#15【忘れ得ぬ名文】5「Let It Go」古文訳詞
【忘れ得ぬ名文】とは?
言葉を読んだり書いたりすることが好きなくらたが、忘れられない名文を備忘録的にコレクションしていく記事です。
「Let It Go」古文訳詞
ディズニー映画の名曲の日本語訳詞
ディズニー映画の名曲の日本語訳詞は、日本人に受け入れられやすく、子どもでも歌いやすい、すばらしい技術のたまものであることは間違いありません。
ただ、日本語のほうが一音で伝えられる情報量が少なく、映像の口の形と似た母音にする必要もあるため、もともとの英詞が持っていたニュアンス、要素が抜け落ちてしまうことがあるように感じています。
英語原詞にあたってみたら日本語より凄烈な内容を持っていた、ということが結構あります。そしてその凄烈さこそ、キャラクターたちに芯、核、すごみ、重み、みたいなものを与えているように思えます。
くらたがそのことを最初に感じたのは、映画『アナと雪の女王』「Let it go」でした。日本語訳詞のサビはこちら。
この歌詞で「ありのままの自分」旋風が起きたことを今でもよく覚えています。自治体が行う女性の地位向上を目的とする市民講座にまで「ありのままの私が輝く☆虹色レッスン」というタイトルが躍っていました。アナ雪公開後だから2013年以降の女性向け講座でLGBTQの象徴「虹色」を使うのかあ、と思ってしまいますが、余談でした。なお、エルサはLGBTQの人々のアイコンとしても支持されています。
いっぽう、同じ部分の英語原詞はこちら。
あれ、ありのままの姿を人に見せる話なんて誰もしていない。
日本語訳では「自分がありのままでいること」に力点が置かれた表現になっていますが、原詞では「自ら集団から離脱する瞬間のほうっておいてくれという強い感慨」に力点が置かれています。
よい娘であろうとした努力がすべて失敗し、万策尽き果てて背を向けて戸を立てて出て行った人には、ありのままの姿を見せる相手などいないのです。
この違いは、結構大きいようにわたしには思えます。
原文のニュアンスを再現した古文訳
上記の点を見事に克服し、原文のニュアンスを再現したのがYoutube等で公開されている「古文訳詞」です。
え?古文訳?
古文を現代語訳したことはあっても現代語を古文に訳したことなど、日本文学専攻だったくらたでもいちどもありません。しかし、古文の単語にしかないニュアンスがある場合があるので、現実でも現代語よりも古文の単語のほうがぴったりくることがたまにあります。くらたがよく使うのは「さもありなん」と「つきづきしい」です。便利ですよ。詳しくは今度書きます。
この「古文訳詞」の見事さはまさに現代語よりも「Let It Go」の内容にぴったりきていること。
英語詞と同じ「どうとでもなれ、ほっぽって扉を閉めよう」という感慨を、見事に同じ音数で歌い上げています。
古文訳されたしばたまさあきさんは、日本国語大辞典(日本文学科でもすごい使ってたスーパー辞典。通称ニッコク。意味だけでなく初出や用例が調べられる。おそらく市区町村の図書館にもある)や和歌などにあたりながら訳されたそうです。後鳥羽院が隠岐に流された際の和歌からインスピレーション受けるとかすごすぎる。しばたまさあきさんの古文訳開設はこちら。
自由と引き換えに受け入れなければならないもの
松たか子さんが芯がありながら透きとおる美声で歌い上げた「ありのままで」のすばらしさは疑いようもありません。そしてあの原曲につめこまれた大量の情報を少ない音数で表現し、多くの日本人の心をつかんだ「ありのまま」という言葉を持ってきたのは本当にすごい。
でもそのキャッチーさによってそぎ落とされてしまった孤独感、すごみこそ、キャラクターの深みだったようにくらたには思えます。この曲前半の孤独感、絶望感が深ければ深いほど、後半、自分の力を開放していくエルサの晴れ晴れした笑顔に、その自由と引き換えに受け入れた絶対的な孤独を見て強い切なさを感じるのです。
海外では絶賛された『アナと雪の女王2』が日本では賛否両論となり2のエルサに戸惑う声が上がったというのも、この「ありのままで」訳に負うところが大きいのではないかなーなんて愚考したのでした。
くらたが大好きな叶姉妹の姉・恭子さまのファビュラスな名言に、まさに『アナと雪の女王1・2』で描かれたエルサ像を言い表す言葉があります。
アマゾンで高値がついているようですが、今見たところ公式でまだ在庫あります。ハッとする格言満載の、ファビュラスでヘブンリーなカレンダー。
もしご興味あればぜひ。