夢を思い出す作業と夢の内容と夢の意味

唯一具体的に連続的に夢を思い出すことができるのは、夢から覚めた瞬間であり、この時に目を開けてしまうと砂が風で舞い散るように夢の世界が瞬く間に崩壊していく。とはいっても目を瞑っていても徐々に崩壊していくから思い出すのは時間との闘いである。

そして記憶に残る部分があったとしても、そのまま放っておくと忘れていくから、意識の中で登場人物の顔を焼き付け、会話内容や登場人物の容姿や空間、出来事などを繰り返し反復し、徐々に"過去”を思い出していかなければならない。

"過去”を思い出すというのは、夢は時系列順に思い出そうとすると忘却の風の方が早く吹くから追いつけないのだ。最後に起こった出来事から順番に過去へ、過去へと思い出していかなければならない。

なので完全に最初の部分まで思い出すことは至難の業である。そして今回も大事な何かを思い出そうとするところで、それだけは思い出させないように夢が執拗に閉ざしてきて、結局私はその影しか捉えることができなかった。

夢の中で登場人物が全く違う人に代わっているということがよくある。むしろ夢の中はそういうものであると思える。今回の夢で分かったことがある。それは人物が切り替わる一瞬で別人に変わるのではなく、徐々に別人に変わるのだ。しかしその“徐々に”が早すぎてふと顔を上げてもう一度その人の顔を見た時、その人が長く垂れた髪を手で掻き上げる時、そんな隙に変わるのだ。そして夢はカラーで、カラーというのは白・黒・灰の世界ではなく、色がついている。しかし夢などというのは、思い出さない方がいい。思い出してはいけないパンドラの箱なのかもしれない。

私の今見た夢の最後のシーン、つまり一番新しいシーンは少し落ち葉の積もる山道で、二人の人物を追いかけていた。一人は80年前に新人であった検察官で名前は"ハシ○○”という。もう一人は60代の男性でその最後のシーンでは彼の付き人のような関係であった。

彼らはその前の段階では30代の髪の長い色白の淡白な女性と、カモノハシ男であった。この時の印象ではカモノハシ男は彼女の息子のような立ち位置であった。

そしてその前の段階では、彼女はBundespolizei (ドイツの連邦警察)の女性警官で、男はカモノハシそのものであった。私はドイツ在住なのでBundespolizeiが夢に出てきてもおかしくない。そしてカモノハシは今思えば嘴だけカモノハシで体は茶色い大きい犬だった。ただ私がカモノハシと発したことでカモノハシという認識になっていたのだろう。

二人がBundespolizeiのパトカーに乗って私の実家に来る前、私はシェアハウスのようなドミトリーのような汚い民宿のようなデザインアパートの一室のようなところにいた。しかし母親に呼ばれたので1Fに降りで、水泳キャップを忘れたので2Fに上がった時そこは実家の私の部屋になっていて、窓に青いサイレンの灯りが反射して、窓の外を見るとPolizeiのパトカーが玄関の門の前まで来ていた。水泳キャップを手に取り1Fへ降りたら先ほどの女性警官とカモノハシがいたのだ。

その前の段階で私はそのシェアハウスの一室のような部屋のベッドの上で部屋を暗くして寝ていた。そして目覚めてタバコを吸いにベランダに出たのだ。外は雨だったような気がする。気がすると書いたのは定かではないのだ。夢が断続的で曖昧になっている。

その前の段階では私は行ったこともないNYのような場所にいた。そこは高層ビルが立ち並ぶが錆色というか、30年代を舞台にした映画で描かれる禁酒法時代のアメリカの街並み。当時の高層ビルが立ち並ぶセピア調のような街だった。そこを走っていた。私は足が悪く現実世界ではうまく走れないのだが、夢の中では走っていた。そして何かに追いかけられて全力で逃げていた。街は水浸しになり、というか腰くらいの位置まで浸水し、私は冷えきった体を温めるためにシャワーを浴びたのだ。おそらくそして疲れて寝たのだろう。

起きてベランダでタバコを吸って部屋に戻って、部屋から出てメイドにコーヒーを頼み、部屋に戻ると男がいた。この男は知り合いではないが私の知っている人物であった。つまり画面を通して見たことのある著名人だった。私は先ほどメイドにコーヒーを頼んだはずなのだが、部屋のバーカウンターで二人で飲んだのは、分厚いロックグラスに入ったラムだった。そして彼の話を聞いた後に私が話そうとしたら、母親に呼ばれたのだ。

その前高層ビルの屋上ではないが、かなり高いところのテラスのように少し外へ出っぱった屋内にいた。なぜ屋内かというと窓ガラスが付いていたから私は助かったのだ。そこで世界の真実を見せられた。いや、見せられたのではなくそこには私一人しかおらず、窓にかかっていたカーテンを少しめくり、自分で世界の真実を見たのかもしれない。

それはまるで映画のスクリーンを観ているような光景だった。これを隠すために夢が迫ってきて思い出させないようにしているような、だから今こうして文字に起こして書くのも恐ろしく、キーボードに伸びる私の腕には鳥肌が立っている。

そこでは大型の、大型のといっても人間の倍くらいのサイズから、ゴジラ大のサイズまで様々な大きさの、あれはエイリアンなのかロボットなのか分からないが見たこともない金属(メカゴジラのような金属)のスラッと細長く柔軟で顔の部分が黒い悍ましい生命体なのか何かが、街を破壊しまくって、人間を殺しまくっていたのだ。

そして私はそれに気づかれ、当たったら絶対に死ぬ光線を口から吐かれた。しかしそれを無効化する窓だったので、私は助かったのだ。

夢はここで半分くらいであるはずだ。しかしそれすらも定かではない。もしかしたら夢の始まりはこの地点から近いのかもしれないし、もっと遡るのかもしれない。しかし私が辛うじで思い出せたのはここまでだった。


つまりこういうことだ。

私は高層ビルのかなり高い部分の屋内にいた。そこから少しカーテンをめくり外を見る。外は30年代セピア調のNYのダウンタウンで、そこには謎の巨大生命体がいて、ビームによって街を破壊し、人間を無差別に抹殺している最中であった。

その中でも大型の一体に私は気がつかれ、ビーム攻撃を受けたがビーム無効の窓のお陰で私を含めこの部屋の屋内は無傷であった。
いやっ…言い方が悪かった。窓の外の世界は窓を通して別の世界で、窓が境界線となっていてこちら側にまで影響できなかった。という方が正確だ。
しかしその世界は全くの別の世界ではなく、鏡の向こうの世界のように、同じ時間を共有しているもう一つの世界、或いは今まさに虐殺が起こっているあちらの世界が現実で、私は平和な仮想現実でも見せられている。そういう印象を受けた。

このことを早く知らせなければならない。私はビルを出て街を走った。しかしこんな馬鹿げたことを誰が信じてくれるんだろうと思いながら、人にぶつかりながら走る。途中何人ものアメリカの市警察とすれ違った。しかし彼らは敵だ。彼らはこのことを知っていて、治安維持のために現実を知る者を捕らえている。私は警察官に見つからないように逃げて逃げて、街中を走り回った。

(ここはまるでマトリックスだ。私は昨晩もしくは1年以上マトリックスを観ていないが、おそらくマトリックスの記憶が大きく介入している)

その最中に街には雨が降り、水浸しになり、私はズタボロになっていた。部屋に戻りシャワーを浴びて温まり、そのまま倒れるようにベッドで眠りについた。

(おそらくここは寝る前にシャワーを浴びろよという自分への暗示だろう)

寝ている間に夢の中でまた夢を見るといったことは起こらず、次気がつけば目を覚ましていた。そこは小さなホテルの一室のようで古く狭かった。自分の部屋の扉を開けると、左手にランドリールームがあり、そこでメイドが洗濯物をしていた。そして先ほどの順序ではベランダでタバコを吸った後にコーヒーを頼むのだが、実際は起きてすぐにメイドにコーヒーを頼んだ。その後自室に戻り、ベランダに出てタバコに火を付けたのだ。ベランダから見える外の景色はこうだ。そこは建物の6~7階のベランダで内庭のようになっていて、建物に四方を囲まれていて下しか見ることがでない。時刻は夕方くらいだったと思う。30年代のアメリカのようでもあったし、昭和中期の大阪のようでもあった。タバコの煙が上に上がっていった。
部屋に入るとメイドがコーヒーを淹れてくれていた。既に部屋は古く狭い一室からデザイナーズホテルのような明るくシンプルながら小洒落た部屋に代わっていた。部屋を振り返ると先ほど戸を閉めたバルコニーの右側にバーカウンターがあり、そこに先ほど書いた男が座っていたのだ。画面の向こうで見たことのあるその中年の男とさもバーの顔馴染みのような距離感で話していた。話は男の独白から始まる。内容は社会の都市伝説まがいな俄には信じられない話であった。そこで「私も一つお話してもいいですか?」と男に尋ね、何を話そうと思った瞬間に先ほどの世界の真実を思い出した。私はその話をするために口を開けようとしたところで、下から母親の声で呼ばれた。

私は大きな声で返事をし、男のことを置いて階段を使い下に降りた。母親はダイニングで料理をしながらこちらに背を向けて私に話しかける。そして「そうそうこれなんやけどあんたのかな?」といって洗濯物の中から水泳キャップを取り出す。それは無地の黒い水泳キャップだった。「いや、俺のは部屋にある」といって、私は階段を上がり自室へ向かった。2Fの私の部屋だ。今はもうない学生時代の勉強机の引き出しから水泳キャップを取り出した。そこで窓に青い断片的な光が映ったことに気が付き、窓から外を見ると連邦警察のパトカーが実家の玄関の前に停まっていたのだ。「お母さん、警察が来た」といって急いで階段を降りてリビングに入と、既に警察官が部屋にいた。ドイツの連邦警察のユニフォームを着た若い女性警官は座ってテレビを見ていた。私はその警官に話しかけようとして、足元にカモノハシがいることに気がついた。カモノハシの嘴は黄色く、大きく尖った部分がなく楕円形の形をしていた。体は茶色いもふもふで、大型犬のまさにそれだった。私はリビングに腰を下ろすと、茶色いもふもふのカモノハシは徐々に人間の容姿になっていた。しかし嘴はカモノハシのままだ。「あなたはなぜカモノハシなのか?」私は尋ねた。カモノハシは「私はカモノハシ人間なのです」と答える。カモノハシ人間と二人で話していると先ほどテレビを見ていた女性警官が立ち上がってこちらに歩み寄り、カモノハシの隣に座った。座る時女性は黒いパンツスーツに白いレーヨンのようなテロンとした素材のシャツブラウスに衣服が代わっていた。金髪の白人は、黒いロングを一つに束ねた大人しそうな色白の日本人女性に代わっていた。

3人で刺身を食べている。3人でと書いたが実際によく箸をすすめているのはカモノハシと私だった。女性はキラキラの大きな鯛の姿造りの鱗か鰓を箸で取り除いていた。女性が話し始める。「私は80年前に上司のハシ○○と仕事をしていました…」
(そうだハシ○○という名前は女性のものではなく、その上司の名前だ)

私が女性の話を遮る「えっ?お待ちください。あなたはそんなにお若いのに何を…」女性はうつむいて鯛を箸で突っついていたが、その手を止めてゆっくりと髪を掻き上げながらこちらに向き直るところだった。徐々に女性の美しい白い肌から肌色を通り、少し茶色く日焼けしていき、シミやシワができていく。そしてみるみると顔が男性化し老いていった。

私は少し戸惑った気もするが、その男性のことを知っていた。私の知っている私が高校生の時に亡くなった大好きな正義の保安官。

彼だと分かった。「そうでしたか。あなたが…」私はそういった。

そしてそれではこの隣のカモノハシは誰かと思い、もう一度カモノハシに目を向けると60代くらいの老紳士に代わっていた。「あなたのお祖父様にいつもお世話になっています」紳士は嬉しそうに和かな笑顔でそういった。

「そろそろ行かなければなりません」

そういうと女性であった老人の方から先に立ち上がり、続いてカモノハシであった老紳士が立ち上がった。二人は玄関に向かい今まさに家を出ようとしている。

私は台所へ向かい大きな声で叫ぶ「お母さん!」しかし母親は時が止まっているかのように動かない。その間にも二人の老紳士は玄関の扉を開け家を出る。

「お母さん!お母さん!…おじいちゃん帰るって!」しかし母親は一向に微動だにしないまま後ろを向いている。

「クソっ!」私は母親を置いて二人を追いかけて家を出た。そこは里のような風景で地面には黄緑色の落ち葉が敷かれてあった。もうすぐ秋だと思った。

二人の老紳士はもうだいぶ遠くに行っていた。私はそれを走って追いかけるもなかなか追いつかない。ようやく少し近いた。そこで二人は振り返ってどちらかが私にいった。

「これ以上先は行けませんよ」

そうして二人はスッと消えた。

私はそこで目が覚めた。





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