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能楽堂につれてって

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能楽鑑賞ビギナーの筆者が、もっと能楽のファンの仲間をふやしたくて、その魅力を紹介します。
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女性でつくる能『道成寺』で、リアル女の怨念を聞いた

令和6年3月2日は日本の能楽にとって、記念すべき日になったと感じました。 国立能楽堂で金春円満井会の特別公演として、女性のシテ、女性の地謡、囃し方も大鼓以外は全て女性奏者による『道成寺』が披露されたのです。 すでに活躍されている女性能楽師の方もおり、男社会で形成された日本の伝統芸能の中で能楽は最も女性に開かれた芸能になっていると思いますが、シテ=主役も、地謡・囃子方=バックバンドも女性という上演は初めてではないでしょうか。 特に『道成寺』は能を代表する曲で、テーマも女の執心

能楽堂につれてって 〜はじめに

僕は、能楽(能と狂言)に魅せられている、このあたりの者でございます。つまりごくふつうの男です(ふつうの男は能楽に夢中にはならないなんて言わないでください)。専門家でも研究者でも、ことさら詳しいわけでもありません。ただ、「かっこいいな〜。もう少しのぞいてみよう」と興味を持っているだけです。 そんな僕が無謀にも能楽について書いてみようと思ったきっかけは、これほど素晴らしい世界なのに、共感してくれる人が周りにいないからです。出来ればたくさんの人と、この魅力を共有したいと思ったので

能楽の魅力

能楽が好きだと言うと、「どうして?」とよく聞かれます。これも能楽の特徴でしょ。カレーやローリングストーンズでは、こうは聞かれません。同じ伝統芸能の歌舞伎でもこうはならないでしょう。どこが、ではなく、どうして。この「どうして?」は現代の日本人と能楽の距離の遠さを端的に表していると同時に、能のある側面を決定づけています。 能は全体から細部までまっすぐに美術だということです。何から何まで美しさのために設計されています。どうして、と問う人は薄々それに気づいているのです。 まっすぐ

能面のふしぎ

能楽の一番の特徴は仮面劇であることだと思いますが、この能面がまことに不思議なものです。能楽の世界では、能面のことを「面(おもて)」というそうです。もちろん面を付けずに(「直面=ひためん」といいます)演じる役柄もありますが、多くの主役(シテといいます)は面をつけて演じられます。この面を味わうのも、能楽を観る面白さだと思います。 能面は室町時代から江戸時代のはじめまでに基本型が六十種完成し、現在では二百種類もあるとか。その能面には、造形物として様々な工夫が凝らされています。

能は止まらない?

これを僕が書いてよいのか迷うところですが、無責任な立場を利用して書いてしまうことにします。 能には一度始めたら途中で何が起こってもやめないという不文律があるそうです。本当でしょうか? お腹が痛くなってもやめないのでしょうか。身体の具合が悪くなって倒れたらどうするのでしょうか。やめないようです。「後見(こうけん)」と呼ばれる役目の人が舞台上にいるのですが、万が一何かあった場合は、代わって後の舞台を務めるそうです。 なぜ、途中で止めてはならないのでしょうか。能楽は神様に捧げる