッシュは、それはもう全力で、2人とも妻に負けないぐらい額から汗がだらだら。力の限りとはまさにこのこと!などと感心をしている呑気な私。

「オギャー」ではなく、半ベソ状態で誕生

いきむ→看護師のお腹プッシュ→まだ出てこず、のサイクルを繰り返すこと5回ぐらい。ついに、息子の頭がこの世界に登場した。頭が出てからは、先生がその頭を掴み、ひっぱり出す。

ドラマでよくあるような「オギャー!」という泣き声はなく、静かに「メソメソ」と半ベソをかくような感じで生まれてきた。誕生の瞬間から個性的で微笑ましい。


産まれた時刻をつい撮影

役目を与えられる夫

息子が顔を覗かせてほっとしている私に、先生が促す。「へその緒を切ってください」と。
「え!?」と戸惑う。出産前にあった先生との打ち合わせで「立会人がへその緒を切断しますか」という質問に「切りません」と明確に丸を付けていたからだ。
なのに、当日に急遽促してくる。先生は、すこし笑っていたように思う。「嫌です」と突っぱねるのも違うな、と思い、手渡される医療用のハサミを握る。
そして先生が持つ「へその緒」をジョキジョキと切断していく。もちろん初めの感触。「おお、マルチョウのような感触だ」と少し不謹慎?な思いを抱きながら、3ジョキジョキぐらいで切り離すことができた。

神々しい妻

こうして、この世に誕生した我が子。カンガルーケアで、おくるみに包まれながら妻の胸に抱かれている息子と息子を抱く妻に神々しさを感じた。そして、なぜか涙が出てきた。

産まれた直後なのにしっかりした足

ただ、これはスタートだ。駐在夫の子育ての始まり。日本とは違い2日後には退院させられ、自宅での子育てになる。息子のあまりの儚さに不安になる。「果たしてできるのだろうか」と。

こうして始まった駐在夫の子育て。奔走ぶりをご笑覧ください。

駐在夫連載第1回


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