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短編小説集 『新しい風景』

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ショート・ショートを作品を収録しています。
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#短編

邪口

以前からずっと、写真から着想をえて、小説を書くことをやってみようと思っていたのですが、以下の企画を見つけ、書いてみました。 今回は以下の記事の写真から着想しました。 (※記事に完全な写真(切れていない)が載っているので、そちらをみていただけると物語とうまくリンクします) 「邪口(じゃぐち)」 「中級クラスの案件だけど。森田君、本当に一人で大丈夫?」 「ええ、問題ありません」  できるだけ堂々と、しっかりとした口調で答えたが、果たしてそれが彼女に伝わっているのか? 僕

地球の回答

 一緒にジムで筋トレをした後、頑張ったからと飲みに行き、タバコをプカプカ、酒をガブガブ「やっぱ『青汁』って相当体に良いらしいぜ」なんて話していた安藤が突然、「やっぱエコだよな、おれたちは地球を守らなきゃいけない」と言い出したのは7月の初めだったか。  例のごとく何かに影響を受けたか、まあもって1ヶ月、8月には落ち着くだろうと思っていたのだが、めずらしいことに9月になってもそれは終わらなかった。  コンビニで酒とつまみを買って、安藤の部屋をたずねると 「あっ、レジ袋買って

ブサナビ語

 私の息子は変わっている。いや、実際4歳児なんてそんなものなのかもしれない。私だって初めて親になったのだ。統計的に4歳児がどうあるかなんてわからない。ただ、私は折にふれそう思った。そして、あれが起こった。  それは雨降りの土曜日だった。妻は用事で出かけ、私と息子は二人で留守番をしていた。前日息子と一緒に8時半には眠ったはずで、睡眠は十分足りているはずなのに、その日は眠くてしょうがなかった。  私は息子とのお絵かきをいったん中止して、コーヒーを入れることにした。  専用の

マイナス成長

 マイナス成長  吉田誠もその言葉にシンパシーを感じたひとりであった。  そんな便利な言葉があったのか。  吉田は心底そう思った。おそらくその時、吉田は生まれて初めて新聞に感謝した。実際吉田は鬱々とした気分で新聞をみて、偶然その言葉を目にしたにすぎないのだが。  けれど、すぐに不安がよぎる。……果たしてそんなにうまくいくだろうか? しかしもう他に道はないように思える。だったら一か八か、それにかけるまでだった。  二人暮らしの家に戻ったのは8時。彼女はソファーに座り、