再論・検察官定年延長問題~誰がシナリオを考えたか~

○前法相夫妻の選挙違反事件(買収)による同時逮捕で、派手な報道合戦が続いています。もちろん、今時こんな昔風の金権選挙が、しかも政権中央から巨額な政治資金の応援を得てまかり通っていたこと自体、見過ごすことのできないことです。しかしこの事件はもともと検察官定年延長問題と、セットで論じられていました。検察官の定年延長が政権の恣意で行われ、検察の人事が思うがままにされるという無法がまかり通るならば、こうした事件が摘発されることは決してない。つまり定年延長問題がポジ、選挙違反事件がネガ、という関係です。

○選挙違反事件は、選挙の候補者の秘書の立件・有罪判決から、候補者自身と、その夫の前法相付きで逮捕という、派手な展開になりました。一方で検察官定年延長問題は、当事者の黒川前東京高検検事長が、国民が政府や自治体から「不要不急の動きはするな、外出は自粛せよ」と求められている中で、賭けマージャンに頻繁に興じていたことが暴露され、辞職に追い込まれました。
現在、肝心のポジの問題が、うやむやになっていると感じます。

○選挙違反事件の摘発が進み、広く報道されることは結構です。しかしそれ以上に、検察官の定年延長問題ではっきりしていないことを、はっきりさせてもらいたいと思います。私が知りたいことは2つ。1つはなぜ、黒川前検事長に無法な定年延長をさせたか、ということ。もう1つはその横紙破りの定年延長を誰が考え、実行したのか、といういきさつ。最終的にはもちろん政権が決めたことですが、私が関心があるのは、法務検察はどのような役割を果たしたか、ということです。

○黒川氏の定年を延長をさせた理由は、もちろん分かっています。検事総長にするためです。では、なぜ検事総長にするのか。これも分かっていると言えば、分かっています。「政権の守護神」だったからです。それは安倍首相にとっては十分すぎるほどの理由になるでしょう。しかし国民にとっては、検事総長にする理由になるどころか、検事総長にしない十分すぎるほどの理由になるものです。

○ですから、この問題をマスコミが取り上げる視角はただひとつ「守護神・黒川氏と安倍政権」。森友・加計学園問題でも、桜を見る会の問題でも、検察はやるべきことを全くやらなかった。そこへ黒川前検事長はどのような役割を果たしたか。そのことを抜きにして、検察官定年延長問題は論じようがなかった、と思います。あるべき検察を守るためには、厳しい検察批判から始めるしかなかったはずです。しかし、そういう展開にはなりませんでした。マスコミの怠慢というしかないでしょう。

○無法ともいえる黒川前検事長の定年延長を誰が考え、実行に移したのか。その具体的ないきさつはほとんど報道されていません。数少ない報道が、河井夫妻が逮捕された2020年6月19日の2日後の20日から始まった、東京新聞の3回シリーズ「河井夫妻逮捕 検察捜査の内幕」です。東京新聞は検察官定年延長問題に早くから熱心に取り組んでおり、敬意を表したいと思います。それはともかく、このコラムによると、
1.2019年末、検察側(法務省)は、2月初めに定年になる黒川東京高検検事長の後任に林真琴名古屋高検検事長を充てる人事を政権に示したが、政権は一蹴した
2.法務省は苦肉の策として、黒川氏の定年を半年延ばす対案を示した
3.安倍内閣はすぐさま閣議決定した
とのことです。 

○しかし、この話はにわかには信じられません。法務省と言っても、中心になって仕事をしているのは、「充て検」と言って、検事から役人になっている人たちです(検察庁に異動すれば、検事に戻る)。検事の魂を持っていれば、定年などを定めた検察庁法を自分の方から曲げるはずがない……いやいや、充て検でも、役人である以上、つじつまが合うようにするのかもしれない。しかし、そうなると自分が信じてもいないことを、権力に自分から提案してしまうことなる。そういうことをする人を「法匪」というのではないかしらん。

○東京新聞も、根拠なく書くわけでもなし、この記事が間違っていると言いたいわけではありません。私が言いたいのは、今度の事件、問題では、安倍政権のやり口が、あまりに滅茶苦茶であったため、相対的に検察の株が上がってしまった。しかし、生身の検察には人質司法など、問題も多々あります。あまり褒めすぎないで、問題あれば批判することが必要です。それが国民が支持する検察を守る方法であります。

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