世間知らずの起業物語 その22
僕の知らないところで起こり始めていた人事の問題。
北条から村上さんにバトンタッチされた管理部は、さらに僕の目が届かなくなっていた。透明性を求めてバトンタッチしたはずが、逆に怪しい影を落とした出来事であった。
管理職会議 その3
そして、そのときはやってきた。
会長の中で試行錯誤した体制が、経営会議で発表される日であった。
みんなが思っているそれとは、もちろん違う。
季節は流れ、ジメジメとした梅雨にスタートしたこの話も、暑い夏も終わろうとしているこのときに終結しようとしていた。
あの会長室で話した、僕と村上さんと桜田さんの3名が新しい会社に移る、という体制が発表されるのだ。
会長:「えー、最終的な体制を発表しようと思います。」
会長:「新しい会社には、佐藤さん、村上さん、桜田さん・・・」
プロジェクターで映し出された体制表。
多くのメンバーが目を丸くし見入っていた。
僕:『(あれ・・・)』
その1人に僕もなろうとは思っていなかったが、聞いていたのと少し違っていた。
上野が、カワミーから外れ、雄介さん(会長の息子)の会社の専属になっていたのだ。
会長:「えー、上野くんには、息子の会社で、2人で発電所を作ってもらおうと思っています。」
山田:「え?それはなんのための会社なんですか?」
会長の新企画検証のための会社?と聞いていた僕も、同じ言葉が口から出そうになっていた。あれは雄介さんのための会社ではなかったのか?と自身の認識と異なりそうな状況を不思議な感覚で会長の言葉に耳を傾けた。
会長:「あー、これからの新規事業のための実験するための会社ですよ。発電所の架台を新しいメーカーのものを使ったり、パネル枚数を倍以上乗せて動くか?とか。新しいことを試す会社ですね。だから、発電所も作らないとね。上野くんが中心になって。」
山田:「え?新しいことを試すんですか?」
疑惑の会社
山田:「それに、上野さんをとられちゃうと・・・」
確かに山田の言うことは理解できる。
グループの工事担当は、東野ただ1人になる。経験も一番浅い。
山田:「ただでさえ、佐藤さんの新会社も必要か?ということを検討していたのに、なんでももう一社増えるんでしょうか?まだ、新会社はリソースを移していく、ということなので、それはコンプライアンス上の問題回避というのは分からなくもないのですが・・・」
東野:「え!? 僕ひとりで作るんですか?」
東野、お前は自分の負担の心配だけか・・・。
他のメンバーからは何もなかった。
いつも通り、上野はニヤニヤしながらその話題を聞くだけで、北条は相変わらず体調が悪い様子を醸し出し言葉を発せないことを主張していた。
僕自身は、新旧メンバーの複雑な思惑から現状の業務改善もできず、事業も膠着しているグループの現状に対して、何もできない自分自身へのフラストレーションは大きくなっていた。だから、新会社の不安はあるものの、リソースを移して新しい基盤を構築する、ということができるのであれば、グループにとってそれはひとつの道筋だと感じていた。
しかし・・・だ。
それは、グループに北条と山田が、そして、オマケなのかもしれないが上野が残るから成り立つ話だった。
自治体申請責任者の元コンサルの高橋や工事担当の東野も新会社に移ることにならないのであれば、リソースを移すという意味合いは薄くなる。
会長はリソース移行する計画、と言っているものの、上野の雄介さんの会社への参加は、元々の計画をボヤけさせるのには十分な内容であった。
会長:「これからのグループとしては、3社で同じように、申請から工事、そして販売までできるようにすることで、グループ基盤を盤石にしなければならないんです。まずは、3社でそれぞれ独立した会社として、役割を考えてください。」
新しい体制の正当性を、癖のある強い口調で、会長は話した。
(最初の話と随分変わってきたぞ)
これから始まるグループの迷走が始まる・・・、いや、新しい会社という名の泥舟がスタートラインに立った瞬間であった。
つづく
※この物語はフィクションです
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