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沸点36℃

2019年春「スタッフとして大学日本一を獲る」
中央大学サッカー部の門を叩いた。

マネージャーか学連か。最初の1か月とても悩んだ。
両方魅力に感じる部分はあって当時の4年生のスタッフの先輩に大迷惑をかけたのが昨日のことように思い出される。
そしてマネージャーとして活動することを決意した。
自分の存在価値が分からず、何気なく毎日を過ごし、マネージャーとしてこのチームについていくのが精一杯だった。そしてインカレ3位。自分の目標は叶いかけた。

凄いチームに来たと思う一方で、このまま日本一を獲ったとしても心から喜べるのだろうかと強く思った。きっとどこかモヤモヤが残るだろうなと3位の表彰式を見ながらそう感じた。

自分の存在価値が分からないでいたからだ。
いつしかこのチームに自分はいなくても成り立つと考えれば考えるほど本気で辞めた方がいいんじゃないか。違うチームか違う部活にでも行こうと思った。
このチームでなにも成し遂げていないのに。

夢にまで出てくるくらい苦しくて母に相談した。

「賢人のこと、必要としてくれる人が1人でもいるなら、その人のためにやってみたら?」

そのとき、頭を駆け巡ったのは高校2年の春。
「バチバチバチ」と膝が音を立てた。
前十字靭帯断裂。ここからだってときにシーズンが終わった。悔しくて涙が止まらなかった。
そんなあるとき、千羽鶴が渡された。チームメイト、高校の同期、サッカーと受験勉強の両立で忙しいはずの先輩、夜遅くまで部室で自分の為だけに折ってくれたマネージャー。
それから仕事の前後、往復1時間半を毎朝と部活後、送迎してくれた母。
みんな見返りも求めずただただ私のためにしてくれた行動だった。

他人の力がこんなに自分を奮い立たせてくれるんだ。
今度は自分がサッカーで苦しんでいる選手を支えたいと思った。
そうだ。だから自分はスパイクを脱ぐと決めたんだ。
これこそが自分だけの存在価値じゃないか。

それなのに、自分が上手くいかないくらいで悩み、逃げ出すのはスタッフ失格だ。そして何より本気でサッカーに向き合う選手に失礼だ。

そう気付いた大学2年生のあの日。

自分が学生トレーナーになることを心に誓った。でもこのチームに学生トレーナーというポジションはなかった。ないなら作れば良いと思ったがなかなかうまくいかなくて心が折れそうになったことは何度もある。それでも自分がこのチームで持つ価値を発揮しなければ意味はない、絶対に諦めないと挫けそうになるたびに心で思っていた。

どれだけきつくても自分がベッドで寝ている間に戦っている選手がいると思えば自然と1日3回グラウンドに向かっていた。そしてトレーナーとしての能力はほぼ0に等しかったのに心意気を買って自分にチャンスとアドバイスをくれた登士郎さんや当時のBチームの4年生。そして必要として頼ってくれたBチームのみんな。
絶対にこの人たちのためになろうと思った。まさに快進撃でGL無敗で突破、劇的ゴールの数々。気付けばあれだけ辞めようと思った自分が嘘のように目の前の練習、試合に没頭し、情熱を注いでいた。

そのとき、利他の心を知った。
そしてそれと同時に自分が最高に幸せなことに気付いた。

他人に尽くすために自分を磨くことで自利が得られる。
「自利利他」という言葉に出会った。
今でも心の支柱はこの考えであり、チームのためにやることはすべてのベースだ。
それが自分に跳ね返ってくる。
そこからは嘘のように自分自身が描いた青写真が実現されていった。
学生トレーナーになること、チームにスポンサーがつくこと、サッカーだけじゃない事業本部が出来たこと。

ただひとつチームの成績を除いて。

2年次に違和感に気付きながらも何もしなかった自分に腹が立つほどの惨敗で2部降格。
昨季は22試合すべてに帯同したものの、終盤での失速、最終節での劇的敗戦で入替戦出場権を失い1部復帰ならず。自分自身が描いていた姿を実現したとしてもチームの成績が振るわなければそれ以上に悔しいことなんてない。
そしてゴールを決めることも守ることもできない自分は何ができただろうと考えれば考えるほど自分の心と行動が甘かったことを後悔した。
もっとアップやリカバリーで何かできたんじゃないか、もっとこのチームを焚き付けるような言葉を伝えればよかったんじゃないかと。

よく創コーチが選手に練習後「頭の中で考えているだけでは、考えていないのと一緒だ」と言っている。これ多分自分に一番必要なことだなっていつも思う。
だから今季は違和感に気付いたらきちんと話すことにした。
本当に自分が言うべきなんだろうか、どうやったら伝わるだろうかと何度も頭の中で反芻し、言葉にする。でもそれがみんなのプレッシャーになっていたかもしれないと思うと申し訳ない気持ちで一杯になる。ごめんなさい。

それでもこれだけは変わらないことがある。

自分がこのチームで一緒に戦うことができた選手、スタッフ。
全員が俺の誇りだ。
みんな俺の誇りだから何があってもどんなことが起きても俺はみんなを信じる。

後期の日大に負けたあとに言ったことだ。
本当はこのブログで伝えたかったことだけど、このまま終わったらやばいと思って伝えた。そこから自分自身も純粋にみんなに託そうと決心がついた。
もう自分がとやかく言わなくてもチームのために戦える情熱的なチームになった。
ゴールが決まる瞬間、勝利のホイッスルが鳴る瞬間、ベンチメンバー、応援してくれる仲間たちが声を大にして喜ぶ瞬間、自分の情熱は沸点に達する。そしてもう泣かないと決めても、苦しんでいた岡井や歩、4年生の復活でチームが勝つたびに泣きそうになる。
自分1人だけでは、沸点に達することなんてないし、泣くこともない。
自分が当たり前だと思っていた毎日は、みんなとこのチームで出会うという奇跡があったからこそ過ごすことが出来たんだな。ありがとう。

最後簡単にメッセージを記す。
同期へ。
同期のみんな、マネージャーが美人女子大生じゃなくてごめんよ。
そして何より、ラストシーズンみんなそれぞれのカテゴリーで上手くいってなくてもそれを表に出さずにチームのために熱く戦っている姿は忘れない。
それでも最後は中筑定期戦やIリーグ、関東リーグで4年生の力で勝利に導く姿は最高だった。学生スポーツは消費期限がある。だからこそ4年生の心が大事だと改めて実感した。
最後はみんなで岡井を胴上げしよう。

後輩たちへ。
君たちは日本一を獲る力を持っている。だからこそチームのまとまりは大切だ。
選手だろうがスタッフだろうが立場は関係ない。このチームを勝たせたいと思う気持ちを行動に移せば嫌でも熱くなれる。チームのために、仲間のために頑張ればどんな形かはわからないけど何かを得ることが出来る。少しだけ真に受けて頑張ってみてくれ。
たまに応援に行くよ。

さあ、明日は最終節だ。
いつもと変わらず熱く戦うよ。
昨季最終節と同じ時間、同じ会場。最高のリベンジの舞台じゃないか。
ピッチに立つ11人もスタンドにいるメンバーも1人1人が主役だ。
みんなの人生のストーリーに「優勝」という最高の同じ景色を描こう。
沸点は自分自身、みんな自身だ。そしてそれは仲間に伝播する。
だから熱く戦おう。俺はみんなを信じぬくよ。

吉田賢人

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