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「伝わりやすい話し方」について

今回は他人に話をするとき、特に自分の考えやアイデアを他人に話すときの「伝わりやすい話し方」について、私が日々コンサルタントとして心がけていることを中心に解説します。


他人同士、話が通じないのが普通

仕事をしていると様々な立場の人とコミュニケーションを取ります。そして、「話が通じない」という経験をたくさんします。

なぜ、話が通じないのでしょうか?

答えは簡単で、人は自分がいつも考えていることとは違うことを言われたら、普通は理解できないものだからです。

大事な話になればなるほど、みんなが自分の考えを持っています。そして、深く考えれば考えるほど、自分の考えやアイデアが頭の中を占めてしまって他人の話を受け付ける余地がなくなります。

そうでない場合でも、理解力や性格上の特性で他人のアイデアを受け入れることが難しい人もいます。事前情報の情報格差によって状況や解決策についての受け止め方が食い違っていることもあります。

このように、様々な理由で人は他人の考えやアイデアを受け付けにくくなっているのです。つまり、何の工夫もしなければ、基本的に自分の話は相手に通じないと思った方がいいです。

では、そのような他人に、どうすればうまく意見を伝えることができるでしょうか?

私は3つのことを心がけています。

実は、私自身も自分が伝わりやすい話し方をしているかどうかよくわかっていません。ただ、20年以上コンサルタントや研修講師をやりながら試行錯誤しているので、それなりに失敗から学んでいることも多いと思っています。

ですので、以下では私が失敗(と多少の成功)の経験から学んだ「伝え方の工夫」をお伝えしたいと思います。

伝え方の工夫①:相手の思考の形に合わせる

伝え方の工夫の一点目は「相手の思考の形に合わせて伝える」です。

誰にでも「思考の形/枠組み」というものがあります。すでに持っている知識や経験によって形成された「考え方の癖や特徴」のようなものです。同じようなスポーツ経験者であっても、サッカー経験者と野球経験者では持っている知識や考え方が異なります。

たとえば、サッカー経験者が誰かにサッカーの戦術の話をしたとします。このとき、相手がサッカーのことを知らなかったら、いくら懇切丁寧に説明しても、相手からは「理解不能でマニアックな話をする人」と思われて終わりです。

この場合、もし相手が野球経験者で野球に詳しいのであれば、話を野球に例えて話すことで話が伝わりやすくなります。

図にすると、以下のようになります。

図表1

本当は「丸い話」をしたいのですが、相手の思考の枠組みが「四角」なら「四角い話」に寄せて話した方が伝わりやすいということです。

もちろん、これでは伝えたいことは正確には伝わりません。しかし、何も伝わらずに相手を混乱させるよりは、はるかにマシです。

伝え方の工夫②:話のトーンを落とす

伝え方の工夫の二点目は「話のトーンを落として伝える」です。

トーンには、「音、色、語気」という意味があります。トーンを落とす、つまりトーンダウンというのは「音、色、語気をなどを和らげる」という意味になります。

話のトーンを落とすことについては、色で考えるとビジュアル的に理解しやすいかもしれません。

プレゼンテーション資料を想像してみてください。

普通、資料で強調したい部分は文字に色をつけたり、色のついた枠で囲ったりして目立つようにします。ただし、強調したいからといって赤やピンクなどの鮮やかな色を多用するのは逆効果です。

もちろん、赤やピンクは目を引くので、強調したい部分を目立たせるのには都合がいいです。しかし、赤やピンクを多用するとかえって読みにくくなり、結果として資料の説得力が低下してしまいます。

それと同じで、話においても強すぎる主張には、聞き手に拒否反応を引き起こし、伝えたいことが伝わらなくなるリスクがあります。

たとえば、問題のある社員について管理職が「あんな奴はクビにしろ!」と言ったとします。

これは、かなり強い表現です。言われた人は「この管理職はちょっと感情的になっているな」と思って、発言を本気にしないかもしれません。

この場合、たとえば「彼(問題のある社員のこと)は、いまの仕事が向いていないようだから職種転換を進めてみようか。場合によっては降格ということもあるかもしれないが、まずは職種転換で様子を見て、その後のことはそれから考えよう」と伝えると、聞き手は「あ、この管理職はちゃんと理性的に考えているな」と思い、話をまじめに聞く可能性が高まります。

図にすると、以下のようになります。

図用2

場合によっては「極論」を言うことは話にインパクトを与えますし、議論を刺激しますが、いつも極論や大胆すぎる意見を言っていると聞き手が疲れてしまい、聞く気をなくしてしまいます。

強い主張をしたいときこそ、表現をトーンダウンして聞き手の負担を軽くした方が話が伝わりやすくなります。

伝え方の工夫③:話をダウンサイズする

伝え方の工夫の三点目は「話をダウンサイズして伝える」です。

「相手が理解できる分量だけ話す」と言ってもいいです。

伝えたい内容が(相手にとって)あまりにも情報量が多すぎる場合、それを一気に伝えてしまうと、相手は思考停止に陥ってしまうか、一旦は受け入れても結局は消化不良で理解できないということになります。

これでは、苦労してアイデアや意見の全体を伝えても意味がありません。

こういう事態を避けるためには、1回の話を相手が理解できる分量に抑えて話すことが有効です。これは手間のかかる伝え方です。本当は一気に全てを話したいのですが、それを複数回に分けて根気よく話すのです。

図にすると、以下のようになります。

図表3

複数回に分けて話すことで「一緒に理解していく」という経験を共有することもできます。これは副次的な効果ですが、経験の共有が共感を呼び起こせば、こちらの言っていることを相手が理解しようと努力してくれる可能性が高まります。

こういう手間暇をかけることは、相手との関係性によっては意見の正しさ以上に重要だったりします。

聴くことで相手の思考を知る

最後に、これら3つの工夫を実践するために必要なことをお伝えします。

それは、「相手の話をよく聴く」ということです。

相手の思考の形に合わせるのであれ(第1の工夫)、相手が受け入れやすいようにトーンダウンするのであれ(第2の工夫)、相手が理解可能なようにダウンサイズするのであれ(第3の工夫)、相手がどのような事前知識や考えを持っているのかを知らなければ、それらの手は打てません。

「聴くことが大事」というとき、もちろん聴く行為そのものが大事だということはあります。聴くことによって相手との距離が縮まることも多々あるので、聴くこと自体に意味があるのというのはその通りです。

しかし、そこからさらに踏み込んで、聴くことによって「相手の思考」を理解し、その理解に基づいて話し方を工夫すれば「話の伝わりやすさ」は格段に高まります。

聴くという土台の上に、今回紹介した3つのテクニックを使えば、会議などで誤解や対立が生じる事態を回避し、建設的な議論に時間を割けるようになるでしょう。


(執筆者:中産連 主任コンサルタント 橋本)
民間のシンクタンクおよび技術マネジメント系のブティックファームを経て現職。現在は、中堅・中小企業における経営方針の策定と現場への浸透の観点から、コンサルティングや人材育成を行っています。


今回の記事に関連して、中部産業連盟では会議の進行支援やファシリテーション研修、営業ヒアリング研修などを行っています。これらの支援にご興味のある方は以下の連絡先までご連絡ください。

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