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恐れ入った 東京新聞

○2020年7月12日の東京新聞朝刊は、最近の新聞ではめったにない、豊富で秀逸な内容でした。ニュースの様々な論点に鋭い考察を加えており、読者として考えさせられ、これぞ新聞の役割と唸らされました。

○まず5面のど真ん中に据えられた、宇野重規東大教授の「時代を読む・検証の機会生かせたか」。もちろん、都知事選の評価の問題です。「選挙は社会に存在する多様な意見が目に見えるようになる大切な機会」としたうえで、典型的な例として1945年の英国総選挙をあげています。国民を団結させ、ドイツとの戦争を勝利に導いたチャーチルの保守党が敗北し、アトリー率いる労働党が勝利したケースです。国民が戦後の社会保障の充実を重視したためで、「民意による、危機とその後の鮮やかな切り替えであろう」。

○今回の都知事選は、小池知事の危機対応について、その検証を行うための絶好の機会であったのに、議論は十分だったのかと宇野教授は問うています。「初動に遅れはなかったか。東京アラートを含め危機管理は適切だったか。都民への説明やデータ開示は適切だったか」。宇野教授は「踏み込んだ検討をもっと聞きたかった」と言うにとどめていますが、私はいずれの問いにも、否定的な答えしかできません。

○私は7月8日のnoteで、小池知事は票的には圧勝しましたが、コロナ対策の失敗などから見て不思議な結果だとし、選挙の結果でコロナ対策の方向が決まることもなかったと、大筋では宇野教授の論に沿っています。しかし宇野教授は、有名な英国の史実を踏まえるなど、更に緻密で、極めて説得力のある議論を展開しました。

○また継続している事件、問題では前法相夫妻の選挙違反(買収)事件で、買収された側が今のところ全く刑事責任を問われていないことを批判的に報じています。検察はこの事件では、無茶、無法の安倍政権相手によく頑張ったと、私は評価しています。それだけに、検察は正義だと思いこまずに、批判すべきは批判することが大切だと考えます。

○さらに、毎日掲載する名物の2ページの特集「こちら特報部」では、賭けマージャンをした黒川前東京高検検事長を、退職金の減額などにつながらない訓告処分にした問題を、改めて論じています。もちろんこの処分は「甘すぎる」と指摘。当たり前すぎる論で、ややうんざりですが、このしつこさが、東京新聞の持ち味なのでしょう。

○次は21面の、月刊「創」の篠田博之編集長による「週刊誌を読む」です。私は6月22日のnoteで「週刊誌の新聞化 新聞の週刊誌化」という原稿を書きました。私の論は、週刊誌はニュースで勝負し、新聞は表現で紙面を売ろうとしているというものでした。しかし篠田編集長によると、週刊誌もニュースのネタそのもので勝負するものと、実用記事などに流れていくものとに二分されているということです。新聞も週刊誌も取材と表現の在り方で悩んでいます。

○最後に。給付金の委託事業を巡る疑念について、各分野の有識者に聞くシリーズが始まりました。この事件は、とてつもない不正が潜んでいることを予想させます。東京新聞が、持ち前のしつこさでどこまで真相に迫るか、とても楽しみです。

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