官僚をどう活かすか

〇東京新聞で社会面の1頁前、「こちら特報部」と同じページに「本音のコラム」が連載されています。時事評論がテーマですが、執筆陣は評論家に限らず、大学教授やフリ―ライターなど様々な職業の人たちが日替わりで登場し、それぞれの経験に基づいた論陣を張っており、面白い。中でも元文部科学事務次官の前川喜平氏は秀逸な論が多く、逃さず読んでいます。

○2020年11月15日のコラムで前川氏は、井上信治科学技術担当大臣が、日本学術会議の在り方に関し、総合科学技術・イノベーション会議の民間議員と意見交換したことについて、「(学術会議の在り方について)科学者を差し置いて政治家や経済人が議論すべきではない」と斬って捨てました。

○井上大臣は、産業界と学界の緊密な連携や産業界出身の会員の増員などについて話したということです。しかし前川氏は、そもそも学術会議の在り方を科学技術の観点から論じるべきではない、としています。

〇前川氏は、科学技術と学術は本質が全く異なり,それはお金になるかならならないかの違いだ、と指摘します。、学術は真理を求める営みで、真理は万人に開かれている。知的財産権を付与して私有化することはできないし、値段をつけて売り買いすることもできない、と強調しています。

○10月初め、菅首相が学術会議が推薦した6人の会員候補の任命を拒否したことが明らかになって以来、1か月半続いている学術会議を巡る論議の中で、菅政権の対応のどこが問題なのか、この前川氏の論が、最も明解で本質をついています。

○前川元文部科学事務次官の官僚生活で培われたと思われる、明解な主張を読み、一方で学術会議の存在にかかわる会員の任命拒否をしながら、国民にその理由も説明しようとしない(説明ができない)菅首相を見ていると、20世紀後半に言われた「(世界の中で)日本の官僚は1流、政治は3流、という言葉を思い出します。

○菅首相!ここは官僚の知恵を借り、力を引き出し、活用すべきではありませんか。学術会議問題の解決、第3波到来といわれる新型コロナ感染の対応、日本の力を結集すべき課題、問題は山ほどありますよ。

○ここにきて気になるのは、優秀な若者で、官僚になる希望者が減ってきていると言われることです。東大生から官僚になる数も減っています(東大生が優秀、というわけではありませんが、もともと官吏養成のために作られた学校です。そこの学生にも見限られたのでは心細い)。

○こうした事態をどう見るか。かっての取材先の、元中央官庁の幹部に聞いてみました。「志望者が減っているのは当たり前ですよ。政治家の言う政策に意見を言えば飛ばされるというのでは、そんな職場を希望する人はいませんよ」。

○政治が官僚を活用しないから、おかしな政治になる、と思っていましたが、政治がおかしいから、活用できる官僚が居なくなるわけです。両方が原因と言うか、負のスパイラル(悪循環)というやつですね。

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