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#5【忘れ得ぬ名文】2 「置きと去りの美学」後藤ひろひと ひろぐ

【忘れ得ぬ名文】とは?

言葉を読んだり書いたりすることが好きなくらたが、忘れられない名文を備忘録的にコレクションしていく記事(予定)です。

「置きと去り」後藤ひろひと ひろぐ

後藤ひろひとさんとは

後藤ひろひとさんは、吉本興業所属のタレント・脚本家・作家さんで、noteやニコニコチャンネルでも発信されています。

忘れられない名文「置きと去りの美学」

くらたは、この後藤さんが執筆されていたブログ「ひろぐ」の愛読者でした。中でも忘れられない記事が、この記事のタイトルにした「置きと去りの美学」(うろおぼえ)です。
ブログが引っ越しした際に削除されてしまったのか、現在、検索してもヒットしませんでした。
うろ覚えながら内容は下記のとおりです。

「正月にもちを食べたらうまかった」後藤さんの祖父?父?の正月の俳句からこの記事は始まります。
縁あって後藤さんに送られてくる『楽しい熱帯魚』という雑誌(現在は廃刊のようです)のある号の投稿川柳コーナーで、
「水槽を 開けてびっくり また閉める」などの、熱帯魚好きにしかわからない川柳が並んでいたそうです。何があったんだ?
後藤さんは、まったくわからなくてもこの雑誌とこのコーナーを愛読していらっしゃり、これらのまったくわからない世界から、「侘び寂び」ならぬ「"置き""去り"」を味わうとのこと。
中でも、
「ナンナカラ ◯◯◯◯◯◯◯◯ ラミレジイ」(◯部分忘れました。でも一音余ってた気がする)。
という作品が入賞しており、先ほどの「開けてびっくり」の川柳よりもこちらのほうが「置き去り速度」が速い、と表現していらっしゃいました。
さらに、「ほんとうにシクリッドが好きなんですねえ」という選評がついていたとのこと。これを読めばシクリッドが好きということがわかるのか?ていうかシクリッドって何?ラミレジイを説明するのにシクリッドを持ち出すとは何事か。
記事の最後には、ムーミンでおなじみトーベヤンソンの『スナーク狩り』のラスト、
「スナークはブージャムだったのです」
の一文を引き、この作品は難解さからさまざまな読解が示されてきたが、「"置き""去り"」を味わうものである、と締めくくられていました。

なんという感性!面白すぎる!!

理解を超えたものに圧倒されることを楽しむ

自分の理解を超えたものを「置き去り」と名付けて楽しむ。
なんという寛容!なんという美学!
後藤さんのこの文章を読んで、くらたは「置き去りを面白がる」という概念を手に入れました。

後年、自治体の広報誌を担当していたときに、地域の催しで
「みんなでさるぼっこを作ろう」
というタイトルを見かけました。「さるぼっこ」って何?と上司とともにその催しのチラシを取り寄せてみると、
「さるぼっことは、さるぼぼの子どもです」
さるぼっこを説明するのにさるぼぼを持ち出すとは何事か!これが置き去りか!
(不勉強にしてさるぼぼを知らなかったのです)

上司とともに置き去りをたっぷり味わったあと、さるぼぼについてちゃんと調べて、二人そろってひとつ賢くなったのでした。

圧倒的な知性や技術に対する敬意

くらたはもともと専門家や世の中で「オタク」と言われる人たちが、わたしの知らないことを楽しそうに話すのを聞くのが大好きです。自分もかなりオタク気質であります。
林修先生が自分の好きな偉人について好きなようにプレゼンする番組「生きざま大辞典」(2013年、TBS)を超えて林先生を生かすことができる番組はいまだ現れていないと思っていますし、「世界ふしぎ発見!」(TBS)でもっとも好きなミステリーハンターは篠原かをりさんです。
「博士ちゃん」(テレビ朝日)で葛飾北斎博士ちゃんが絵の上手さを褒められるたびに「まだ勝川春朗にも及びません」と謙遜するシーンがくらたは大好きです。勝川春朗は葛飾北斎が若いころに名乗っていた画号。くらたも含め知らない人はポカーンですが、同番組ではもはやお決まりのネタになっています。

圧倒的な知性や専門性や技術を前に、置き去りにされるのが大好きだと自覚できているのは、この「ひろぐ」のおかげに違いありません。

できることならもう一度読みたい名文です。

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