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異端児(異質な人材)の活用

環境が変化すれば、これまでとは異なるタイプの人材が必要になる

人材について、みなさんの会社ではどのように考えているでしょうか。

いま欲しい人材、すぐに活躍してくれそうな人材については能力や人物像を定義できるが、将来必要な人材像は描けていないという企業も多いのではないかと思いますが、どうでしょうか。

技術進歩が激しく、さまざまな事業機会が生まれては消える経営環境下で、いま欲しい人材、あるいは現在社内で活躍してくれている人材が将来も活躍してくれる人材である保証はありません。

将来に活躍する人材が必ずしも現時点で良い人材には見えない、ということはあるでしょう。どうしても、いま必要な人材、すぐに活躍してくれそうな人材、そして実際に活躍してくれている人材がよく見えてしまうのはしかたのないことです。

しかし、企業の成長のためには将来の事業で活躍してくれる人材を確保しないといけません。

そのためには、将来どのような人材が活躍するのかをイメージし、そのような素地のある学生や中途人材を採用し育成する必要があるでしょう。場合によっては、社内の標準からは外れるような種類の、ちょっと毛色の違う人材、従来の模範的社員とは全く異なるタイプの人材を活用する必要があるかもしれません。

どういう人材が将来必要となるかは、企業がこれから進んでいこうとする道によって異なります。

消費者もユーザー企業も変化している

いま、さまざまな事業や製品が社会性を帯びており(社会性があることを消費者から期待されており)、企業自体の社会性も問われています。また、「モノからコトへ」、「製品からソリューションへ」と企業の価値創造の主戦場がシフトしているとも言われています。

製品単体の魅力を追求するモノづくりをするのか、社会課題解決の総合的なソリューションの一部として製品をつくるのかによって、必要となる人材は異なってくるはずです。これは完成品メーカーだけでなく、部品メーカーや商社にとっても重要なテーマだといえます。

ユーザーである完成品メーカーの方針が社会的価値追求の方向に向かっているのであれば、部品メーカーもそれに合わせた部品づくりを考えなければなりません。カーボンニュートラル推進の動きなどはその典型例でしょう。同様に商社も、完成品メーカーの方針に合った部品づくりのできるサプライヤーを探して商材を確保する必要があります。

こうした動きを「これまでとは違う流れ」と捉えて、新しい流れに合わせた経営を実践しようとするのであれば、これまでとは違う人材を確保する努力が企業には求められます。

そういう人材は一見すると「異端児」に見えるかもしれません。しかし、異端児に見える人材の中に異能の人材、将来の有望人材がいると考え、そうした人材を積極的に採用、活用することが事業環境の変化への対応では重要になってきます。

異端児の将来価値に注目して投資する

商売のやり方が変わるのであれば、その新しい流れの中で儲けるためには、変わっていく流れの中で商機をつかむ才覚のある人材が必要であることは言うまでもありません。

従来型の優良人材は効率化推進には貢献するかもしれないですが、不確実な時代の保険にはなりにくいと私は考えています。株式投資でも、異なる業種に分散して投資することが長期的に見て資金を守りながら増やすことにつながると言われています。

異端児(異質な人材)への投資もそれに似ていると思います。

生物学の世界に「近交弱勢(きんこうじゃくせい)」という概念があります。近親交配を重ねることで集団内に遺伝的な多様性が失われると集団の環境変化対応力が失われ、最悪の場合、絶滅してしまいます。これを近交弱勢といいます。

企業においても、既存事業に最適化した人材が増えすぎて、人材の多様性が失われると組織の変化対応力は弱くなると考えられます。

変化が激しい時代には「これだけやっておけば大丈夫」ということは、おそらくないでしょう。そうだとすると、「こんなこともやってみたらどうでしょうか」とか「自分なら、こんなことができますが、やってみていいですか」とか「もしそういうことをやりたいなら、こうすればできますよ。自分は経験がありますから」といった「これまで組織がやってこなかったことをやれる人材(やろうとする人材)」のいる企業が生き残りやすくなります。

異端児活用の視点で人材マネジメントを見直す

異端児を活用して、その異質な発想や経験を活かすためには、これまでとは異なる人材マネジメントが必要になります。

たとえば、異質な人材を管理する場合は、同質な人材を管理する場合と比較して個別対応で丁寧にコミュニケーションをとる必要があります。異質性がネガティブな行動につながらないよう、異質な人材同士が補完しあって相乗効果を発揮できるよう、丁寧に関与していく必要があるからです。
(1人の管理職がきちんと管理できる部下の数を「スパン・オブ・コントロール(管理限界)」と言いますが、その場合、部下の数は5~8人が適切だと言われています)

そうなると、管理職の数を増やして、1人の管理職が直接管理する部下の数を減らすような人事制度にする必要がありますが、これは階層をなるべく減らしてフラットの組織にしていこうという昨今の人事制度の考え方とは異なります。したがって、異端児を活用するためには組織体制や人事制度その他を変えていかないといけなくなります。

採用についても、採用基準を見直す必要が出てくるでしょう。

均質化から多様化へ、同質性から異質性に組織のマネジメント方針を変えていくのであれば、異質でありながらも、自社にとって破壊的でない人材、自社の良いところを破壊してしまわないような人材を採用する基準を新たに設定する必要があります。
(難しいことではありますが、社内起業、新規事業開発に向いた人材といった「人材像」を明確にすれば、ある程度は人材の選定基準も面接で確認すべき点も見えてくるでしょう)

異質な人材(異端児)を採用し、活用する人材マネジメントのしくみを持っている企業は(多様性を確保しているという意味で)変化にうまく対応できる可能性が高まります。

経営陣、人事部、管理職が一丸となった取り組みを

もちろん、社内が異端児だらけになってしまっては困りますが、だからといって異端児をすべて排除してしまったら、企業には「凡庸な人材」しか残りません。

これからの時代は、異端児の将来価値を認め、異能の人材を採用・活用する工夫(異端児に投資する工夫)が多くの企業にとって重要な課題となるはずです。自社に合った異端児を採用するためには、自社の将来構想(いつの時点で、どのような事業を、どのように行っているか)を明確にし、将来の事業環境において活躍してくれるであろう人材の「人材像」を明らかにすることが何よりも大事です。

同時に、そうした人材マネジメントの戦略面だけでなく、異端児を管理し、活用していくための人事制度づくり、管理職の育成など、人事部の業務遂行能力の強化も必要になってきます。

こうしたことを経営陣、人事部、管理職が共通理解として持つことで、ある程度リスクを軽減しつつ、異質な人材(異端児)を採用・活用することが可能になるでしょう。

(執筆者:中産連 主任コンサルタント 橋本)
民間のシンクタンクおよび技術マネジメント系のブティックファームを経て現職。現在は、中堅・中小企業における経営方針の策定と現場への浸透の観点から、コンサルティングや人材育成を行っています。

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