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この世で一番、百人一首が嫌いだったころ

この世で一番、百人一首が嫌いだった。
コイツさえいなければ成立しなかったのに・・・と、
藤原定家を心の底から憎んでいたほどである。

とばっちりを受ける定家


1、百人一首を嫌った理由

私の中学校では、国語の冒頭に、百人一首でカルタをとる習慣があった。

「百人一首をするので、ペアを作ってください!」

クラス中に散らばっていた点と点が線で結ばれるように、2人組が作られていく。ただ一点取り残された私は、その場から動けずにいた・・・


と文学的に書いてみるが、要は
「ぼっちなのでペアを作るあてがなく、大変みじめな思いをしていた」ということだ。

ぼっち経験のある方にはお分かりいただけるかと思うが、

「はーい2人ペアつくって〜!」

ほど殺傷力の高い言葉はない。どの時代においても、ワースト大賞が獲れるほどのキラーワードである。
ちなみに人数が奇数の時に限って余るのは、まだまだアマチュア。
プロぼっちは、偶数でもなぜか余る。

「二人組」の聖地こと鴨川沿い


百人一首は密かなハンティングであった。決して「鷹狩り」のような優雅なものではない。さまざまな事情で余っているひと(友達が欠席している、いつも3人組で行動など)を目ざとく探し出し、声をかけ続けた。

ぼっちのくせに、とにかく炙れないことに必死だったのである。
誰もが当然のようにペアを作って着席している中、ただ1人立ちすくんでいる哀れなヤツ。
見せしめになるのを恐れ、教室を右往左往した。


余りものを探す目からは思わず涙が


2、逃げるが勝ちか、負けなのか


そんなぼっち炙り出し選手権こと百人一首が、週3〜4回行われていた。あまりにも多い。多すぎる。
いつしか私は、どうにかして百人一首から逃げられないだろうかと考えるようになった。

「教室に盗聴器を仕掛けて、百人一首が始まったらトイレに隠れ、終わりの合図が聞こえたら教室に戻る_」

というめちゃくちゃな計画を本気で企てていた。
そして、盗聴器がそう流通されていないことを知り、ひどく絶望したおぼえがある。
盗聴器史上、こんなにバカバカしい使い道はないだろう。ぼっちに免じて、使わせてほしかったところである。

盗聴器にすら同情されそうな使い道である


もっとも、何度か「エスケープ」を試みたことはある。
使い古された手法だが、仮病と遅刻である。


ある日の百人一首の時間、私は「お腹が痛い」と嘘をつき、保健室へ逃げ込んだ。
昨日は何を食べたのか聞かれたので、「蒸し鍋です」と答えた。蒸し鍋には何を載せるの?と追加で聞かれたので、
「はあ、もみじおろしを少々・・・」と答えたところ「通だね〜!」と返され、会話が終わった記憶がある。

食あたりの濡れ衣を着せられた蒸し鍋


ある冬の百人一首では、仮病ならぬ仮遅刻をした。「雪でバスダイヤが乱れ、仕方なく遅刻したヤツ」を全力で演じたのだ。そこまでの大雪ではないし、他に遅れた者はいなかった。明らかに不審である。

1限をサボった足でコンビニへ向かい、『闇金ウシジマくん』を買い、貪り読んだ。までは良いのだが、
「コミュ障&無気力ゆえの失業で生活保護をもらい、没落していく男」
顛末が己と重なり、めちゃくちゃ病んだ。

せめて『こち亀』とか『クッキングパパ』とか買っておけば、慰めにもなったろうに。

そのまま重い足取りで学校へ向かう。
あえて雪山に突っ込み、履いていたジーンズに雪をぶっかけた。さも雪山を突き抜け、命からがら登校してきたかのように偽装した。
先生からは訝しげな目を向けられたが、それ以上追求されることはなかった。


雪山から降りてきたのかと問いたい


エ ス ケ ー プ 大 成 功 

内心ほくそ笑みながらも、
「このまま一生、逃げ続けるんだろうか」と我に帰る。私には一寸先どころか10km先の闇まで見えている。ガッキーでも星野源でもないので、「逃げれば逃げるほど恥」である。
(「こんなんじゃダメだ!」と思い立ち、高校デビュー!を試みたのだが、この話はまた別の機会に触れることにする)

3、おわりに

今になって振り返ると、小心者ぼっちのちっぽけな悪あがきである。
いっそのこと、百人一首の札という札を全部燃やしてやろうかと思うほどに当時の私は追い詰められていた。
百人一首にしてみれば、飛んだとばっちりであろう。とにもかくにも、あの頃の私は心の底から百人一首を憎んでいたのだ。

いや、本当に憎んでいたのは、
「二人ペアすら作れぬ現状から、逃げ出してしまう自分の脆さ」だったのかもしれない。

・・・。

ところで今年の大河ドラマ『光る君へ』は紫式部を中心とした平安貴族の物語である。私も、このnoteを執筆する傍で見ていた。
まさか平安貴族の彼らも、自分の歌が編纂された結果、1000年越しに怨みを買っているとは思うまい。

P.S.全国の先生たち、どうか二人組を作らせないであげてください





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